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1/2

その1の1

試し書き。

2話だけ投げます。





 地球では無いどこか。



 フラウント王国の首都、王都フラウナ。



 広い都の中央には、国王が住む王城が有った。



 その玉座の間には、国王であるミガーテ=ジークアイの姿が有った。



 ミガーテは、玉座に座り、宮廷魔導士長のビョウ=ジャックと対面していた。



 ミガーテは、派手な赤い衣装をまとった、中年の王だった。



 髪色は茶で、鼻の下と顎に、立派なヒゲを生やしていた。



 ミガーテは玉座の左右を、槍を持った兵士に守らせている。



 対するビョウは、20代ほどの、ひょろりとした男だった。



 顔色が悪く、頬がこけている。



 髪は美しい銀の長髪だが、それがかえって、彼に病的な印象を持たせていた。



 体には、黒のローブを着用している。



 これは、この国の宮廷魔導士の証だった。



 ミガーテが、ビョウに言った。



「ビョウ=ジャックよ。


 お前に勇者の召喚を命じる」



「勇者……ですか?」



 国王の意外な言葉に、ビョウは疑問符を浮かべた。



「知らんのか?


 宮廷魔導師長ともあろうものが」



「いえ。


 書物で目にしたことはあります。


 異世界から呼び出される、


 並外れた力を持つ戦士たちの事ですね。


 ですが、なぜ?」



「なぜ……だと?


 世界が七邪竜の


 脅威に苦しめられている今、


 なぜかと問うか」



 この世界には今、6体の凶悪な竜が存在している。



 居るだけで人への害を撒き散らす、恐るべき災厄だ。



 邪竜の討伐は、この世界の人々の悲願だと言えた。



 国王は、その邪竜を倒すため、勇者を呼ぼうと考えているらしい。



「それは……その……」



「出来るのか。出来んのか」



「おそらくは、可能かと思われます」



「やれ」



「ですが陛下。


 召喚によって呼び出される者たちは、


 この国の民ではありません。


 この世界の人間ですらありません。


 無関係の者たちです。


 そんな者たちを、


 同意無く召喚し、戦わせるのですか?」



「呆れ果てたぞ。ビョウ=ジャック」



「えっ……」



「無辜の民を救うため、剣を取る。


 これは正義だ。


 男は皆、生まれながらにして、


 正義を行わなくてはならぬ。


 これは義務だ。


 その義務に、世界の差異など関係が無い。


 力を持つ勇者であれば、


 この世界を救わねばならん。


 そうであろう?」



(本当にそうか……?)



 この世界の平和は、この世界の人々で守るべきでは無いのか。



 ビョウは内心で、そう感じていた。



 だが……。



「これは王命だ。


 逆らえば、罪に問われると思え」



「……わかりました」



 王命に逆らうことは出来ない。



 ビョウが勇者を召喚することが決まった。




 ……。




 決定の日から、1ヵ月が経過した。



 儀式の場は、王城の広間に決まった。



 宮廷魔導士たちにより、大がかりな準備が進められた。



 その成果として、広間には、大きな魔法陣が設置されていた。



 勇者を呼ぶための、召喚陣だ。



「陛下。勇者召喚の準備ができました」



 全ての準備を終えたビョウが、国王にそう告げた。



 魔法陣の周囲には、国王とその護衛の兵士、さらには宮廷魔導師たちの姿が有った。



「ならばやってみせろ」



「御意に」



 ビョウは、召喚陣の外周の辺りで、膝をついた。



 そして、魔法陣に手を伸ばした。



 ビョウの手が、魔法陣に触れた。



 ビョウの魔力回路と、魔法陣の回路が接続された。



 ビョウは自分の手から、魔法陣に魔力を流していった。



 ビョウの魔力は膨大だ。



 大量の魔力が流れることで、広間が大きく震えた。



「おお……!」



「これが魔導師長の全力……!」



 周囲に控えていた魔導師たちが、驚嘆の声を上げた。



(別に全力じゃ無いんだが……。


 まあ良いか)



 下らないことを考えながら、ビョウは魔力操作を続けた。



 だが……。



「う……ごほっ」



 突然に、ビョウが吐血した。



「魔導師長!?」



 新米の宮廷魔導師が、慌てた様子を見せた。



 だが多くの者は、特に揺らぐことは無かった。



「構うな。続けさせろ」



 表情1つ変えず、国王はそう命じた。



「……はっ!」



 ビョウは儀式を続けた。



 そして、成果が見える時が来た。



 魔法陣が、強い輝きをはなった。



 広間中が、白い光に包まれた。



 そして……。



「多いな」



 国王がそう呟いた。



 ビョウは、召喚陣の上に現れた者たちを見た。



 魔法陣の上に、大勢の男女が出現していた。



(六十……二人か)



 ビョウはその人数を、瞬時に断定した。



 魔法陣の上に立つ60人は、まだ年若い少年少女だった。



 大人はたった2人のようだ。



 彼らは皆、似たような衣服を身に付けていた。



 男子は黒の詰襟服。



 下半身にも、上着と同じ生地の、黒いボトムを着用していた。



 女子はみんな、同じ青色のスカートをはいていた。



 上着は白が基調で、エリやソデの色は、スカートと同じ青だった。



 ……ビョウは一瞬で、そこまでを観察していた。



 出現から少し遅れて、若者たちが騒ぎ出した。



「えっ?」



「ここは?」



「あれって王様じゃね?」



「おまえ髪の毛の色、変わってるぞ」



「おまえもだけど」



「ステータスオープン! ステータスオープン!」



(言葉は通じる。召喚の儀はうまくいったようだ)



 ビョウはそう考えた。



 勇者召喚の儀式には、召喚された者への、言語能力の付与も含まれる。



 それがうまくいったようで、ビョウは安心した。



「勇者さま。どうかお静まりください」



 ビョウは、王城の人々を代表し、若者たちに声をかけた。



「あなたは?」



 ハタチ後半くらいの、メガネをかけた男性が、ビョウに問いかけてきた。



 黒髪で、背は平均よりほんの少し高いくらいか。



 おとなしそうな外見だが、その物腰はしっかりとしていた。



 彼らの保護者だろうか。



 ビョウはそう推測した。



「私はこの国の宮廷魔導師、ビョウ=ジャックという者です。


 このたびは、我々の召喚陣により、


 みなさまを、勇者として召喚させていただきました」



「召喚……?」



「私たち、拉致されてしまったのでしょうか?」



 銀髪の女子が、そう呟いた。



 彼女はすらりとした体格の、品の良い美少女だった。



 彼女の呟きの直後……。



「この犯罪者があああああぁぁぁっ!」



「っ!」



 茶髪の4白眼の男子が、怒声と共に、ビョウに殴りかかった。



 ビョウはそれをよけられなかった。



 ビョウの頬に、少年の拳が突き刺さった。



 ビョウは立っていることができず、地面に倒れた。



「う……」



 背中を地面に付け、ビョウは呻いた。



「おい! ハセガワ! いきなり何をしてるんだ!?」



 眼鏡の男性が、ビョウを殴った男子に、声をかけた。



 少年の名は、どうやらハセガワというらしい。



 ハセガワは、眼鏡の男性を無視し、さらにビョウに襲いかかった。



 彼はビョウにまたがり、拳による追撃をくわえた。



「犯罪者にっ! 鉄槌だ! このっ! このっ!」



 拳の雨が、ビョウの顔に降りそそいだ。



 どこかをチラチラと振り返りながら、ハセガワはビョウを殴り続けた。



「陛下……」



 兵士の1人が、国王に声をかけた。



「ほうっておけ」



 国王は、小さくそう呟いた。



「ぐっ……! うっ……!」



 ビョウは抵抗することが出来ず、ハセガワに殴られ続けた。



「やめろハセガワ!」



 眼鏡の男性が、ハセガワに掴みかかった。



「サトセンごときが、俺に命令してんじゃねえ!」



 ハセガワは、眼鏡の男性を振り払い、再びビョウを殴りつけようとした。



 そのとき。



「やめていただけますか?」



 銀髪の女子が、凛とした声で言った。



 氷雪のような視線が、ハセガワに向けられていた。



「サ……サクラガワさん……」



 彼女にそう言われたことで、ハセガワは、今までに無い動揺を見せた。



「こいつは俺たちを拉致した、悪いやつで……」



 ハセガワは、自己を正当化しようとした。



 だが、サクラガワという女子の視線は、冷たいままだった。



 冷めた表情のまま、サクラガワはハセガワを咎めた。



「そうですか。


 それはそれとして、人を殴るときに、


 こちらをチラチラと見るのは、止めてもらえますか?


 私が暴力の理由にされているようで、


 気分が悪いです」



「う……」



 痛い部分を突かれたのだろうか。



 男子は居心地悪そうに、ビョウの上から立ち上がった。



「……命拾いしたな。オッサン」



 小声で呟き、ハセガワはビョウから離れていった。



 自由になったビョウは、上体を起こした。



「ごほっ……ごほっ……」



 ビョウの口から、ぼとぼとと血が流れた。



「あの人血を吐いてる……」



 女子の1人が、気の毒そうに言った。



「テメェ。口の中切ったくらいで、おおげさにしてんじゃねえぞ!」



 ハセガワがビョウに怒鳴りつけた。



「……もうしわけありません。勇者さま」



「勇者? 勇者ね。


 選ばれし者ってワケだ? 俺たちは」



 ハセガワはそう言うと、ニヤリと笑った。



「勇者どの」



 国王が前に出た。



「アンタは?」



 ハセガワが、値踏みするかのように、国王に問うた。



 一国の王への態度としては、無礼だったかもしれない。



 だが国王は、気にした様子を見せなかった。



「私はこの国の王である、ミガーテだ。


 このたびは、


 宮廷魔導師の暴走により、


 このような拉致事件を起こしてしまい、


 申し訳無いと思っている」



「暴走……だって……?


 アンタは……」



 かすれた声で、ビョウが言った。



 勇者の召喚は、国家事業だったはずだ。



 それをなぜか、ビョウ1人の仕業のように言われている。



 ビョウは困惑して、ミガーテを問い詰めようとした。



「その犯罪者を黙らせろ」



 ミガーテが、周囲の兵士に命じた。



「えっ……?」



 ビョウは、王国守護の功労者だ。



 国家を代表する天才魔導師だ。



 そんな大人物に対しての、無慈悲な命令。



 兵士たちは、困惑して動けなかった。



「王命が聞けんのか。


 アレを打ちのめせと言っている」



「はっ!」



 命令を重ねられたことで、ようやく兵士たちは動き出した。



 兵士たちは、ビョウを囲みこんだ。



 そして、槍の柄の部分で、ビョウを殴りつけた。



「ぐ……あ……」



 既にハセガワから、手痛い暴力を受けている。



 彼の肉体は限界だった。



 ビョウは意識を失っていった。



「乱暴はやめてください」



 冷え冷えとした少女の声が、ビョウの耳に残った。



 冷たい声なのに、ビョウにはなぜか、温かく感じられたのだった。




 ……。




「っ……」



 ビョウは目覚めた。



「起きたか。大罪人」



「ここは……?」



 ビョウは上体を起こし、周囲を見た。



 ビョウは周囲3方を、石壁に囲まれていた。



 そして、1方には、鉄格子が見えた。



 ここは牢屋だ。



 ビョウはそれに気がついた。



 鉄格子の向こう側には、兵士の姿が見えた。



 兵士はビョウの疑問に答えた。



「ここは城の地下牢だ。


 罪を犯したお前には、お似合いの場所だな」



「罪だと……?」



「しらばっくれるな。


 国王陛下に内密で、


 城の広間に改造をほどこし、


 独断で、勇者さまを召喚した。


 恐れ多いことだ」



「陛下は……召喚の責任を……全部俺に押し付けるつもりか……」



「無礼だぞ。


 ここで貴様を切り捨ててやっても、


 誰一人困らないということを忘れるな」



「…………」



(俺に罪が無いわけじゃない。


 異世界の若者たちを、


 強引に、この世界に拉致した。


 それは紛れも無い事実だ。


 裁かれること自体は仕方が無い。


 けど……。


 それがアンタのやり方かよ。国王陛下)



 泥を被せるにしても、やり方というものが有るだろうに。



 不義理が過ぎる。



 ビョウの国王への忠誠心は、その根元までが絶えようとしていた。





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