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7話 出会い

お読みくださり、ありがとうございます。

冒険とは、好奇心の追求、である――――


 かつて、俺の父さんが言っていた。

 それは己の中から生まれ、発見、探検、挑戦……へと駆り立てると。

 名誉が貰えるわけでもなく、利益があるわけでもない。

 それでも―― もたらすものがなくても、危険と隣り合わせだとしても、好奇心がある限り、欲求に従い、敢えて試みるものだと。

 なぜ,もしかしたら死ぬかもしれないのに、危険を冒してまでわざわざ向かうのか。

 最初は意味がわからなかった。

 だが、とある出来事が俺を変えたのだった。






 ――ハァッ、ハァッ、ハァッ


 何でこんなところに迷い込んでしまったんだろう。

 俺の頭には後悔の言葉で埋め尽くされていた。

 地図では単純に見えていた道順が実際に森に入ると複雑で、まるで迷路のようで四方八方同じ光景が続いている。

 どうやら地図に書かれていない道が存在するようだ。

 うっかりその道に入ってしまったらしく、今自分はどこにいるのか検討がつかない状態になってしまった。

 今の俺はもしかしたら一生ここから出られないのではないか、という不安の感情で心が支配され、押しつぶされそうになっている。

 さらにこの暗闇と静まり返った不気味さが一層、俺を弱気にさせるのだ。


「こんなに心細く感じたのはいつぶりだろう・・・」


 少しでも不安を紛らわすため、どことなく誰かに話しかけるつもりでつぶやく。


「やっぱ怖いよね〜」


「ヒィッ!?」


 独り言で呟いた言葉に返事が来るほど怖いことはない。

 それも俺しかいないこの森の中で。


 精神的な不安から起きた勘違いかもしれないと思い、


「・・・誰?」


 と、冷や汗が体の至るところから出ているのを感じながら、俺は声がしたと思われる方向に振り返り、問いかける。

 だが、返事がない。静まり返ったままだ。

 やはり俺の勘違いで恐怖ゆえについに幻聴が聞こえるようになったのか?

 あまり暗闇の中で動き回るとまた方向が分からなくなってしまうので、元の方向を向くため体を動かした方向とは逆向きに戻すと、

 目の前にオレンジ色の炎に照らされた顔が浮かんでいた。


「ばあっ!」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――」



「うるっさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっっ!!!!」


「あんたの声のほうがうるさいわ!!甲高い声出しやがって。こっちはびっくりして心臓が止まるとことだったぞ」








「――いや〜ごめんね。驚かしちゃって。びびりながらきょろきょろしている君の様子が面白くって、つい」


 少しとぼけた顔でチロッと舌をだす、少女。


「あんた、悪趣味だな。まじで死ぬかと思ったぞ」


「ほんとにごめんって。てか、きみはどうしてここにいるの?」


 俺のことを見ていたらしいその少女は俺の置かれている状況を俺の口から直接言って欲しいらしく、わざとそんなことを訪ねてくる。


「おい・・・知ってるだろ。分かってて聞いているだろ。迷子だよ、迷子」


「あら〜迷子ちゃんか〜かわいそうに」


 予想通りの言葉を棒読みで返され、少しイラッとくるが、落ち着け俺。

 こいつも俺と同じこの場所にいるってことは――――


「・・・・・・どうせ、お前も迷子だろ」


「・・・お前って言うなし。私の名前はシャルロッタ。君は?」


 シャルロッタと名乗った目の前の少女は、返答はしなかったが、彼女の置かれている状況は沈黙の長さと表情を見る限り、どうやら予想は当たっており俺と同じようだ。

 だが、この状況でもうひとりいるのは心強い。二人で協力してなんとかしないといけないので今は仕切り直そう。


「俺はマティアス」


「マティアスかぁ。かわいい〜。ああ、待って置いてかないでよぉ!」


 ・・・と思ったが、前言撤回だ。この先少し不安になってきた。




 俺と彼女はこの森で出会った。

 シャルロッタと名乗った、意地悪癖がある彼女のことは少し苦手だったが、彼女の存在は一人で心細かった俺の心を少しずつ温めてくれた。




 かなり長い距離を歩いたが道中、幸いなことに魔物は出てこなかった。

 その間お互い少しでも気分を明るくしようと雑談をし合ったが、

 シャルロッタは結局、この森にいる理由を話してくれなかった。だが、様子からして彼女も恐らく俺と同じ迷子だろう。だが、言えない事情もあるような気がする。

 それは出口を探しているというより、行く宛もなくさまよっているという感じがしたからだった。

 それに、思い返すと会話の節々でシャルロッタが見せる笑顔はどこか笑顔じゃないような気がした。

 少し、諦めているような・・・何だろう、引っかかるな。

 それより、なぜあのとき、大声を出したんだ?

 何かいるか分からないこの森の中で。

 このままでは状況が何も変わらないので、俺は本題に切り出すことにした。


「なあ、シャルロッタ。どこに向かっているんだ?」


「ん?・・・どこにも向かっていないよ」


「え?どういう意味だ??」


「聞いたこと無い?ここ、一度入ったら二度と抜けられない、迷いの森って言われているの」


「まじかよ、初めて聞いたわ」


「私、ドジだなぁ。地図に載っていない道につい入ってみたら、元の道に戻れなくなっちゃった・・・」


 シャルロッタも俺と同じことしているな。ただ、俺の方は気づかずに地図に描かれていない道に入ってしまったが。


「ああ・・・ドジが2人か」


「ドジって言うなし。改めて言われるとムカつく」


「悪い。・・・てか、これからどうするんだよ」


「どうもしない」


「このままだと、死ぬぞ」


「・・・・・・それでもいい」


「バカ言え、とりあえず移動しよう。落ち着いてゆっくり考えられるところに移動したい」


 彼女の言動から「あきらめ」の感情があるのが分かる。

 だが、まだ死ぬような状況ではない。俺のバックの中には4日分の食料もあるし、水も残っている。

 2人で分ければ、何とか2日は持つだろう。だが ――――


「そんなところ無いよ。一人のときに遭遇した低レベルの魔物は道中倒してきたけど、それ以外にもこの森の中にはとんでもなく大きな魔物がいる感じがするし。このまま移動し続けないといつかは追いつかれる可能性があるし、それよりもさっき大声出したからもう位置ばれているかも」


『おいぃぃぃ、なにやっているんだよっ!』


 大きな声で位置がばれたかも、というとんでもない情報を聞いてしまい、俺はつい無声音での会話に切り替えてしまう。

 彼女は俺と出会った時、大声を出した時から本当に死ぬつもりだったのかもしれない。


「本当はね、君が来るまで心細かったんだ。なんかこの地図間違っているみたいだし。私、ここに数日間、迷い込んでてね、道中遭遇した魔物は何とか倒してきたけど、もし魔物に負けたらもう、そのまま死のうかなって。魔法もたくさん使って魔力もすっからかんだし!!」



 シャルロッタはびっくりするような話をしたような気がしたが、そのことよりも彼女が俺に一瞬見せた地図に違和感を覚えたことが気になっていた。ああ、そうか ――

 ――待てよ・・・もしかしたら


「シャル、諦めるのはまだ早い!!」


「シャ・・・シャル!? え、早いって何がぁ!??」




 ―― グオオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!




(くそっ、よりによってこのタイミングで!!)


 この雄叫び。声量からしてシャルロッタが言っていた、かなり大きな魔物だろう。

 やはりあのときに位置がばれてしまっていたか。


「きゃああああああ!!」


 シャルロッタは恐怖のあまりしゃがみこんでしまった。

 この状況は彼女が予想していた中でも最悪の状況だろう。

 この現状を目の前にするだけで、俺も足がすくみそうだ。


 低い唸り声を出して木々を揺らしながら現れたそいつは魔物というより、猛獣。

 赤く燃え上がらせた二つの目は俺たちを捉えると、一歩一歩向かってきた。


 だが――それでも。


 俺はシャルロッタの腕を取り、支えるための体制になる。


「シャル!!立てるか?立ってくれ!お願いだ!」


「立てないよぉぉ!足に力が入らない・・・」


 足の力が抜けてしまった人に対して、立ってくれなんてすぐには無理なことくらい俺にも分かっている。酷なことを言っているが、体制を立て直さないとこのままでは俺たちがやられてしまう。

 あの魔獣が近づいてくるたびに、思いついた作戦の成功率が少しずつ下がっていく。

 だからこそ、つい焦ってしまうのだ。

 だが、俺だけが焦っていてはだめだ。ここは2人で切り抜けなければならない。


 俺と彼女はこの森で出会った。

 意地悪癖があって、天然で、ドジなところがある彼女のことは今でも少し苦手だが、彼女の存在はこの森で一人心細かった俺の心を少しずつ温めてくれた。

 彼女は半ばあきらめかけていたが、俺と会話してくれていたときは、それでも元気に振る舞ってくれていた。

 そのおかげで今や俺の心は燃え上がっている。


 ――ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ


 心臓が力強く脈打つのが分かる。

 よし、これならいけるぞ。体は動く。

 それにまず、試したいことがある。

 さっき、一瞬見たシャルロッタの持っていた森の地図、

 記憶が正しければ重なるはず。

 俺は自分が持っている地図を広げ、記憶の中で重ねる。


 ―――― やっぱりな。


 実際に後で確かめてみよう。とりあえず、移動だ。


 パチンッ


 シャルロッタの目の前で強めに指を鳴らし、一瞬でも驚きが恐怖を上回ればいい、強制的に意識をこちらに向ける。

 思惑通り、何が起こったか分からないという顔をしたシャルロッタの正面にしゃがみ、顔を見据え俺は語りかけた。


「シャルロッタ、出口がある。この森を抜けるぞ。こっちだ」


「えっ!?」


 俺はシャルロッタの手を引いた。

 シャルロッタの足も自然と立ち上がった。

 よし、いいぞ、今のシャルロッタは恐怖よりも驚きのほうが勝っている。

 これなら走れそうだ。


 魔獣が出現した方向とは反対の方向に走る。

 俺たちが動いたのを見て、魔獣も追いかけ始めた。

 幸いなことに魔獣の足は遅い。

 これなら何とか逃げ切れそうだ。

 走りながらシャルロッタは俺の手を握り直した。


「ねぇ、マティアスの手、温かい!魔力すっからかんだったのが、なんだか少しずつ回復しているような気がする・・・!」


 よくわからないが、それは良かった。


「じゃあ、最後にあいつにお見舞いするか?一発入れればきっと退くだろう」


「うんっ!」


 戦意を取り戻してくれたようで俺は安心した。

 魔獣とは距離を取ることはできた。もう少し走れば、落ち着いて話す時間は取れるだろう。

 出口に向かう最後の分かれ道の前までたどり着くと、


「シャルロッタ、ここで一旦ストップだ。地図を出してもらってもいいか?」


 シャルロッタから受け取った地図と俺が持っていた地図を重ねる。

 少し出てきた月明かりに照らすと、重ねたことで見えていなかった道が浮かび上がる。

 この地図は二枚で一組だったのだ。


「うそ・・・道が出てきたっ・・・!」


「この道を行けば出口に行けるはず。だが、その前にここでやつに一発いれよう。この場所は今後、誰でも通れる森にしたいからな」



 ―――― グオォォォォォォォォォォォッ!



 正面約二十m先に、遠くからでも分かる巨体が現れる。


「シャルロッタ、やつの足止めを頼む!」


 それだけ言うと、俺は前方に向かって駆けた。推進力を生むために。


「了解!」


 シャルロッタは両手を広げて詠唱を始める。


『――シャルロッタ・ヴェステルべリの名のもとに、留まれ、レイジングバインド!』



 空から一筋の稲妻がほど走り、魔獣に直撃した。

 シャルロッタが魔法を詠唱したのだろう。

 詠唱はよく聞こえなかったが、これは雷系魔法か?


 直撃した雷撃は魔獣を伝い、直下の足元に電場が形成され、その電場の範囲内にいる魔獣の動きを止めた。


 ――拘束系魔法か。だが、威力が強すぎて俺も近づけそうにない。それなら――


 俺は走っていた足に急ブレーキをかける。

 だが、急には止まれるはずはなく、俺の体はまだ前へ動こうとしている。

 同時に体の軸はバランスを取るため、前へいこうとする力を殺さずにその勢いを利用し、肩に担いでいた重量のある大剣を後ろから前へ持ってくる。


「おりゃあっ!!」


 推進力は斬撃力へと変わる。

 下方向から上方向への切り上げとそのまま、上方向から下方向への振り下ろしの二連撃技。


 ―― ズザザザザザザッ


 クロスした二連撃の斬撃は形を保ったまま、魔獣へと向かっていき、地面に後を残しながらX状に切り裂く。


「グルォォォォッ!」


 血しぶきを上げ、断末魔を上げた魔獣はそのまま後ろに倒れていった。

 俺の後ろから駆けてくる足音がする。


「マティアス!!倒しちゃったよ!!すごいよ!!」


 シャルロッタは喜びのあまりか、そのまま俺に抱きついてきた。

 成功できたのは一度諦めかけていた心を立て直してくれた、シャルロッタの協力が合ったからだ。だから俺は、


「シャルロッタのおかげだよ」


 と正直に思ったことを告げた。


「本当にありがとう。私、正直諦めていたから生きて帰れると思っていなかった、ありがとね」


 生きて帰れる、って本当に素晴らしいことなんだなと実感する。

 今日は近くで宿を借りて羽根を伸ばしたい。


「・・・帰ろっか」


 シャルロッタは俺の隣に立つと、俺の問いに静かにうなずいた。

 そして俺たちは一緒に出口へと続く道へむかった。



 なぜ、もしかしたら死ぬかもしれないのに危険を冒してまでわざわざ向かうのか。

 最初は意味がわからなかった。

 だが、少し分かったかもしれない。

 これで合っているかな、父さん。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


修正等があれば随時、加筆修正します。

更新は不定期になりますが、今後ともよろしくおねがいします。

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