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5話 反撃


 「あとは俺たちに任せな!少し休んでから参戦してくれ!あの魔物の弱点は花びらについてる2つの目玉だ!何とかしてどちらかを潰してほしい。」



 あの魔物、ローズフラワネスの弱点は、本物の目なのか謎だった、不気味な目玉模様の部分だった。


 その目玉模様は私たちの動きを感知するための感覚器官になっていて、振動や、呼吸音、私たちが発していたすべての音を捉えることができていたようだ。


 それらの音からおそらく、感情なども汲み取られていたのかもしれない。



 「分かりました。目玉模様を1つ潰せば良いんですね」



 「そうだ、片方でも潰せば魔物にとって半分の側面が死角になる。そこが勝機だ。」



 私たちに告げると、大斧を持っている相方のもうひとりの冒険者に目で合図をし、飛び出していった。



 「マティアスさん、私たちも一息したら彼らに参戦しましょう!そして早く、戻りましょう!」



 「そうですね!俺たちも戦いましょう!」





 彼らが助けに入ってからは、戦況は大分変わった。


 私たちが戦っていたときは、攻撃と守備に間があったが、彼ら戦い方には間が無い。


 一人が攻撃すると、すぐにもう一人が攻撃しているので、攻撃が繋がっているのだ。


 魔物も最初は攻撃を受けたらすぐに反撃をしていたが、今は防御寄りになっている。


 蔓は斬られてもすぐ再生しているが、再生してもまた彼らはすぐに切断する。


 私たちが苦戦した棘を出す余裕がないほど、再生の方に力を回しているようだった。



 「ヴェスタリカさんは、弓を射ったことはありますか?」



 「――ええ、昔に。ですが、遠くからは射れません。確実に当たる距離は……10メートルといったところでしょう」



 過去の記憶を遡ると、やはり私の必中距離は10メートルで少し離れると稀に外してしまっている。


 「確実性」、を求められるこの戦場で、「不確実」なものが起きてしまうのは極力、避けなければならない。


 たとえ、稀でも――。


 過去に射ったときは、落ち着いて射ることができる環境下の中でだった。


 この状況の中では、緊張もするし、射ることができる回数も3本しか無いので3回と限られている。


 だが、今は彼らが魔物を引き付けてくれている。


 私の方に攻撃が来ないだけでも「落ち着いて射ることができる環境」と思わなければならない。


 また、3回しかチャンスが無いのではない、3回もチャンスが有る。


 加えて、別に2つの目玉模様を潰さないといけないという訳でもない。


 片方でも潰せば良いんだ――――


 失敗したらどうしようという不安が拭えない中、自分に言い聞かせていると、



 「――ヴェスタリカさん、きっとうまくいきますよ。こちらに攻撃が来たら俺がなんとかしますので、ヴェスタリカさんは気にせず集中してください。」



 私の様子を察してか気にかけてくれる。



 「――ッ。距離10メートル、狙いは目玉模様の少し上――――」



 集中するため、深くゆっくり息吐く。


 矢が描く放物線を意識して少し上に狙いをつけ、弦を引く。


 矢を顎まで引いたところで最後の微調整をする。



 シュッ――――!



 ローズフラワネスの目玉模様の少し上をめがけ放った矢は、直進し、狙い通りに数センチ上を通り、外れてしまった。


 少し上に狙いを定めすぎたようだ。


 実際、矢がどのように飛んでいくかは弓の弦の強さによって違うので一度射ってみないと軌道は分からない。


 対象が動くことと、矢が放物線を描くことを考え、狙いを定めたが、予想以上に弦が強く、この距離だとあまり放物線を描かなかった。


 だが、外したといっても偏差を意識した狙ったところには行ったので、これなら修正すれば何とかなりそうだ。


 先ほどの結果を踏まえ、もう一度構える。


 矢を引いたところで一度止め、タイミングを伺う。


 私が攻撃したことを感知したのか、蔓がこちらに向かってきたような気がしたが、 それらはマティアスが対処してくれるので、マティアスを信じてローズフラワネスからの攻撃は無視する。


 私が矢を放ち再び狙いを定めていることに気づき、彼ら冒険者達の攻撃が強攻撃に切り替わり、強い衝撃を受けてローズフラワネスが動きが一瞬止まったところで――



 シュッ――――!



 2本目を放つ!


 空気を切り裂く音を放ちながら、矢は直進し、吸い込まれるようにローズフラワネスの右側の目玉模様に突き刺さった。



 「よしっ!」



 「ナイスショット!お嬢ちゃん!よくやった!」



 とマティアスと彼ら2人の冒険者が同時に叫ぶ。



 「グギィィィィッ――!」



 ローズフラワネスは大事な目玉模様を1つ潰されたことで、激しく暴れながら、私に向けて反撃の蔓攻撃を仕掛けてくるが――すべてマティアスが切り刻む。


 驚くことに斬られたその蔓は再生していなかった。


 そのことにマティアスも気づき、彼らの方を見る。



 「――あの矢の鏃には即効性の毒が塗ってある。毒性は弱いが、やつの再生を阻害させるだけの手助けにはなるだろう。よし!蔓が切れ、がら空きになった胴体に渾身の一撃を叩き込むぞ!」



 「「おっしゃー!」」



 再び気合を入れた、彼らとマティアスは最終ラウンドに向け、ローズフラワネスに向かって駆けていった。




 




               ※※※※※※






 私が目玉模様を一つ潰してからは、戦闘がとても楽になった。


 目玉模様を潰した右側は魔物にとって死角になり、私たちの存在を感知することができなくなった。


 魔物は私たちを感知しようと動き回るが、常に死角に立っていれば攻撃を受けることは無い。


 肝心の胴体は蔓よりも太く簡単には切れないようだったが、マティアスも2人の冒険者と息を合わせ、次々に斬撃を加えていったことで傷が深くなっていき、あと少しのところで、マティアスの技――迷いのないあの最初の戦闘で見せた、4連撃を的確に当て、ついに斬り倒すことに成功したのだった。


 ローズフラワネスが寄生していたキング・フラワースライムの方は、体力を吸い取られていたのか、すでに動いていなかった。


 幸いなことにキング・フラワースライムについていた大量の花は、傷ついておらず――依頼目的だと知っていた彼らは花を傷つけないように気をつけながら戦闘をしていたようだ――依頼の方も同時に達成することができた。


 助けに来てくれた彼ら冒険者たちは、さらに奥の方に用事があるとかで先に行ってしまうようだったので、私は疲れていて何とか重い腰を上げ、ギルドに今回のことを報告し謝礼を送るため、彼らの名前と住まいを聞き、最後にもう一度感謝の礼をした。


 彼らを見送ったところで緊張感が溶け、長時間の戦闘と精神的な疲れも溜まっていたので、帰路につく前に私たちはここで一旦、休むことにした。


 マティアスは相当疲れていたようですぐ地面に仰向けになると目を閉じた。


 


 「彼らの名前は、一番大柄の方はルフ、もうひとりの方はレオンと言うらしいです。もともと私たちがいた場所よりさらに奥の方に行く予定だったそうで、近くを通っていた時、信号玉の光と音に気づいて駆けつけてくれたとのことです。


 ですが、最初はそこら中に倒れているフラワースライムを見て自分たちと同じ目的の人が既に先にいると思って、焦っていたらしいですが――」



 さきほど、2人の冒険者、ルフとレオンから名前と住まいを伺ったついでに聞いた話をマティアスに伝える。


 

 「…………」



 マティアスは眠ってしまったのか、無言のままだ。


 反対方向を向いているので、分からない。



 「ともあれ、彼らが信号玉の音と光に気づいて、救援に駆けつけてくれて助かりましたね!依頼もクリアしましたし!」



 この話を終わりにするため、私が簡単に話を締めようとすると、マティアスは目を閉じていたが話は聞いていたようで、私の方に体の向きを変えると、



「――――ええ、そうですね」



とそっけなくつぶやき、急に立ち上がった。



「ん?マティアスさん?」



そして、少し何かを考える仕草をした後、少し私の方に顔だけ向け、こう告げたのだった。



「あなたもいったい何者なんですか。」



最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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