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3話 絶対絶命

お読みいただきありがとうございます!

――ドオォォォン


 大きな衝撃とともに、私たちの頭上から勢いよく落ちてきた、「それ」は私たちの唯一の脱出経路を塞いだ。

 土煙をあげ、顕にしたのは、キング・フラワースライム――

――ではなく、キングフラワー・スライムの後ろに寄生している、ローズフラワネスだった。

 太い幹から、何本もの蔓が伸びており、頭と思われるところに、深紅の色をした、大きな花。

 その花にはフラワースライムについている花よりも不気味さを感じさせるほどの目玉模様が付いており、こちらをぎろりと睨んでいるように思える。

 ローズフラワネスはこのフラワースライムの生息エリアの事前調査では確認されていなかった、そもそもこの地域にはいるはずのない、魔物。

 特徴は魔物に寄生し、体力を吸い取りながら自身を強化していく。また、魔物を操ることで攻撃をすることも可能で、ローズフラワネスの触手での攻撃に加え、対象の魔物自身が持つ攻撃手段を使うこともできるので魔物レベルB級の厄介なモンスターだ。

 事前調査――マティアスのようなジゼルニア学院を卒業して冒険者になったばかりのまだ経験の浅い冒険者たちが安全に探索ができるように、私たちギルドは定期的に遭遇する魔物をあらかじめ調べている。

 彼らは卒業したあと、最初に冒険者登録をするために学院より下地域にある、都市リナイ――私たちが働くギルド本部を訪れる。

 そのため、その周辺地域は念入りに事前調査を行っている。

 他の地域にも支援ギルドはあり、その地域は凶暴な魔物が多いが、経験豊富な冒険者が多く、駆け出しの冒険者はいない。

 その地域ではギルド職員による事前調査は難しいので新種の魔物などの未確認の魔物の情報は彼らの冒険による発見に頼るしか無い。

 なので、冒険や依頼に出れば新種の魔物が出るのが日常茶飯事だが――

 都市リナイにある本部と他の地域にある支部で管轄している周辺地域――リューンベリ地域は、最近大規模な事前調査を行い、情報を更新したばかりだそうだ。

 調査を行ったばかりなのにこのような事態になるのはかなりまずいことである。

 これは調査漏れだ。

 帰ってからギルドに報告し、再調査をしなければならない。

 目の前で起きていることを無事に解決できたら……だが。

 確率はかなり低いが、勝機はある。

 キング・フラワースライム相手だったら、防ぐことのできない広範囲に渡る毒の散布に苦戦しそうだったが、この寄生型魔物、ローズフラワネスは対象にしっかりと寄生しなければ、操ることはできない。

 接続状態次第ではもしかしたら襲ってこないかもしれない。

 マティアスも同じ様に考えているのか、背中に挿している剣の柄には右手で触れているが、刀身を見せるような攻撃的な姿勢にはならない。

 私たちがするべき行動は、2つ。

 まずじっと待ち、相手を刺激しないこと。

 最悪な場合だが、相手が動きを見せたら、むやみに応戦をせずに隙をみて逃げること。

 大事なのは、無理に勝とうと思わないこと、逃げるのも大事。

 私たちの勝利条件は逃げ切ることだ。

 マティアスには伝えておきたいが、今は動くべきではないだろう。

 マティアスがじっとしている以上は大丈夫だ。

 私の額には冷や汗が出始め、感じられるくらい心臓の音も大きい。

 もしかしたら周りに聞こえているのではないか、と思えるくらい不安も募っていく。

 ローズフラワネスも微動だにせず、私たちを見守っているからだ。

 花についている目玉模様から視線を感じるのだ。

 窪んだ花の部分には影ができ、それが口にも見え、目玉模様と相まって、まるで微笑しているかのよう。

 一人で向かい合っていたら、耐えられないだろう。

 彼が、マティアスがいるから何とか踏ん張れている。

 今まで微動だにしていなかった、目の前の魔物が急に動き出す。

 首を傾げたのだ。

 性格には首を傾げたように見えた。


 「――ニイィ」


 実際には聞こえていないが、そのように聞こえたように感じた時――――


 「ヴェスタリカさん、下です!!」


 マティアスが叫び、


 「下!?」


 私が地面を急いで確認すると、土がもぞもぞと動いているところを見つけた。

 それは、勢いよくこちらに向かってくる――

 私たちはそれぞれ左右にジャンプする。


 「危なかったっ……!」


 先ほどまで自分の体があったところを飛び出してきた蔓が襲ったところだった。

 寸でのところで躱せたようだ。

 今飛ばしてきた蔓はローズフラワネスの右の部分、人間で言う右手に当たる。

 だが、気づかなかった、蔓が地面を張っていることに。

 おそらく、あの花の目玉模様には目をそらさせる力があるのだろう。

 右手を引き戻したローズフラワネスは、左手を横薙ぎに振るってくる。


 「躱しましょう、しゃがんでください!」


 私たちはローズフラワネスと十分な距離を開けているので、不意打ちさえこなければ初動を見てからでも十分に動くことができる。

 縦横無尽に振るっているように見えるが、どうやら、右手はでは縦方向に、左手では横方向にと向きはそれぞれ固定されているようだ。

 これなら避けることができる。

 だが、今のままでは、魔物は移動させることができず、位置は変わらない。

 マティアスは背中の鞘から剣を抜き、私に目で合図を送ってきた、少し仕掛けるということだろう。

 私も彼にうなずいた。

 このままでは逃げ道が作れない。

 横薙ぎに振るってきた左蔓を最小限の動きで躱したあと、鞭のようにしならせて縦に振るってきた右蔓が地面に突き刺さった直後、マティアスはその蔓に渾身の一撃を見舞わした。


 「ッ!――――」


 蔓が張って伸びていたお陰か、切断することに成功したと思った……その一瞬は。


 「ギィィィィィァァァッ!」


 私たちの知っている音ではない、叫び声がこの森全体に響き渡る。

 もともと蔓には1つの気配しか無かったが、今この瞬間から2つ、いや複数になった、気がした。

 何かまずいことがおこりそうな雰囲気だ。


 「うわぁぁぁぁぁ!!」


 マティアスの叫び声――――


 彼の方に振り返ると、蔓からは複数の細長い棘が伸びており、そのうちの一本が彼の腕に刺さっていた。

 マティアスは無理に引き抜かずに剣で切り落とし、魔物の攻撃圏内から逃れるため、さらに距離を取った。


 「すみません、状況をさらに悪くしてしまいました。」


 マティアスは痛みに耐えつつ、私の方へ寄ってきた。


 「どのみち、別の行動を取るしか無かったのでしょうがないと思います。それよりマティアスさん、腕は大丈夫ですか?」


 彼の腕をよく見ると、刺さってはいるが貫通はしていないようだ。

 マティアスはズボンのポケットを探り、一つの赤い玉を取り出した。


 「何ですか……それは?」


 私の質問に答えるより前に空高くに向けて投げた。



 「キィィィィィィン――――――」


 赤い玉は空中で弾けると、けたたましい音とともに、赤い火玉を揺らした。


 「これで……ここ周辺にいる、他の冒険者さんたちが、気づいてくれると良いのですが……」


 どうやら、赤い玉は救難を呼ぶための信号玉のようだ。

 あの音ならかなりの距離まで響くだろうし、ゆっくりと落ちる赤い火の玉で場所が分かる。

 冒険者の中で広まっている道具のひとつなのだろう。

 私たちが魔物から距離をさらに離したので、ローズフラワネスは鞭の攻撃可能範囲内に収めるためか少し前に前進してくる。


 「マティアスさん、毒が回っているかもしれないので、一応これを飲んでおいてください。そして、棘は抜いたらこの薬草で消毒し、この包帯で手を巻いておいてください。その間、私が盾で防いで、時間を作りますから!きっと冒険者さんは気づいて来てくれます、信じましょう!」


 私はマティアスに毒消し薬と薬草、包帯を渡すと、彼の前に出て盾を構えた。

 あの魔物が出てきたときに盾を返すべきだった。

 盾を持っていれば左手を怪我することにならなかったのかもしれない。

 起きてしまったことはしょうがない。

 何とか今は、マティアスが回復する時間を私が作り、マティアスが体勢を立て直すまでこらえるだけ。

 それしかない。

 きっと誰か来てくれるはず。


 「ヴェスタリカさん――」


 「――もし、無事に戻ることができたら、さっきの話の続き、弟さんの話をしてくれませんか。」


 少し毒が回ってきたのか、少し喋りづらそうにして話す彼の声をを背中越しで聞いた。


 もし戻ることができたら――


 いや、絶対に戻って見せる。

 そして私もちゃんと話をしよう。

 さっき話すことができなかった、弟の話を。

 その話をするために今はこの状況を何とかするんだ。


 そう心に決め、私はローズフラワネスに相向かった。





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