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DEATH▶GRANT ですぷれいぐらんと

『何か欲しいものはないか? だいたいのことは叶えられる』




 死神の声、それは少女に届く。が、返答はない。




『君が望むなら金を与えられる。権力(ちから)を与えられる。感覚も、声も与えられる』




 返答はない。



 溜め息を吐く死神は、段ボール製の家を打ち上げる。空気摩擦からなる火種は肥大化し続け、尽きて灰に成るまで二酸化炭素を排気(はき)出した。



 それに腕を突き向ける。少女の自己動作ではなく、死神が手を引いている。



 引かれるがまま宙を飛び、長方形型に高い建造物の屋上に裸足を着ける。見下げれば赤い警光灯を舞わす四輪駆動車が惨状を侵し、見上げれば翅を溶く陽が燦散(さんさん)と地を覗く。



 熱を保たない鉄柵は、少女の掌から暖を盗る。それに相対し、気味悪い温風を室外機が吹かす。



 少女は、柵に下を這わせる。分泌量の不足した唾液には、乾燥した粘膜から滲む血が混在している。鉄分を求め、肉皮が擦減(まひ)るのも気に留めず、衛生環境の良いとは言い難い棒を舐め回す。



 ガリ、パリ、キュキ、と塗装を剥ぎ鳴らす。その音は剥ぐ音なのか、削れる歯の音か。



 再度溜め息を吐く死神は、小さく何かを呟いた。



 瞬間、少女の首が一周半螺子(ねじ)れる。裂ける直前と呼ぶに相応しく程皮膚が張り、それこそ螺子部、螺旋状の溝のような皺が入っている。だが、千切れはしない。今にも動脈の挽けそうな勢いではあるが、頸椎関節液の気泡が弾け負荷と音を生むが、気管を圧し呼吸を詰み乱すが、生命に一切の別状もない。




『見えるかい? 見えないか。それは良いことだ。死神が見えるのは死の淵を練り歩く奴のみ……簡単に容姿を(さら)す悪魔とは違うから、ね。


 まあ、願いがないなら仕方ない。事を話そうか。


 君は死神と、契約をした。人間時間で一年後、死ぬと言う代償を(もっ)て。当然得るものもある。例えば今の首を限界以上回しても支障のない状態のように、人智を超えた肉体的能力。水の一滴も腹に溜めずとも一月は生存でき、四肢が刎ねたとて危なげのない生命力。その他諸々。


 んむ、わかっている。なぜ君を選んで契約を押し付けたか、だろう。目的がある、()()()()()()()為だ。理解し難いものは極力説明しよう。が、これに関してはそのまま。それ以上にも以下にもなく、そのままの意味。もしそれが可能であれば、君も共に連れよう。そうすれば、代償として()れた寿命も還せる』




 あまり少女は理解しきれないらしく、常々難しく表情を(しか)めている。




『……わからなければ都度言ってくれれば良い…………か』




 狗の増援が、屋上を仰いでいる。



 一人の雄が、少女に指を向け、どこかに連絡を繋げて喚いている。一人の雌が、只今危惧すべき対象を睨み附ける。その目は少女と似て違う、私情から()る人間的な闇を孕む。

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