DEATH▶ANGEL⇐START ですぷれいえんじぇる⇐すたーと
総てを消し飛ばそうとする風が吹き荒れる。硝子の鎌鼬が街行く人々の表面を削り取り、第二第三の少年が内なる核を弾消させた。
燃えるような熱に犯され、突き刺すような音に魘される。
死神は、磨くのも飽きてきた大鎌に陽射しを照火らせるが、色を奪われたようにも思える黒煙が巨大な灯を飲み込んだことにより、荒野を照らす一筋の光すら零れなくなった。
明るさのない世界に溶け込み幽憂らぎながら、喜努愛楽も狂怒哀落も根本から宿していない瞳は、一人の幼子に向けられる。
それは老い枯れること永遠になく、先を若く生きることなく、簡潔な死の淵に沿って陀羅駄等と彷徨っている。雨に撃たれ、風に曝され、煙に舞かれる。それを付け狙う執はケタケタと気味悪く穢らわしい嗤い声をあげ、大弾の天召を無闇矢鱈に降らせる。
粒はそれの耳を掠め、肩を穿ち、脚を翔ばし、心を賤く抉る。あえて、頭蓋に孔を空けヒトを散らせぬように、緻密な悪戯を、当の神仏本人は悪戯もなく行う。
物語の幕が上がらなくなる寸前、尽き抜けるような突風が執を揺さ振り、ぱらぱらと音を経てていた羽が折れ、胴体を廻しながら、見た目だけ格好洋く気触れた建物を巻き込んで、内に棲んだ寄生蟲二匹諸共絶えた。
神風に乗り跳ねて来た鉄屑を、言葉そのままの意味で身体の一部である鎌を犠牲に打除けながら、死神は意思の形を明確化させ、吸い寄せられるようにそれに近付く。いや、「ように」ではなく、死神は実際に吸い寄せられた。それには、そんな魔力があった。
死神は、その魂は、ただ、ヒトが欲しかった。
不満足ながらもある程度自由に稼働できる四肢廿指。限られるもその時まで絶えず鼓動を続ける心臓。意味のない思考に最たる価値を付与する脳。
体温を、息を、快楽を、痛みを、情を、愛を、希望を、絶望を、無力を、才を、好を、嫌を、感動を、無関心を、不必要を、徳を、醜を、美を、何かを、総てを。
“神”を関するモノもわからない、特異な想いを馳せて。
それに、存在しないはずの長く美しく繰ねる指で、ふっと撫でるように優しく触れる。
ぐちゃぐちゃな黒と汚点に塗れていた世界が、白く染まる。
死神は綺麗な軽い羽根を付け、“存在”を付与された。闇に混ざった魂は明確なカタチを持ち、命を刈る鎌の代わりに生命そのものを受け取った。
それが捲った幕の先には、綺羅びやかな物語が映っていた。