「やったか?!」「この程度ですか?」を繰り返すこと百年、裏ボス生活がやめられません
連載にしようと思ったのですが一発ネタにしました。
私は旅の商人。ダンジョンの途中で旅人を回復したりアイテムを販売したり、攻略情報を提供する。
ただし、旅人パーティが一定の条件を満たした場合は別だ。
「腕試しをしませんか?」
皆、怪訝な顔をする。またまた、みたいに誰もが真に受けない。
ましてや彼らは魔王をも討伐した最高クラスのパーティだ。
そう、その一定の条件というのは旅人パーティが世界最高クラスになることだった。
この人達は自分達相手に一介の商人の少女が敵うわけがないと思っているはず。
「冗談だろ? さすがに勝負にならないよ」
「そうでしょうか。私、こう見えても結構強いんですよ?」
「じゃあ、ちょっとだけな……」
さりげない存在を装っている私は現在、裏ボスプレイ中だ。
私に勝ったら何かあげようかなと思ったけど、この人達は富も名誉も得ている。
その余裕があるせいか、どこか私をせせら笑うかのような表情だ。
「怪我しても知らないぞ……?」
アレクスが聖剣を抜く。ブライアが魔神の斧を握る。キャルが魔導王の杖を振りかざす。テイシーの両手から本が浮かんで、高速でページがめくれる。
ちょっとだけ、なんて言いながら本気の様子だった。
* * *
「やったか?!」
私に命中した最強の古代魔法はダンジョン全体に響き渡らんばかりの轟音をあげる。
女神の導きにより集まった英雄パーティ4人のうち、すでに2人は倒れていた。
アイテムも尽きて、今のが最後の一撃だったのかもしれない。
「この程度ですか?」
「……ウソだろ?」
数々の試練を乗り越えて、絆を深めた少年少女達は魔王を倒して英雄になった。
今やそのレベルは60を超えている。でも、そんな英雄の魔法ですら私には――
HP 10455/12000
「こ、こいつ全然HPが減ってない!」
魔物のデータを調べるスキル【アナライズ】をテイシーが使用して驚いている。
12000という数値は私が日本にいた時に好きだったRPGの隠しボスのHPだ。
つまりこれでも抑えてるんだけど、今のこの子達には絶望でしかなかったみたい。
そんな英雄達の今のHPは――
アレクス HP 146/457
ブライヤ HP 0/522
キャル HP 0/380
テイシー HP 94/406
「もうアイテムもない! どうするの!」
「最後まで諦めるな! あの時もそうだっただろ!」
英雄専用装備を身に着けたリーダーのアレクスが、テイシーを奮い立たせようとしている。
たぶん魔王を討伐した時のことだ。そうやって試練を乗り越えたのだから、こんな少女くらい。きっとそんな油断もあったんだと思う。
事実、私は見た目だけならこの子達と変わらない歳だからだ。でも実際はこの世界に転移して百年になる。私はこの世界において、いわゆる不老だった。
「終わりみたいですね」
「ライトニングソードッ!」
勝ち目はないのに果敢に奥義を繰り出してきた。閃光とともに私の体が斜めに斬り上げられる。
HP 10202/12000
「なんだよ……! 何なんだ、こいつ! 魔王よりも遥かに……」
「カタストロフ」
英雄達が守りの構えを見せるも、無駄だった。
「うわあぁぁぁ!」
「いやぁぁ!」
空間全体が破裂したかのように、この場には音と光だけが残った。
アレクス HP 0/457
ブライヤ HP 0/522
キャル HP 0/380
テイシー HP 0/406
「……お疲れ様でした」
古代魔法カタストロフ。英雄側が使うには特殊な条件を満たさないといけない隠し魔法だ。
英雄達が苦労して習得したものを、こちらがあっさり使う。これも裏ボスの醍醐味。
「さてと。どうしようかな……」
今までは、この場で全回復させて復活させてあげていた。そうするとしつこく再挑戦してくる事が多い。
中には何の対策もなく、ひたすら挑んでくるパーティすらいた。この子達はどうかな。悩む。
「エンジェルケア!」
全員を復活させてHPやMPも回復する魔法だ。頭を抑えながら起き上がったのはアレクスだ。
「うーん……。あれ? 俺達、負けたのか……」
「ア、アレクス……」
「おいおい、マジかよ」
どうやら、それぞれが敗北を認めているみたいで安心した。少しの間、沈黙した後でアレクスが私に頭を下げる。
「……思い上がっていたよ。誘いに乗るんじゃなかった」
「あなた、何者なの? 今の私達なら魔王だって楽勝なのに……」
「フフフ、それは秘密です」
「クソー! こうなったら修業のやり直しだ!」
大柄なブライアが気合い十分だった。レベル60なら、今の世界ではトップクラスの強さだ。
というのも時代によって強さの基準は変わる。今、この世界を蝕んでいた魔王のHPで大体5000くらいだ。
気になって私もアレクスさん達が戦っている最中にこっそり調べちゃった。
「いつもお世話になってる旅の商人さんがこんなに強いなんて……」
「おかしいと思ったんだよ。最初の森で会った時はただの商人かなと思ったんだけどさ」
「魔王城の中にいた時から薄々感じていたぞ。こいつ、絶対強いってな」
そんな彼らが謎に思ってる私は日本からの転移者だ。ある日、ゲームをやったまま寝落ちしたらこの世界に来ていた。
最初は右も左もわからずに魔物に追い回されたっけ。でも、ここがゲームと同じ世界だと気づいてからは早かった。最初は地道にレベル上げをしていたんだけど、どうにか効率を上げられないかと頭を捻る。
そしてついに設置型の魔法を張れば突進しかできない魔物を倒し続けるレベリングを思いついた。そんな私のレベルはというと。
Lv 9999
HP 12000/12000(手加減モード)
MP 9999/ 9999(これは本当の上限。ただし尽きたことはない)
本気のHPがいくつだったかもう忘れた。最初は本気で戦ったんだけど一瞬で決着がついてしまったから、今は手加減モードで戦ってる。
次のラスボス的な存在が現れる周期はまちまちだ。その度に世界に異変が起こり、いわゆるストーリーが展開される。今は英雄アレクス達が魔王を討伐して、旅の終わりの最中だった。
「よし! 待ってろよ! 次は絶対に勝つからな!」
「待ってます」
そう手を振って別れたけど結局、あの人達が私に勝つ事はなかった。
アレクスは故郷の幼馴染と結婚して、ブライアは騎士団長になる。キャルは魔法学校の先生で、テイシーは治療院で働いていた。裏ボスなんぞに構っていられるわけない。
「さて、次は『封印を解くと戦いを挑んでくる最強の魔女』設定でいくかな」
尚、誰も解いてくれなかった模様。十年以上の月日が流れたところで私は考えるのをやめた。
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