9.冒険者になるために
訓練所で自主練習をした後、夜ご飯はしっかりと食べた。
早めに寝て、次の日も起きてから訓練所で素振りをした。
朝食を食べて8時ごろにギルドに向かった。
ギルドの前に来て少し考えてしまった。
ゴードンさんは昨日あんな風に言ってくれたが、もしも見限られていたらどうしよう。
もう俺に教えるのは嫌になってしまっていたりしないだろうか。
「でも、うじうじしてても仕方ない。」
自分に言い聞かせるようにそう呟いた俺は勢いよくドアを開けてギルドに踏み込んだ。
「おはようございます。」
今日も受付にはアリスさんが一人で座っていた。
「おはようございます。セイタさん。
今日もゴードンさんですね。」
「はい!お願いします!」
少し声が大きくなってしまったが、アリスさんが後ろを向いてゴードンさんを呼んでくれた。
しばらくしてゴードンさんが剣を2本持ってやってきた。
「おはようございます!」
「よう、よく来たな。」
「はい。昨日はすみませんでした。
よろしくお願いします。」
おれはそう言って3つの魔石を差し出した。
「よし、気にするな。
今日も森に行くぞ。」
ゴードンさんは満足そうな顔でそう言うと俺の手の魔石を取ると、アリスさんに預けた。
「アリス、これ今日預かっといてくれ。」
「わかりました。預かっておきます。」
「よし、セイタ。じゃあ行くぞ。」
「はい!」
俺たちはギルドを出て街の外に出た。
それからまずは草原に向かった。
「昨日もしたが一応鉄の剣でスライムを倒してみろ。」
「はい!」
俺はスライムを見つけ、鉄の剣を使って倒した。
昨日よりは慣れたせいか、ゴードンさんに指摘されることは少なかった。
何匹か倒した後、そのまま森のほうへ向かった。
森が近付くにつれて少しづつ緊張感が高まってくる。
「わかってるとは思うが、気をつけろよ。」
「はい。」
俺たちは森に入り、しばらく歩いた。
「よし、この先にゴブリンがいる。
今回も俺が戦うからお前は見ておけ。」
そう言うとゴードンさんは前に進んだ。
俺は木の陰に身を隠してゴードンさんの様子を見ていた。
するとゴードンさんに気付いたのかゴブリンたちが声を上げる。
「グギャギャ!」
飛び出してきたのは何も持っていない2匹のゴブリン。
しかし、特に策のないまま突っ込んだゴブリンは昨日のゴブリンと同様に頭と胴体がお別れした。
今回は身構えていたおかげか昨日よりは衝撃が少なかった。
「おい、セイタ。今回はお前が魔石を取ってみろ。」
ゴードンさんは小さなナイフを俺のほうに差し出しながら、そう言った。
「はい・・・」
俺はその小さなナイフを受け取ってゴブリンの胴体の前に立った。
「胸の左側の心臓のあたりにある。
ナイフで開いてそのまま手を突っ込めばわかるはずだ。
他のモンスターが来る前に早くしろよ。」
「わかりました。」
俺は膝をついてかがむ。
ゴブリンの胴体が近付いてきて、少し獣臭が漂ってくる。
「いただきます。」
俺はそう呟いてゴブリンの皮膚に刃を当てた。
鋭くとがれたその刃は少しのためらいもなく皮膚を切り裂いた。
今までに切ったことのない感触が手に伝わってくる。
しいて言うならば豚肉に近いのだろうか。
ただ、ゴブリンはやせているために刃はすぐに骨に当たった。
俺はナイフを離して、胸の中に手を入れて中を探った。
中は暖かく、血でヌルヌルとしている。
するとすぐに手に小さな硬いものが当たった。
取り出してみると体液でドロドロの魔石が出てきた。
「これですか?」
ゴードンさんに確認すると軽くうなずいた。
「隣のやつもやっていいぞ。」
「はい。」
俺はもう一匹からも魔石を取り出した。
手は血だらけになったが、何とか2個の魔石を取り出すことができた。
「よし、まあ第一関門突破ってところだな。」
ゴードンさんはそう言った。
それから手をきれいにするのにどうしようかと思っていると、ゴードンさんが手を差し出せと言ってきた。
言われたとおりに手を出すと、
「『浄化』」
と言うと同時に手が綺麗になった。
俺が驚いているとゴードンさんは自慢げにこういった。
「ま、俺が使えるのは簡単なものだけだがな。」
これが魔法だろうか。
今までこの世界に来てから見たことはなかったが、やっぱり魔法があるのか。
「ありがとうございます。」
とりあえず俺はお礼を言った。
もっと魔法について聞きたいが、今は森の中で危険だし、今日の目的はゴブリンの討伐である。
魔法のことは帰ってからでも聞いてみよう。
とりあえず次は俺もゴブリンと戦ってみたい。
「ゴードンさん、俺もゴブリンと戦いたいです。」
「よっしゃ。わかった。
次ゴブリンを見つけたら、まずは俺が一匹まで減らす。
そしたら出てきて戦え。
いいか?」
「はい、わかりました。」
それからしばらくして再びゴブリンを見つけた。
3匹のグループで何も持っていない。
「よし、準備してろ。」
「はい。」
まずはゴードンさんが一人で出ていく。
するとゴードンさんに気付いたゴブリンたちは飛び込んでくる。
ゴードンさんの剣はためらいなく2匹の首を刎ね、最後の1匹の攻撃をかわした。
「よし、こっちにこい!」
ゴードンさんの掛け声とともに俺は木の陰から飛び出した。
ゴードンさんの斜め後ろから出た俺はゴブリンの視界に入っただろう。
ゴブリンは俺のほうが弱そうだと思ったのか標的を俺に変える。
準備する間もなくゴブリンは俺のほうに飛び込んでくる。
攻撃の速度はスライムとあまり変わらないが、ゴブリンは両腕を振り上げて攻撃してきている。
俺は右側から横方向に剣を振りぬく。
鉄の剣はゴブリンの右腕をとらえ、硬い感触をとらえた。
右腕は大きく曲がりおそらく折れた。
ゴブリンは大きく体制を崩したが、勢いそのままに左腕を振り下ろしてきた。
ただしあまり力は強くなく、肩のあたりに当たるも痛みはほとんど感じない。
俺はもう一度右側から剣を振りぬく。
右腕が折れて上がらないゴブリンの頭に当たり、再び硬い感触が手に伝わる。
皮膚が切れたのか頭から血を出しながら、ゴブリンはそのまま倒れた。
俺は横に回り、首のあたりに思いっきり剣を振り下ろした。
ゴキッ
と確かな感触が手に残り、ゴブリンは動かなくなった。