5.薬草ってどんな形なんだろうか。イメージ的にはヨモギとかワラビとか?
翌朝、目が覚めるとまだ日が昇る前だった。
とはいえ昨晩早く寝たためだろうか、特に眠さを感じることはない。
大学生の頃は毎晩遅くまで起きて、朝起きるのがしんどかったが、こちらの世界では夜でも特にすることがないため早く寝ることができた。
「いててて・・」
身体を起こそうとすると、身体が悲鳴を上げた。
「筋肉痛なんて久しぶりだな。」
初めて剣を握り、使ったことのない筋肉を使ったためだろうか、身体が痛い。
とはいえ起きられないほどではないので、ベッドから出る。
「ふう、これは身体ももう少し鍛えた方が良いかもしれないな。」
高校生の時は陸上部でかなり身体を動かしていたが、大学生になってからは運動する機会は減っていた。
下の階では、店主が朝ご飯の用意をしているのか人が動いている音が聞こえる。
「おはようございます。」
「おう、おはよう。朝ご飯まではもう少しかかるぞ。」
「わかりました。」
一階に下りた俺は店主に挨拶をした。
朝ご飯までしばらく時間が空くので、一度宿の外に出てみる。
朝日が昇る前の少しひんやりとした空気が心地よい。
井戸の水を汲んで顔を洗ったら目が覚めた。
筋肉痛をほぐすためにも、少し身体を動かしていると日が昇り始めた。
朝日を見るなんていつぶりだろうか。
だいぶ身体がほぐれたので木剣を持ってきて再び素振りをする。
素振りと言っても、上から下に振り下ろすだけでなく横や斜め、突きなどの動きも練習をする。
昨日のスライムは単調な動きだったがモンスターすべてがああいう感じではないだろう。
日本であれば木製であろうと、朝から公園で剣のようなものを振り回していれば下手すれば通報ものであろうが、こちらの世界では大丈夫だと思う。
とはいえ、周りには誰もいないのだが・・・
でも、訓練所を独り占めできるという点ではいいかもしれない。
しばらく練習をした後、再び井戸で汗を拭いて宿で朝ご飯を食べた。
朝ご飯も主食はパン。
それから野菜と肉、スープが出てきた。
こちらの人は朝からでもがっつり食べるのだろうか。
「店主さん、ギルドは何時頃から開くのでしょうか?」
「ギルドは朝は大体8時くらいに開くから、あと1時間後ぐらいだな。」
この世界、数は少ないのだが一応時計は存在するらしい。
俺は見ていないのだが、街の中心には時計塔があるし、ギルドにも時計がある。
ただ、庶民は大体の時間で動いているらしく、時間に厳しいのは貴族を中心とした都市部の人たちだけらしい。
「そうですか。ありがとうございます。」
「そうだ、セイタさんは今日も泊まるのかい?」
「はい、今日もお願いしようと思います。」
「じゃあ今日も同じ部屋で大丈夫だから。」
「わかりました。」
俺は再び銀貨1枚を出して、今日の分の料金を払った。
しばらくしてギルドに向かうと、すでにギルドは開いており、そこには昨日話した受付のアリスさんもいた。
「おはようございます。」
美人に話しかけるのは緊張するが、今は冒険者が少ない時間なのか受付にはアリスさんしかいない。
「あ、セイタさん。おはようございます。」
アリスさんが笑顔で挨拶を返してくれた。
日本にいたときもクラスの女子と話すことはあったが、そこまで積極的に話すことはなかった。
大学生になってアルバイト先でもあまり話すことはなかった。
当然そんな奴は彼女もいない。
仕事であることは分かっていても美人と話すのは結構緊張してしまう。
昨日は異世界初日ということでテンションが上がっていてそれどころではなかったのだが、改めて考えてみると、アリスさんは地球にいたころはあったこともないようなレベルの美人だ。
芸能界の人たちであれば別かもしれないが、少なくとも俺が実際に見た中では一番きれいな人だ。
なんだか急に緊張してきた・・・
「セイタさん?大丈夫ですか?」
「あ、はい、だ、だいじょうぶです。」
「それで、今日もゴードンさんと訓練ですか?」
「ええ、そのつもりで来たんですけど・・・」
「そうですか、わかりました。」
そう言うとアリスさんは後ろを振り向いて声をかけた。
「ゴードンさん、セイタさんが来てますよー。」
「今来ると思うんで少々お待ちくださいね。」
「あ、ありがとうございます。」
「昨日はどうでしたか?」
「えーと、昨日は片手剣の使い方を習って、その後スライムを狩りました。」
「あーなるほど。それで昨日はゴードンさんがスライムの魔石を持ってたんですね。」
「そうだと思います。」
「おう、またせたな。意外と早いじゃないか。」
「あ、ゴードンさん。おはようございます。」
「おう。今日もよろしくな。」
「はい、よろしくお願いします。」
「アリスさんもありがとうございました。」
「いえいえ、今日も頑張ってくださいね。」
「はい、ありがとうございます。」
そう言ってアリスさんは笑顔で送り出してくれた。
ふう、緊張したなあ。
やっぱり美人と話すのは緊張する。
「よし、じゃあいくぞ。」
ゴードンさんはそう言うと裏の訓練所に向かって歩き出した。
「これが昨日の分のスライムの魔石を売った金だ。
まあ初めて得た金だ、大切に使えよ。」
「はい、ありがとうございます。」
そう言ってゴードンさんは銅貨が入った袋を渡してくれた。
昨日帰るときにゴードンさんに預けておいたのだ。
「その袋はお前にやる。
まあ、そこら辺で売ってる安物の袋だがないよりはましだろ。」
「ありがとうございます。」
「おう。
よし、じゃあ今日はまず昨日の復習をして、そのあとは薬草の採集でもするか。」
「薬草ですか?」
「そうだ、まあ上のランクになればただの薬草採集なんてすることはないだろうが、ランクが低いうちはそこそこの稼ぎにはなるからな。
それに薬草採集はたまに依頼型のクエストで掲示板に貼ってあることもあるから、知っておいて損はないと思うぞ。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
それから、昨日の復習として素振り、それからスライムの討伐を行った。
昨日の今日なので特に変わったことはないが、今日はゴードンさんの指示なしでスライムを倒すことができた。
「よし、じゃあ次は薬草だ。
薬草はそこら辺の原っぱに生えているものもあるが、より金になるのは木の近くや、森の中に生えていることが多い。」
そう言ってゴードンさんは森の近くに案内してくれた。
「このあたりではあまり見ることはないが、森の中にはゴブリンやオークなどのモンスターもいる。
今のセイタであれば一人で戦うのは危険だから一人で森に近づくのはやめておけ。」
「わかりました。」
それからゴードンさんは実際に薬草を見つけ、その薬草の見つけ方や特徴、取り方や使い方などを教えてくれた。
「まあ、ここですぐ覚えるのは難しいだろうからギルドに帰ったら、もう一度図鑑で確認しておけ。
図鑑は貸してやる。」
「ありがとうございます。」
「よし、じゃあお前も探して取ってみろ。」
「はい。」
俺も探してみるのだが、意外と見つけるのは難しい。
とはいえそこまで珍しいものではないので、ゴードンさんの取ったものを何度か確認しながら探して、何個か見つけることができた。
「よしよし、上出来だ。
そろそろ昼だし、いったんギルドに戻るか。」
「はい。」
太陽の位置も高くなったころ、俺たちは一度ギルドに戻った。
昼ご飯はギルドに併設している食堂で食べた。
この店もギルドが運営しており、冒険者であれば日替わりランチが割安で食べられるらしい。
「よし、今日は俺がおごってやるからしっかり食べろよ。
冒険者は身体が資本だ。」
「ありがとうございます。いただきます!」
お昼はゴードンさんがごちそうしてくれた。
日替わりご飯はメインがお肉。
それにスープとパンがついており、パンはお替りができる。
ゴードンさんは奥さんが作ったお弁当を持ってきているらしく一度ギルドの中に戻っていった。
お昼時ということもあり、食堂は冒険者も多い。
剣や弓、杖なんかを持った冒険者たちがにぎやかに食事をしている。
中には女性の冒険者もいるが、多くの場合はしっかりとした装備を着ており、ほとんど肌が見えていない。
まあ、そりゃそうか。
とはいえ、大半は男でそれもかなりがっしりしている。
いかにも魔法使い然とした格好をしている人はやはり魔法が使えるのだろうか。
魔法使いのような恰好をしている人は比較的細身だ。
いつかは俺も使ってみたい。
パンを2回お代わりして満腹になった俺はギルドの前の椅子に座ってゴードンさんを待った。
しばらくするとゴードンさんが出てきた。
手には一冊の本を持っている。
「これがさっき言った図鑑だ。
主には薬草のこととこのあたりで出現する魔物について書かれている。
持ち出さなければ自由に読んでいいから、貸してやる。
返す時にはカウンターで返してくれれば大丈夫だ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「それから、さっき取ってきた薬草とスライムの魔石を売るぞ。
昨日は時間が遅かったから俺が処理したが、お前も経験しておかないとな。」
俺はカウンターに並び、スライムの魔石と薬草を提出した。
特に困ったことはなく普通に売ることができた。
「まあ、スライムは売れるのが魔石くらいだからな。
オークとかになれば肉も売れるから、剥ぎ取り方で値段が下がることがあるから気をつけろよ。」
「そうなんですか、わかりました。」
「よし、じゃあ俺は今日は昼からは中で仕事をするから、お前はしっかり図鑑で勉強しろよ。」
「はい!」
そう言ってゴードンさんは中に入っていった。
よし、それじゃあ図鑑を見るか。
俺は開いている机に座って図鑑を広げた。