4.オークの肉って豚?牛?どっちなんだい!
「初めてのモンスターはどうだった。」
「緊張しましたが、大丈夫です。」
「そうか、それはよかった。
とはいえ今日相手にしたのはスライムだ。
まだ明日からも訓練を続けるが、最終的には一人でオークを倒せるようになってもらうつもりだ。」
「オークですか?」
「ああ、オークが倒せるようになればFランクは卒業だ。」
ゴードンさんによるとこの世界ではオークを倒せるようになると、冒険者としての生活は安定するらしい。
とはいえ、稼いだお金を無計画に使えばその日暮らしも危ういのだが。
「お前はそんなふうになるなよ。」
「はい、気を付けます。」
「ところでお前は今日泊まる宿はもう決めているのか?」
「いえ、それがまだ決められていなくて・・・どこかおすすめのところはありますでしょうか?」
「そうだなあ、お前さえよければギルドの直営店に泊まるか?」
「そんなところがあるんですか?」
「ああ、まあ泊まれるのは初級の冒険者に限られるし、あまりいい設備ではないがな。」
聞くところによると、この街には冒険者ギルドが初級冒険者のために運営している宿泊施設があり、お金のない初級冒険者はそこを利用することもあるのだという。
ギルド直営宿は訓練所のすぐそばにあり、立地は便利そうだ。
それに宿泊費は一泊二食付きで銀貨1枚らしい。
ちなみにこの世界の通貨はコイン型の硬貨であり、主には銅貨、銀貨、金貨が使用されている。
日本円に換算すると
銅貨=100円
銀貨=1000円
金貨=10000円
程であり、大きめのパン一個を銅貨1枚ほどで買うことができる。
ちなみに俺が先ほど狩ってきたスライムの魔石は一つにつき銅貨1枚で売れるらしい。
11匹狩ったので銅貨11枚の収入だ。
この世界の一般的な宿は一泊2食付きで銀貨8枚。
日本円だと8000円くらいであろうか。
俺がこの世界に来た時にもらったのは10枚の金貨。
そこそこの大金ではあるがまだ普通の宿屋に泊まれるほどの余裕はないと思う。
ということで俺はギルドの直営宿に泊まることにした。
それから、下着などの最低限の必要品を売っている場所を教えてもらった。
「今日はありがとうございました。」
「おう、また明日もギルドに来いよ。
それからその木剣はもっていけ。
素振りでもして練習しとけよ。」
「はい、ありがとうございます。」
ゴードンさんはそう言うとギルドの中に入っていった。
教えてもらった商店で生活雑貨を買い、宿屋に向かった。
中に入ると一階は食堂になっており、ギルドカードを見せ銀貨1枚を先払いすると部屋に案内してもらえた。
ギルド直営宿はおじさんが一人で切り盛りしており、看板娘はいなかったが、落ち着けそうな宿であった。
そこまでボロボロというわけではないが、ベッドがあるだけの狭い部屋だ。
特に荷物を持っているわけではないのですることもない。
食堂に降りてみると、夜ご飯までは少し時間があるようなのでグラウンドに出て木剣で素振りを行った。
今日戦ったスライムはそこまで強いとは思えなかったが、明日からも訓練はある。
焦る必要はないが、のんびりとしている暇もないので、今日ゴードンさんから指摘された点を意識しながら練習をする。
宿に帰る前に、近くの共同井戸で水を汲み体を拭いた。
この世界にもお風呂はあるのだが、それはお金持ちの家にあるものであり、庶民にはまだ普及していないらしい。
それでも汗を拭くと幾らかさっぱりした。
下着や服はあまりいいものを買えなかったので少しごわごわしたが、慣れれば何とかなるだろう。
宿に戻るともう少しで夜ご飯だというので一階で少し休んだ。
俺以外の冒険者は見られなかったので店主に聞いてみると、今日のところは俺だけらしい。
「冒険者になるような奴は大体パーティー組んでるか、ソロのやつはよほど腕に自信があるやつだからな。
なかなか訓練に参加するやつはいないよ。
それにここは門限があるからな。」
いずれにせよスライム討伐から始めるような人はあまりいないらしい。
この宿はギルドからお金が出ているからやれているだけで値段も安いし、客も来ないということで、本来であればやっていけるような経営ではないらしい。
それに、冒険者の多くはその日得た収入で飲みに出歩く人が多く、安いとはいえ門限のある宿は人気がないそうだ。
「今日のメインはオーク肉のステーキだ。」
そう言って出された皿の上には大きな肉が1枚乗っている。
「これがオークですか?」
「そうだ、ギルドから持ってきたやつだから新鮮だぜ。」
豚肉に似たそのお肉は湯気を立てて皿の真ん中にどっしりと鎮座している。
他にはサラダとパンそれからスープのようなものまである。
かなり豪華だ。
「いただきます。」
ナイフで切ってみると、思っていたよりも柔らかく、口に入れるとジューシーな肉汁が口いっぱいに広がった。
塩と何らかの香辛料のシンプルな味付けだが、それでも十分においしい。
「おいしいです!」
「そうか、それはよかった。」
店主は満足そうにうなずき、厨房での作業に戻った。
このおいしさなら日本にいたときと同じレベルの料理が期待できそうである。
俺は今日使ったエネルギーを補給するとともに、身体を作るためにもしっかりと平らげた。
「ごちそうさまでした。」
お腹いっぱいになった俺は店主に挨拶をして部屋に戻った。
部屋に戻りベッドに倒れこむようにして横になる。
異世界生活一日目にしてはかなり順調に進んでいるのではないだろうか。
スライムは余裕をもって倒すことができたし、剣の扱いも練習すれば何とかなりそうだ。
「そうだ、ステータス確認しとこう。」
はじめに開いてから見ていなかったステータスを開いてみる。
セイタ
年齢:20
レベル:2
恩恵:異世界の才能
おっ、レベルが上がっている。
スライムを倒したためだろうか。
上限がどのくらいかは分からないが、レベルが上がることは悪いことではないだろう。
こうやって数字で出てくるとやる気が出てくる。
あまり考えもなしに異世界に来てしまったが、今のところは大丈夫そうだ。
ゴードンさんの教え方も丁寧だし、以前よりも身体も動かしやすい。
「明日も訓練あるし、早めに寝るか。」
ステータスを閉じた俺は、目を閉じてゆっくりと体を休めた。
ブックマークしてくださった方ありがとうございます。