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15.お酒を飲むと眠たくなって少し時間を損したように感じてしまうのはまだお酒の楽しさを知らないだけなのだろうか。

「こ、こんばんは。」


後姿のその少女に挨拶をしてみる。


少女が振り向きこちらを見る。

体型的に少女だと思ったが、少年だったのだろうか。


そう思えるほど中性的な顔立ちだ。

男であれば美青年、女であれば美少女と呼ばれることは間違いないだろう顔だが。


「お前がもう一人の宿泊者か。

今日から世話になる。

よろしく頼む。」


・・・声質は完全に少女なのに、口調が完全におじさん冒険者だ。


しかも「お前」とか言われてしまった。


見た目的にはずいぶんと年下そうな見た目なのに・・・


まあ冒険者の世界では、歳よりもランクで優劣をつけることが多いそうなので特に気にすることはないのかもしれないが、

何とも強烈な感じである。


でもよく考えてみれば、この宿屋に泊まるということは最高でもEランクのはず。


まあいいか・・・


「は、はい。

よろしくお願いします。」


「ああ、よろしく頼むぞ。

もし、不埒なことでもしたら私の魔法で消し炭にしてやるからな。」


少女は下から睨みながらそんなことを言ってきた。


「ちょっと、ナハナさん。

そんなことしたら出て行ってもらうからね。」


「いや、店主、これは物の例えですよ。

じ、実際にはそんなことしませんよ。ハハハ・・・」


店主にとがめられた少女は引きつった顔であたふたとしている。


そんなに余裕がないのだろうか。


「いや、僕もそんなことしませんよ。

こんな少女に手を出したりしませんよ。」


俺がそんなことを言った瞬間、少女がギロリとこちらをにらんだ。


「わ、私は少女じゃないぞー!!

もう立派に成人しているんだからな!!」


え、そうなのか・・・


ちなみにこちらの世界でも基本的には20歳から成人だ。


そのため一応俺も成人の男性ということになる。


「あの、失礼を承知で年齢をうかがってもいいですか?」


「22歳だ!」


「あ、エルフとかそう」


「違う!

普通の人間だ!

ちょっと顔が童顔で、ちょっと体の成長が遅いだけだ!

何か文句あるか!?」


「い、いえ文句はありませんが・・・」


「お前は何歳なんだよ?!」


「20歳ですが。」


「ランクは?!」


「Eになったばっかりです。」


「ふん、じゃあ私と同じか。

私は1か月前にEになったから私のほうが先輩だな!」


どや顔でそう言うが背が小さいせいか何となく迫力に欠ける。


「はあ。じゃ、じゃあよろしくお願いします、先輩。」


「うむ、まあなんでも頼ってくれたまえ、後輩。」


せっかく美人なのになんだか少し残念な人のようだ。


「おーい、君たち、そろそろ自己紹介も済んだだろう。

夜ご飯食べてくれよ。」


店主がそう言いながらご飯を運んできた。


この宿は初級冒険者しか泊まらないということもあり、普通の宿に比べると狭い。


食堂にも机が2脚しかないし、2階の泊まる部屋も5部屋くらいしかない。


せっかく同じ宿に泊まっているのに違う机で食べるのもさみしいだろうということで同じテーブルについて食事をした。


「ここのご飯はおいしいな!

昨日まで食べていた干し肉は塩っ辛いばかりで食べるのに苦労したが、こんなにおいしい食事がついて一日銀貨1枚とはかなり安いな!」


「ええ、それは僕も同感です。

ここのご飯はおいしいですよね。」


彼女は夢中でご飯を食べていたが、食べ終わると満腹になり気も落ち着いたのかしゃべりかけてきた。


「ところでお前名前はなんていうんだ。」


「あ、すいません。

まだ名乗ってなかったですね。

改めまして、セイタです。

Eランクの冒険者です。」


「セイタと言うのか。

私の名前はナハナ。

こう見えても22歳の大人だ。

同じくEランクの冒険者で魔法使いだ。」


「魔法使いなんですか?」


「ああ、使えるのは火と水の魔法だ。」


この世界には魔法があるのだが、使える人はそんなに多くない。


魔法を使うことができるのは、基本的には魔法の才能を持つ人だけであるためだ。

一応才能がなくても使うことができるのだが、使えてもせいぜいゴードンさんが使っていたような『浄化』などの所謂生活魔法のみだ。


火や水、木や土などの攻撃手段になりうるような魔法を使える人は意外と少ないらしい。


ということはゴードンさんから聞いたのだが。


俺もいずれは練習してみたいと思っているが、今は片手剣の練習で手一杯なので、いずれ余裕が出来たら考えよう。


「でも魔法使いなら誰かとパーティー組んだ利しないんですか?」


「ああ、本来ならそうしたいんだが、なかなかいい相手がいなくてな。

私は地元の村から出て来たばっかりで冒険者としてのランクは高くない。

高ランクのパーティーでは足手まといになるし、低ランクのパーティーに安易に入ると危なそうだと思ってな。」


そう、この世界では高ランクの冒険者ほど所謂できた人が多い。


これはギルドのランクの上がり方も関係しているのだが、Cランクから上はギルドの評価も考慮される。


ギルドとしても素行の悪い冒険者に重要な仕事を任せるわけにもいかない為、自然高ランクの冒険者ほどきちんとした人が多くなるのだ。


一方低ランクの冒険者はそれこそいい人もいれば、素行の悪い人もいる。


この世界女の冒険者もいるにはいるのだが数は少ない。

それに加えて、ナハナさんは美人だ。


悪い人たちのパーティーに入ってしまえばどうなるか分からない。


街の中ならばそうそう変なことは起きないのだが、街の外に出れば通行人なども少なく人気もなくなる。


さすがに森の中はモンスターもいるため入りたくないだろうが、それでも危険なことに変わりはない。


そう言うことでいまだに一人で活動しているということらしい。


「あーあ、どっかにいい冒険者がいないかなー。」


ナハナさんはどこかで買ってきたお酒を飲みながらそんなことを言っている。


少し酔っているのだろうか。


勇気があればここで「俺なんてどうですか?」なんてことが言えるのだろうが、あいにくそんな勇気は持ち合わせていない。


俺はせいぜい酔ったナハナさんの愚痴に付き合うことぐらいしかできなかった。


ちなみに俺はこの世界でもあまり酒を飲まない。

20歳ということもあり、地球でも数えるほどしか飲んだことはないが、どうも俺は酒を飲むと眠くなってしまうためあまり積極的には飲まなかった。


それにサークルの飲み会も大学生らしいコンパとやらにも参加したことがなかったので楽しい飲み会にも参加したことがなかった。


・・・まあ、異世界に転生できた俺はある意味勝ち組だと思うことにしよう。


それからしばらくはナハナさんのうだうだに付き合っていたのだが、明日も森に行くつもりなので挨拶をして俺は先に部屋に帰った。


こういうところも彼女ができない要因なのだろうか。


というかナハナさんはよく俺の前であんなに酔っていたものだ。


俺が悪い男だったらどうするつもりなのだろう。


もしかして男として見られていないのだろうか?


・・・まあ、悪いことをするような人に見られていなかったのだと思うことにしよう。


お読みいただきありがとうございます。

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