14.新たな同居人はどんな人?
今日からは一人で冒険者として活動する。
昨日の戦闘が激しかったせいか少し体が重い。
それでもいつもの癖で目が覚めたので、訓練所に向かう。
いつものように少し走り込みをしてからストレッチをする。
その後鉄の剣を使って素振りをする。
昨日のオークの戦いではかなり危ない場面もあった。
もっと練習しないと、この先安定した冒険者稼業は歩めない。
しばらくして朝日が昇った後、井戸の水を汲んで体を拭いて宿に戻った。
「今日もしっかり食べてくれよ。」
「ありがとうございます。
いただきます!」
俺は朝食をもりもりと食べた。
食後に椅子に座ってゆっくりしていると、店主が話しかけてきた。
「セイタ、突然だが今日から新しい人が来るぞ。」
「え、そうなんですか?」
「おう、まだ俺も会ったわけではないがギルドで聞いたんだよ。
昨日は遅かったから違う宿で泊まったらしいが、今日からこっちに来るらしい。」
俺がこの宿に泊まり始めて早2か月。
最初にも聞いたがこの宿は料金は安いのだが、色々と制限があり使う人は少ないらしい。
そのためか俺が泊まり始めてから他の客が来たことはない。
朝と夜は店主がいるが、店主はギルド職員のためそれ以外は店主は自分の家に帰ってしまう。
そのため、夜や昼間はこの宿はおれひとりになってしまうのだ。
いかんせん2か月もすると少し寂しくなってしまう。
それにこの世界に来てから他の冒険者とはほとんど話したことがない。
もともと地球にいたときも積極的に話す人間ではなかった。
異世界に来たからと言ってその性格が大きく変わるわけでもなく、いまだに話せるのは片手で数えるほどの人しかいない。
それでも女性でしかも美人のアリスさんと話すことができているので俺としては御の字だ。
「どんな人が来ますかねぇー」
「さあな、まあ仲よくしろよ。」
どんな人が来るのかは分からないが、これからしばらくは2人で過ごすこともあるだろう。
気の合う人だといいなあ。
俺はそんなことを思いながら探索の準備をした。
今日は昨日のオークの疲れもあるため、ゴブリンの討伐をするつもりだ。
俺はまずギルドに向かい、一応掲示板を確認してみる。
特にめぼしい依頼はなかったのでそのまま街から出て森に向かった。
森に入ってしばらくするとゴブリンたちを発見した。
昨日オークと戦ったせいかいつもよりゴブリンたちが弱そうに見える。
しかし、そんなふうにモンスターを侮り始めるといずれ痛い目を見るということはゴードンさんから教えてもらった。
ゴブリンといえども不意打ちを食らえば怪我をするかもしれないし、けがをすればそのまま森から出られなくなってしまうこともあるのだ。
気のゆるみは怪我を招く。
『勝って兜の緒を締めよ』だ。
俺はいつもより慎重なくらいに戦闘を行いゴブリンたちを倒した。
魔石を取るのにも慣れたし、以前に比べれば効率もだいぶん上がっただろう。
とはいえゴブリン一匹では魔石を売ってせいぜい銅貨3枚。
実入りは断然オークの方が良いのだが。
そんなことを思いながらもゴブリンを探していると、少し向こうのほうで戦闘をしている音が聞こえてきた。
この森は初心者向きの森であり、多くの冒険者はもっと強くて報酬の良い森に入る。
そのため訓練中でもあまり人に遭遇することはなかった。
興味を持った俺は、周囲を警戒しながら、邪魔にならない位置から覗いてみた。
そこには魔法使いの服を着た少女が一人とゴブリンが3匹いた。
「水の聖霊よ、わが真実の願いに答えたまえ。水は矢となり敵を穿つ。ウォーターショット!」
少女が呪文を唱えている間にもゴブリンたちが近付いてきている。
助けに出ようとしたその時、少女の手から水の水滴が射出され、その水滴はゴブリンたちの身体を貫き、後ろにあった木を少々えぐった。
なかなか強烈な絵であるが、少女は特に気にした様子もなくナイフでゴブリンたちの魔石を取り出し始めた。
今更思ったが、この状態を見つかった場合俺は不審者だと思われるのではないだろうか。
心配になった俺は少女に見つからないようにその場を離れてゴブリン狩りに勤しんだ。
お昼を少し過ぎてギルドに戻った俺はゴブリンの魔石を売った。
今日の収入はゴブリン20匹の魔石で銀貨6枚。
半日の活動にしてはまあまあだろうか。
昼ご飯を食べた後は他の森の情報について調べてみる。
この街のさらに北には他の町があり、その近くにはこの街よりも強いモンスターが生息している。
今の俺の能力ではかなり厳しいがいずれ行くことになるかもしれないので、ギルドで借りられる図鑑を使って調べた。
いい時間になったので図鑑を返して、宿に向かった。
宿に入るとまだ新しい人は来ていないようで店主が夕食の準備をしているだけであった。
荷物を部屋において、俺は訓練所に向かった。
訓練所で剣をふり、終わりにストレッチをして汗を流す。
汗を拭いて宿に戻ると中から会話の声が聞こえてくる。
新しい人が来たのだと思い、俺はうきうきとしながらドアを開けた。
そこにいたのは、今日森で見たあの魔法使いの少女であった。
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