1.物語の主人公の普通は大体普通じゃない
俺の名前は中山征太。
現在木陰にて思考中。
少し顔を上げてみれば、遠くには石壁のようなものが見え、少しではあるが人の声も聞くことができる。
突然名前を名乗られてもだからどうしたとなるかもしれないが、俺も非常に困惑しているのだ。
どうしてこんなことになったのか
時間は少し遡る・・・
俺は大学1年生の20歳。
普通の人生を歩んできたと思っている。
普通と言っても、小説や漫画の中の普通じゃない。
可愛い幼馴染や妹もいなければなぜか女子に好かれるといったようなことも起きていない。
不思議な事件に巻き込まれることもないし、何か変な部活にも入っていない。
特段人付き合いが苦手ということもないが、わいわい盛り上がれるような友達がいるかと聞かれれば答えに詰まる。
そりゃあ人並みに女子のことを好きになるが、告白はしたことがない。
当然のごとくイケメンでもないので、告白なんてされたこともない。
ファッションに興味はないし、どうせ女子にも好かれないし、大学生になっても髪も染めてない。
本当にいたって普通のちょっとダサメの大学生だと思う。
俺の人生で一番大きな出来事と言えば、早めに死んでしまったかもしれないということだろうか。
大学生になってアパートで独り暮らしをしていた俺は、寝ている途中で発生した地震に驚いて飛び起きた。
飛び起きた拍子に躓いて机の角に頭を打ち付けて、そこから先の記憶がない。
今おれがいるのは真っ白な世界。
天井どころか床らしきものもない。
ここが病院でなければ天界だろうか。
死んでしまったはずなのに今現在考え事をしている。
一体どういうことなのだろうか。
「やあやあ、こんにちは。」
そんなことを考えていると、急に声が聞こえた。
「おーい、聞こえてるかい?」
「はい、聞こえてますよ。」
「それはよかった。」
「・・・あの、ここどこですか?」
「ああそっか。まずはそこから説明しなきゃダメですね。」
「ここは、まあいわば魂の世界です。死んだ人は普通はそのまま記憶を消して元あった世界に戻すのですが、あなたはラッキーなことに記憶をとどめておく権利を得たのです。」
「はあ、とりあえず僕は死んでしまったんですか?」
「地球にあった肉体的にはそういうことになるね。まあ、魂に根付いている記憶残っているから、その意味では死んだといっていいのかは疑問だけど。」
「そうなんですか。」
「あれ?意外と悲しくないのですか?」
「いや、悲しいのは悲しいですが、どうにもなりそうにないですし。親より先に死んでしまったのは申し訳ないですけど。」
「そっか、まあそうだよね。運が悪かったとしか言いようがないよね。」
「机の位置がもう少しずれてれば死なずに済んだかもしれないしね。」
「そうなんですか。」
「ただ、幸か不幸か君は死後の世界を選べるんだよ。」
「どういうことですか?」
「魂にはそれぞれに番号のようなものがついてるんだよ。管理しやすいように。」
そうなのか、まあ地球だけでも70億人以上いるし管理してるんだとしたら大変だろうな。
「なるほど。」
「それで、その番号を使って宝くじみたいなことをしてるんだよね。君はそれで選ばれたんだよ。かなり低い確率だから君はラッキーだよ。」
「そうですか。」
「まあ僕も地球ができる前から働いてるけど、今までの生物全部合わせても僕が担当するのは2人目だからね。」
そんな低い確率なのか。
というかこの人、人なのかどうかも分からないけど一体何歳くらいなんだろうか。
「それで僕は一体どうすればいいんでしょうか。」
「うーん、何かしなきゃいけないってことはないんだけど、君の趣味的には・・・異世界転生なんてどうだい?」
「異世界転生!?」
俺はライトノベルも読んでいたし、アニメも見ていた。
もちろんその中で異世界転生ものというものも読んでいた。
チート級の力を手に入れて、お金持ちになったり、美女を侍らせてハーレムをつくったり、まさに欲望の塊のようなものであるが、俺も異世界に行けたらなーとか思ったりしたこともあった。
まさかそれが現実になるかもしれないなんて。
「とはいえ、君が読んでた物語のような力を与えることは難しいと思うけど。」
「え、そうなんですか?」
「一応向こうの世界にも向こうの世界のバランスがあるからね。ポッと出の人にそのバランスを崩されたら困るからね。」
「そうですか。」
まあ、そりゃそうか。
というか、あんな力を手に入れたら自制できる気がしない。
異世界でもあんな力あったら味方からも恐れられそうだし・・・
「ただ、努力がしやすい環境をあげるよ。」
「努力がしやすい環境?」
「そう、君は今まで本気で努力したことあるかい?」
本気の努力か・・・
最後にしたのは小学生の頃だろうか。
小学校の頃はマラソン大会で上位を目指して頑張っていた。
練習の時も頑張っていたし、純粋に走っていた。
それが中学生になってからは、体力測定の時でも全力で走ることはなくなった。
それからはいろんなところで手を抜いていたな。
できる人をうらやむことはあってもできるようになろうとすることはなかった。
頑張る前から、どうせ頑張っても意味ないとか、何とかなるだろとか思ってないがしろにしていた。
「最近は、なかったと思います。」
「そうだよね、でも次の世界では頑張ってね。努力を報われやすくしてあげるよ。」
「ありがとうございます。」
「じゃあね、しばらくは私も見守っているから。」
そう言われたのと同時に目の前がぱっと光ったようになり、次には木陰に立っていたのだ。
こうして今、俺は木陰に立っている。
ここはおそらく異世界なのだろう。
おれは異世界に転生したのだ。
拙作ですが、読んでいただきありがとうございます。