タイトル回収
ちょっと修羅場注意。
「死ぬぅ!無理!ムリムリムリムリ!死んじゃうぅ!うわぁぁぁあ!!」
「うるせぇよ雑魚!もう倒したわ!!」
四天王怖ぇ!!何あの攻撃!大地が浮かんできて飛んできてやべぇよ!俺なんかに敵うわけねぇ!
「落ち着いて黙りなさい!セベル!」
「うぎゃあ!」
殴られた!これはタイタン!?……いや違う、この長年味わってきた拳の固さ、エリスだ!
……少し、落ち着いてきた。周りを見る。タイタンはいない。
「もう終わったわ。タイタンは死んだ。お疲れ様」
「は、はぁぁぁぁぁぁぁあ終わったぁぁぁぁぁ……」
し、死ぬかと思った……。
もうね、普通の魔物とはレベルが違う。普通の魔物が木だとするなら、四天王は森みたいな感じ、レベルが違う。……わかりにくいなこの例え。
少し傷が付いたセエレ様が、エリス、クレスのいるこちらに来た。ちなみにメディさんは傷ついた騎士隊のところにいる。
「流石、勇者様、狂戦士様。見事な戦いぶりでした」
「へっ、あんたに言われると嫌味にしか聞こえねぇな。お前の剣技、どうなってんだありゃ?」
「ふふ、スキルと努力の賜物です。私よりも、エリスさんの方がすごいですよ。魔法を使って八刀流なんて初めて見ましたよ」
「ええ、私、すごいのよ。貴方たちも頑張りなさい」
「……ほんとこいつぶれねぇな」
俺を除いて彼らは健闘を讃えあっている。……仕方ないが、正直悔しい。
セエレ様がこちらを見た。何を言えばいいか困ったような顔をしている。
「え、ええと、せ、セベル君……君は……その、すごい、す、すばやかった……ですね……」
「ああ、逃げ足がな!」
クレスが俺に目を向けると、睨んだ。怒気の籠もった大声。俺に詰め寄る。
「勇者が連れてくるもんだから、何か裏の手があるかと思ったが、ほんとに何もねぇじゃねぇか!!」
怖い。クレスは俺の首元を掴む。
「す、すいません…」
「すいませんじゃねぇ!てめぇ、戦場をなめてるのか!?てめぇみたいな軟弱ものが一番むかつくんだよ!なぁ!」
……何も言えない。確かに俺は何もできなかった。逃げるしかできなかった。邪魔にしかならなかった。
「クレスくん、言い過ぎだ……」
「いーや、王子、今後のためだ、俺は言わせてもらうね!てめぇさぁ!エリスに助けられてたの知ってるか!?てめぇに攻撃が来ないように、上手く調整してたんだよエリスは!邪魔なてめぇのために!」
「!」
はっとエリスを見る。まさか俺のために。エリスはキッとした顔でクレスに近づいた。
「クレス、セベルを離しなさい」
「エリス!黙ってろ……」
「グズ!!セベルを離せ!!!!!」
「ぐわ、てめぇ!」
エリスが無理矢理俺をクレスから離した。俺は倒れる。
場が凍る。いや、先程のクレスの発言で場が少し静まってはいたが、まだ場には勝利の余韻のようなものがあった。しかし、今は完全にない。凍った空気だけだ。
クレスがしゃべる。
「エリス!俺はてめぇのためを思って言ってるんだぜ!?そんな甘たれだと、いつかこんなやつのために死んじまうぜ!」
「貴方に心配される覚えはないわ」
「ーーーっち!勝手にしやがれ!」
にべもない返し。
「さ、セベル。さっさと四つん這いになりなさい。帰るわよ」
と、エリスは転んだ俺に手をかける。
俺は
ーーー手を払った。
「セベル、お前」
「ば、馬鹿にするなぁ!!」
俺は叫ぶ。涙が頬を伝う。……俺は、俺はみじめだった。守られてばかりで、邪魔して、それでもエリスは俺をパーティーに入れようとする。幼馴染だからか?それとも、俺を馬鹿にしたいからか?
「お、俺にだってな!ぷ、プライドがあるんだ!お、お前のとこになんて、入られるかぁ!!」
「……セベル」
「お、お前、エリスなんて!俺には必要ない!お前とは絶縁だ!いつもいつも、馬鹿にしやがって!ふざけるな!!俺は、俺は一人で生きる!おんぶにお馬さんじゃいられねぇんだよ!!!」
グチャグチャの感情。感情の赴くまま立ち上がり、外にむかう。……逃げるように。
もう、エリスとの関係はここまでだ。絶縁する。俺はもう馬鹿にされたくない。一人で生きる。いつか絶対、エリスを見返してやる。今まで馬鹿にしてきたことを、あいつに謝罪させてやる。ーーー絶対に!!
俺は、新たな人生に向かい走る。幼馴染のいない俺の人生へ……
「お前……私から離れるんじゃ……ないわよ!!!」
「ぐふ!!」
ずざざざ
痛い!な、何者かに倒された。後ろを見る。
……エリスだ。
エリスは俺の体をうつ伏せから仰向けにしたあと、俺の体の上に思い切り乗る。
目と目が合う。エリスの目は……怒りの目。俺が一度、エリスに歯向かった時に見せたあの目だ。
魔王討伐隊の人たちは呆然としている。
「お前ね!まだ自分の立場というものを分かってないの!?ほんとに馬鹿ね!」
「ぐふぅ!」
ビンタされた。思い切り。
「お前は私の奴隷よ!私のおもちゃ!私の所有物!私の物の癖に、私以外の言葉を気にするんじゃないわよ!」
「ぐぁ!」
ビンタ。
「お前は私だけ見てればいいの!私だけ気にしてればいいの!ゴミどもに気を使ってんじゃないわよ!」
「ぐぅぅ!」
「ご、ゴミだとぉ?!」「ご、ごみって……」
ビンタ。後ろから困惑の声。
「何勝手に私から離れようとしてるのよ?!絶対に逃したりしないわ!ぺっ!私の手を覚えなさい!私の唾を覚えなさい!お前はずっと私に守られて、ずっと私に弄ばれるのよ!ぺっ!」
「ぐ」
唾を吐きかけられる。
そして、
ちゅぅぅぅ
「……あ、あいつ、キスしてやがる」
力強いキス。離れ離れになっていた恋人が、ようやく逢瀬できた時の、喜びをそのまま込めたような厚いキス。
セベルは目を見開いた。ビンタされたのはわかる。唾をかけられたのはわかる。だが、キスされたのは分からなかった。
長い時が経った気がした。ようやく、エリスは口を離した。茹で上がったような赤い顔、恍惚したような顔。喜びに溢れた顔。細めた青い瞳には喜びが込められていた。そうした顔で、セベルを見ていた。
「お前は私の心を、愛おしさでめちゃくちゃにした!なら、私もお前をめちゃくちゃにするわ!ビンタしたら、キスしてあげる!唾をかけたら、舐めてあげる!拳で殴ったら、抱きしめてあげる!ふふ、もしお前の腕を切り取ったなら、その腕を私だけの慰めの道具にしてあげるわ!!痛みと愛を与えてあげる!!お前を壊してあげるわ!ーーー私の全ての人生をかけて!私の愛しい奴隷さん!!」
何、言ってるんだこいつ。
エリスの顔が、近づいてくる。
やつの青い目は、深淵を見るような、深く深く濁っていた。
……俺は、痛みと恐怖で、意識を手放した。