四天王タイタン
念願の魔王討伐隊に入りました。はい。
「エリス様お願いします帰らせてください死んでしまいます」
「いや」
魔王討伐隊は今、シニナサイ・マウンテンに登っている。ここに魔王の手下、四天王の一柱『タイタン』がいる。
魔王を倒すには四天王の力を削ぐことが必要である。なんでも、魔王は四天王から力を吸い取っており、四天王がいる限り無敵だそうだからだ。どうでもええわ。
「あら、セベル。歩みが遅いんじゃないの?もっと鍛錬したらどうかしら」
「いえ、エリス様が重いだけで……いて!」
エリスが俺の頭を叩く。今、俺はエリスをおんぶしながら登頂している。勇者で俺より力あるんだから歩いて登れよ。ちなみに、おんぶだけじゃ辛いでしょうと、おんぶとお馬さんの交互に態勢を替えて登っている。なんの気遣いだ。
「あ、あははは……エリスさん。ほどほどにしてあげなよ?」
魔王討伐隊の一人、俺たちの住む国の王子、茶色髪のイケメン、『セエレ』様が若干引き気味に言う。
先述の通り、セエレ様はこの国の王子だ。しかし、天から授けられたスキルは優秀で『剣豪』である。剣豪も勇者と同じく、この世に一人いるかいないかほどのスキルだ。民を思う慈悲深い彼は王子として国に居座ることを良しとせず、こうして勇ましく魔王討伐に参加したのだ。
セエレ様がそう言ったあと、誰かが俺の尻を槍の穂で叩いた。……これはやつだ。
「……けっ、なんでこう役立たずを連れてくるかね、行軍も遅れてるじゃねぇか」
「クレス、黙りなさい。彼を馬鹿にしていいのは私だけですよ」
「へーへー、仲がいいこった」
このすかしてる赤髪の男は『クレス』。『狂戦士』スキル持ちの強いやつだ。性格は糞だ。
こいつには民を思う心とか、義勇心とか全然なく、金のために参加したようだ。力こそパワーのようなやつで、弱い俺を徹底的に見下している。……正直、気持ちは分かる。
「あら、仲がいいわけじゃないんですよ。ただ、私が遊んでるだけです。彼の意思は関係ありません」
エリスも性格は糞だ。
そうしていると、横にいる帽子を被った女が喋りかけた。
「あ、あの……山でおんぶは危ないですし、やめた方が……」
「私は勇者です。大丈夫です」
「いえ、彼が危ないんですが……」
「私を置いて死なせる気はありませんので、ご心配なく」
青い三角帽子を被ったいかにも魔法使いみたいな黒髪の女性は『メディ』さんという。いかにも魔法使いみたいな格好だが、もちろん魔法使いだ。魔法使いだからスキルは『魔法使い適正』だ。彼女はすごい魔法使いである。
彼女はセエレ様に次ぐ魔王討伐隊の良心だ。彼女は回復魔法も使うことができ、パーティーが怪我をしたときに治してくれる。ちなみに、俺の怪我の8割はエリス関係だ。メディさんが俺を治す時、エリスは嫌そうな顔をする。鬼畜かよ。
魔王討伐隊の中心人物は、エリスを含めた以上4人だ。もちろん後方に騎士隊が着いている。以前家に来た騎士様も、その騎士隊にいる。
4人と騎士隊と俺。果たしてこの困難な旅から無事に帰れるだろうか。……もちろん俺が。
■□■□■□
「ここね」
「ここだね」
「ここか」
「ここですね」
俺たちはシニナサイ・マウンテンの頂上に着いた。そこになにやら地下へと続く洞穴がある。
―――――シンデクレ洞穴、タイタンの住処だ。
セエレ様が前に出て、騎士隊を含めた俺たちに振り返る。
「皆、これからが本番だ。このシンデクレ洞穴の奥に、きっとやつが、タイタンがいる。魔王討伐隊を組んで初めての大物だ。国のため、民のため、そして自分と家族のため、絶対に勝とう」
皆、静かに頷く。山登りでどこか緩んでいた魔王討伐隊も、気が引き締まる。流石セエレ様だ。
「エリスさん。勇者としてのお言葉、お願いします」
エリスはこくんと頷く。
「私は貴方たちと違って、しがない田舎者です。貴方たち高貴な方がどれだけ魔王に苦心したか、どれだけ国を想ったか、私は知りません。しかし、私のような田舎者も、魔王に苦しめられ、魔王を憎み、家族や国を想う気持ちは一緒です。今、同じ国の者として、手を取り合い、必ず国を救いましょう。そして全員生きて、無事に故郷へ帰りましょう」
皆、頷く。
すごい、真面目だ。
セエレ様は流石といった感じで、エリスを一瞥し、皆を見た。
「それでは、これから突入する。エリスさんの行ったとおり、皆生きて、無事に帰ってこよう!」
おおー!と声があがる。これから突入だ!
……
……
……
「いて!」
「馬鹿セベル!そこに石があるのは見えてたでしょう!気をつけてハイハイなさい!」
「……しまらねぇな」
「……うん」「はい……」
クレスと、セエレ様、メディさんの呆れた声が聞こえる。エリスは俺に馬乗りしてる。
このシンデクレ洞穴ができた今まで、四つん這いになりながら入った者は、俺が初めてなのではないか?俺はそう思った。
□■□■□■
「……遅い!!勇者共!何を遊んでたんだ!……ほんとに何してるんだ!?」
「セベルで遊んでるだけよ。何でもないわ」
とうとう、タイタンのいる間に来た。もちろん、エリスは俺に馬乗りしたまま。
道中、魔物と出会ったが、流石にその時はエリスは俺から降りて戦った。俺は邪魔しないように端に行き、勇者たちは果敢に魔物たちに斬りかかる。エリスは勇者だけあり、強い。そうして、戦いが終わるとエリスはまた俺に乗る。移動する。……俺いる?
魔物との戦いはそんなに時間がかからなかったが、俺の移動はそうとう時間がかかった。あんな態勢で移動は流石にきつい。後ろからクレスが舌打ちしてたが、俺悪くないよな?
「この大地の死神、タイタン様の前で、よくもまぁふざけやがって……!」
遅かったのかタイタンさんもカンカンである。というより俺の四つん這いの姿に怒っている気がする。俺悪くないよな?
タイタンさんの威圧感は凄まじい。恐ろしい顔のついた大きな土塊だが、只者でないオーラがある。四天王の一柱だから当然であろう。
「……皆さん、気をつけてください。長い戦いになりますよ」
セエレさんが静かに部隊に言う。エリスは俺から降りる。
……これは厳しい戦いになりそうだ。逃げるのにな!