第23.5話 ideal
今回は、アキノと呼ばれるキャラクターの物語です。
(第三章とはあまり関係がありませんので、ご了承ください。)
……アイツが何を考えてるか、俺はわからない。
アイツだけじゃない。人間は何を考えて生きているんだ?
毎日死にそうな顔をしたヤツは、何故死なないんだ?
何故アイツはあの女の言うことを聞いているんだ。
……アイツに聞くのが一番手っ取り早いのだが、人間に干渉しすぎるなと言われている以上俺は何もできない。
やはりすべての原因は、人間の『感情』によるものなのだろうか。
俺が存在している理由も、人間の謎の力も。
……仮にそうだとしたら俺はいったい何なんだ。
わからない…………そんなこと、わかりたくない。
*
俺が最初に見たのは地獄だった。
視界の中がすべてが炎に包まれていて、あちこちから聞こえる悲鳴や子どもが泣く声。
あれが恐怖という感情なのだろうか。
ただ、見ていることしかできなかった。
そもそも動くということができなかった。
目を閉じ、耳をふさぐ。
瞳から紅い色が消えるまで。声が聞こえなくなるまで。
その後、そんな地獄を見たことを誰かに伝えるため俺はやっと動いた。
でも誰もいないし、焼け落ちた後もない。
見えるのは薄っすらと見える影。
人かどうかすらわからない。
……でも、それでも。
人であることに賭けて、声をかける。
「……おい」
影は動きを止め、こちらに近づいてくる。
「貴方は、誰?」
近くには来たが、姿は見えない。
「……わからない。 そういうお前は誰だ?」
「私は名前はアイディアル。全てを知る者といわれている」
自己紹介なんてどうでもいい。
俺はあの光景を誰かに伝えるために……!
「し、信じてもらえないだろうけどよ、俺は地獄を見たんだ」
「知っています。私は全てを知る者。貴方が聞いた声も、その見た光景がその後どうなったかも知っていますから」
影の中からは碧い本を持った真っ白な人物が出てきた。
その姿はどこかの姫かと疑うほどである。
「じゃああの光景は、いったいどうなったんだ?」
「……見ますか?」
「…………もちろん」
するとアイディアルは碧い本を開き、いくつか頁をめくりピンクの景色が広がっ光景を見せた。
……その光景を見て、言葉を失った。
あの地獄のようだった場所がこんなに美しくなるなんて……。
「……人間はすごいですよね。
あんなに焼け落ちた所からこんなに美しくするなんて」
「……わからない、まったくわからない。
なんであんな地獄をここまで……」
「クスッ、貴方は何もわからないんですね」
彼女は碧い本を閉じ、笑う。
「……悪いか」
「いえ、全然。
私でも知らないこともあるんですね」
「あぁ? 何が分からないんだ?」
「貴方のことですよ」
アイディアルは少し悔しそうな顔をしている。
全てを知るって言ってるのにわからないことがあるんだもんな……。
「俺のこと? たしかに俺は名前もわからないが……」
「なら、名前をつけましょう! そして、いろんなことを知っていけばいいじゃないですか」
「そういうものなのか……?」
「……ジョンはどうです?」
「ジョン……。由来は?」
「Jonh.doe。人間が身元不明の人物に使う名前です。」
「身元不明……ね」
正直、俺がなにかもわからない。
だから、名前としては大体はあってるんだろう。
「あんたはそう呼んでくれ。
人によって呼び方は変えてもらうさ」
「そうですか……私も通称みたいなものだから別にいいですが」
そう言うと、アイディアルは悩んだ表情でこちらを見てきた。
「……何? 俺の顔になんかついてるのか?」
「いえ。 ジョンの未来を見ていただけなのですが……」
「そうかよ。 で、どんな未来だった?」
「内緒」
「チッ、ケチだな、あんたは」
「時間の逆説が起きちゃいますから」
「なるほど。 そりゃ仕方ないか」
「……でも、私についてくれば、未来は変わるかもしれません」
アイディアルは俺の手を取り、そういった。
*
そして、今の俺はアイツの身体の中に住み着いているということだ。
アイディアルにやれといわれたからやったが、正直この行動の意味も分からない。
『干渉しすぎるのも良くない』
なんだそれ。
……まったく、この世界はわからないことだらけで困る。




