第23話 黒い影
私は今の生活が好き。
いつも通り学校に行って、友達と仲良くして。
テスト前にはいつものメンバーで必死に勉強して……。
喜怒哀楽な毎日を過ごす。
……でも、いつかはおわりが来るんだよね。
嫌だなぁ。いっそのことずっと続けばいいのにな。
『嫌ならおわらせなきゃイイじゃん!』
『君が望むなら、そのお望みの力をアげるよ?』
黒い何かが笑いながら、こちらに話しかけてくる。
……薄気味悪い。
*
「夏葵! 遅刻するわよー!」
…………変な夢。きっと扇町が作ってくれたあのノートで勉強しすぎたのかな。
「ちょっと待ってー! 今着替えて下行くからー!」
まっ、夢なんか気にしてられないか! アイツに会ったら文句の一つでも言ってやんないとね。
扇町に会ったら言う文句を考えながら、朝の支度を済ます。
携帯、生徒手帳、家の鍵、手鏡、その他色々よしっと。
あ、あとは扇町のノートも……。
「よしっ! じゃあ、いってきまーす!」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
こうして、また一日が始まっていく。
*
時は流れ、放課後。
昨日と同じ教室に扇町を除く同じメンバーがそろう。
唯一違うのが、珍しく夕凪がやる気満々ということ。
「ねえねえ、ちょっと聞いてよあきのん」
夕凪がシャープペンシルの動きを止める。
「どうかした? なんかわからない問題でもあった?」
こちらも同じく動きを止め、夕凪のほうを見る。
「昨日? 今日? どっちでもいいや、変な夢見たんだよ!」
「変な夢? どんな感じなヤツ?」
「えぇっとね、確か……」
必死になって記憶を辿っているのが分かる。
「なんでもう忘れてるんだ……」
「あっ! 思い出した!」
ガタッ
急に立ち上がり、満足気な顔でこちらを見る。
「……内容は?」
「なんか変なのに話しかけられた」
「……その話の内容は?」
さっきから僕は内容しか聞いてないな。
「なんか、世界の半分を貴様にやろう……とか?」
「それ竜王じゃねえか。あとなんで疑問形?」
「いや……絶対違うな……」
「よかった。夕凪が勇者だったら世界が終わるわ」
「終わる? あっ!」
『終わる』というワードが出てきた夢だったのだろうか。
……少なくとも夕凪の記憶力は終わってるな。
「『終わらせたくないなら、君が望む力をあげる』だったかな……」
竜王もどきじゃんか、それ。
なんかどこかで似たようなこと聞いた気がするけど……。
「確実に疲れてたな。」
「全部このノートを渡した扇町が悪い!」
夕凪が扇町特製テスト対策ノートを机にたたきつけた。
「ちゃんとやったんだな、それ」 「ちゃんとやってくれたか!」
教室の入り口付近にいる人物と声が重なった。
「扇町ぃぃぃぃ! よくもこんな、めんどくさいノートを!」
ものすごいスピードで夕凪が消え、扇町の目の前に立つ。
「わからないやつ、あったから教えて!」
*
今日の夕凪は少しおかしい気がした。
勉強のこともだし、どこか不安そうな顔をしていた。
……一応、桜木さんに話してみるか。竜王もどきのこと。
終わってほしくないことって多いですよね…。




