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マイナス同士は惹かれ合う  作者: 斑目紫音
第2章 梅の季節に咲く楓は儚く散る
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第19話 詳細不明のワタシの記憶

今回で、第2章完結です!

目覚めたとしても、全てが元に戻る訳では無い。


……私は、誰から産まれてきたのか。私の本当の名前は秋野楓(あきのかえで)なのか。


それらが絶対に正しいと証明する方法は、ない。


あの夢は私の経験したものなのか、それとも全くの空想なのか。


結局なにもわからない。


仮に真実を知ってたとしても、私は結局その真実から目を逸らしてしまうだろう。


だから、私は嘘をつく。


()()()()()()()()()()()


……もし、過去をやり直せるなら、私は何度やり直しているだろうか。


あぁ…、また頭が痛くなる。


痛みという感覚にさえも嘘をつく。


結局、私は前の自分と決別することなんて出来ていない。





今日もまた、偽りの仮面をつけていつも通りへ再出発(スタート)だ。



退院してから一週間が過ぎ、梅雨もすっかり明けて、そろそろ蝉が鳴き始める頃。


「……えで……楓」


ゆさゆさと体を揺さぶられ、目を少しずつ開ける。


「おはよう。早く起きないと学校、遅刻するぞ?」


いつも通りの兄の姿。元通りの大きさで、正義のヒーローと言うよりごく普通の高校生だ。


「んっ……おはよ。…今日って、何月の何日?」


「今日?たしか、6月29日だけど」


兄は自分のスマホをちらっと確認し、日付が合っていたことに安堵している。


「そっか…。よしっ、朝ごはんにしよっ!」


両手で頬を軽く叩き、眠気を吹き飛ばす。


「オッケー。今日は焼きたてのトーストだから期待しとけよ〜!」


こう言い残して兄はキッチンへと消えていった。


カーテンを開けると、いつも通りの景色が広がっていた。



程よく焼けたトーストにバターの香り。

サクッとした歯ごたえとそれに合う牛乳。

兄が作るトーストはいつの間にか手から消えているくらいには美味しい。


「……そう言えばさ、雪子先輩の事なんだけど」


一瞬、心臓が鉄の鎖で縛られたようにギュッとなった。


(……また、苦しくなるの……?)


「しばらくは忙しくて先に登校するってさ。」


……苦しみを悟られる訳には行かない。何とか誤魔化さないと…。


「ア、ハハ…もしかして雪子さんと喧嘩した?」


「…心当たりはないなぁ」


苦しみは(しがらみ)が断ち切られたように、次第に薄れていく。


「………雪子さんとはちゃんと付き合ってるの?」


考えるよりも先に言葉が出ていた。なぜ私は今それを言ってしまったのか分からない。


「…分からない。 だから、今度ちゃんと話をしようと思ってはいる」


「…そっか。困ったことがあったらいつでも自慢の妹を頼ってよね!!」


困っているのは私の方だ。また、嘘をついてしまった。


「ありがとう。流石は僕の妹だな」


誰かに伝えたい。この苦しみを。

理解して欲しい。この悲しみを。


「あっ、そうだ、週に2回またあの病院に言って欲しいんだ」


「…通院?それとも何かのお手伝い?」


「んー…まぁ、桜木(さくらぎ)さんって人に話をするだけだ」


……?一体何が目的なのかは分からないけど、兄ちゃんが言ったことだし、安全なのは確定だ。


「分かった。いつ行けばいい?」


「えっとな…たしか、いつでも良かったと思う」


「うん、分かった!」


まぁ、今日の放課後に行ってみようかな。


コップに残った牛乳をゴクリと全て飲み干し、鞄を持った。


「……よしっ!じゃあそろそろ学校に行きますか!」


「了っ解!」





こうして、私のいつも通りの日常がまた帰ってきた。


重くて苦しい見えない鎖を装備して。


真実に目を向けた時、彼女は本物を見つける。

そして、全てを取り戻す。


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