第14話 負症候群 〜マイナス・シンドローム〜
……予想を遥かに上回るくらい量が多かった…。
しばらくラーメンは食べたくないかな。
「「ごちそうさまでした」」
声が重なった。どうやら桜木さんとほぼ同じタイミングで完食したらしい。
「……でね、さっきの話なんだけど、」
おぉう……いきなり話を戻すのか……。
「ち、ちょっと待ってくださいね」
コップに入った水を一気に飲む。
「っふぅ。ごめんなさい、続きお願いします」
「ん……ちょっと待ってね……」
桜木さんは鞄をガサガサと何かを探している。
「あったあった!はいこれ」
付箋が大量に貼られた20枚近くある資料だ。
「…………これは?」
「まぁまぁ、読んでみなって。私はデザート食べとくからさ」
「は、はぁ……」
表紙を見るに、負についてのことなのはわかる。
だけどこれを読むには結構時間がかかりそうだ…。
「あの…これは家に帰ってからゆっくり読ーー」
▼桜木薫のくろいまなざし!
▼モミジは逃げられなくなった!
「みたいと思ったんですけど、やっぱり今読んじゃいますね〜」
桜木さんはニッコリと笑っている。怖い怖い。
「はぁ……」
思わず、ため息がでた。
……覚悟を決めて資料を読み始める。
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負症候群について
著 桜木 薫
最近、桜ヶ丘地域周辺で不思議な症状が流行している。
症状が人によって違うため、解決方法も不明。
だが、一つだけわかることがある。
それは、症状の発生原因だ。
その原因は、劣等感等への強い拒絶によって発生するということだ。
私は精神科医としての医師免許も持ち合わせているため、何人かの患者と話をしてみた。
すると、具体的な症状がわかった。
劣等感等への拒絶の意志が強くなりすぎると、それが実現するというものである。
例を挙げるなら、「ある有名アイドルがストーカーに悩まされ、他人に注目されることに嫌悪感を抱く」としよう。
『他人に見られたくない』という強い拒絶が『誰からも認知されない』という症状になるというわけだ。
例なので私はまだ、この症状は見ていない。
否。見えていないだけかもしれない。
症状が発生するなら何かしらの解決方法があるはずなのだ。絶対に。
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「……待って」
2枚目をめくろうとしたところで止められた。
「なんですか…」
「……アイスなくなっちゃった」
桜木さんはしゅんとした表情で僕にこういった。
「………………」
「えっと、この場合どうするのが模範解答なんですかね…」
「…食べるものはもうないし、23時だしもう帰ろっか!!」
……もうこの人、自由すぎる。なんなんだよ…。
「椛くんの家まで送るよ。補導されたら困るし」
「…どうも」
「すいませーん!お会計お願いしまーす!!」
*
こうして、桜木薫との夕食は幕を閉じた。
結局、楓のことについては聞けなかった。
明日また、聞いてみよう。
家に着いた時には、既に0時を過ぎていた。