ステータス2
「書き終わったぜ! 読んでくれい」
「あーじゃあ、横に日本語で書いてくな。きついかもだけど、字も覚えてかんとだなー」
「うお。うーむ、おう。まあ一発は無理かもだけど」
「そりゃそうだわな。でもすでに話せるんだから、英語勉強するよりは早いんじゃないの? まあ最初に自分の名前覚えて、次数字、みたいにやってってくれ」
「あいよー」
そして俺は、エイジが地面に書き出した記号群を読み解いて隣に日本語で書いていく。
名前:エイジ フクノ
年齢:17
種:-
属:獣人族
HP:53/53
MP:34/34
スタミナ:46/51
力:48
頑健:51
魔力:14
魔法耐性:15
素早さ:43
ワールドコマンド
グランドル大陸語
感知能力強化
回復力強化
合
あんま無かった。発動系スキルは、イミフな【合】だけか。なんか俺の【円】と、対応しているっぽい? これが特典だろうか。
書き終わってエイジを見上げる。
「こんな感じな」
「おー。何かステータスは、程よい?」
そうなのだ。こいつのステータスを書いてて自分のヤバさが分かった。エイジはしっかり正統な物理攻撃タイプ。それに比べて例えば俺のHP17なんて。もしも異世界的モンスターにエンカウントして、エイジが三分の一削られるダメージを食らって立ててるとしても、俺の場合は隣りでもう死んでるってこと?
「え、ソウマのも教えてよ」
「んー。くっそ書きたくないけど。でもスキルは何か、俺のが多いかな」
彼のスキルの横に、俺のものも日本語で書いていく。
「へー。なんか、極端だねえ」
「な。こーゆうのね、ゲーム用語で全振り、極振りっていうのよ。ハマればでかい。でも本人がミスったらすぐ死ぬ。で、今生がゲームじゃなくて死が本当に死ぬもんなんだとしたら、なあ……。そんなん、あんまやるもんじゃないよなあ」
「あー……。だな! きっついな!」
「軽い軽いエイジ、命軽いよ」
はあー、とため息が出る。
「しかもハマるって、俺のどうハマるんだ? 移動力だけで、力も魔法も全然ないぞ? これで異世界的なモンスター討伐なんて、実際可能なのかね」
「会心の一撃じゃなくて何だっけ、あ、急所に当たった! か」
「エイジそのゲームで綺麗に止まってんのな。まあでも、戦うとしたらそれ系しかない、気がする。それか、まあそもそも戦う方向性の異世界転生じゃないのかもね」
「うん、まあ生き残るのが大事よ。そもそも魔物? モンスター? いんのかも分からないしな」
「俺がいるけど」
「あ、ああ」
「マジヘコむわー。一瞬へこませて」
はーあ。ぐったりと地面のステータスを見る。
チート無双は、なしかー。異世界ハーレムも……ないよね?
うーん、見ると、やっぱ考えちゃうなあ。
なんかこうなるとハイフン記号も気になってくる。
スキルは後天的なのは後から新たに生えるんだろうけど、それに対してハイフンは、通常埋まるべきところがまだ埋まってない、っていう意味に見える。
例えばエイジの【種】とか、獣人なのに動物が何種か決まってないって変じゃね? あれってあとから決まるようなもん? じゃあ彼の嗅覚はいま何の動物として持ってるんだろうか。
まあそれはそれとしてもだ。
そうすると俺の【隷属】って。
いやいやふざけんなし。誰かに隷属する前提なんてねえしマスター埋まり待ちしてねえし。ご主人様ふざけたらいけねえでゲスよ。あ、痛い、痛い、やめてくだせえ。ゲスゲス
「なに、ふっ、ふっ、って一人で笑ってんの。怖いよ」
「黙るでゲスよ。ゴブリンサイドの話でゲス」
「あー、よく分からんけども。何かゴブリンが板にはついてきたねえ」
あふ、SAN値が。
「意味分かんないの多い中で、【寿命1.2倍】っての、なんか急だね」
「そう。これだけ急にいい感じ。むっふふ、欲しいしょ」
「んー」
エイジが首をひねってる。素直じゃないんだから。
あとは、比較的ゲーム知識がある俺がお互いのスキルについての考察を共有する。
特にエイジの【合】、俺の【円】と【レコード】、二人が持ってる【ワールドコマンド】が、重要そうに見えるが意味が分からないもの、というのを伝えた。
「【レコード】って言ったらCDの前のやつじゃん? 黒いやつ。あれほら、十分【円】だし」
「いやいやいや。さすがに違う……よね? 円いレコード? そんなんさすがに何に使うのよ」と言いつつ、俺はリクライニングチェアでうっとりとクラシックに聴き入っているゴブリンが浮かんで青ざめてしまった。
まさか………ね? いや、その欄の最後に【パルクール】生えてるし。ボックスに統一性ないし。やー、危ない、もしこれ無かったらマジで悩んでたかもなあ。
あとはエイジに点の大きさを変えられることを教えた。
「ウィンドウが出て、願えば見た目が変更可能なんてさあ。自分でリクエスト通しといてなんだけど、ここまでくると、確かにもう条理の外だなー」
「ああ、猿さん条理の外って言ってたね。そんときは雌の群れで使ってたけど」
「猿さん、て呼ぶかよ」
「まあバチとか当てる感じじゃなかったし、敬意の落としどころとしてはそんくらいじゃね? 何か話し方がバイトの先輩なんだよねー」
「まあお前から聞いた感じ、確かに美容師の軽さだったな。そしてそれはお前にも通じる」
「えー?」
きゃらきゃらと笑ってから、エイジは地面の文字を足で消す。
「んじゃ、行くべかー!」
「あいよ」
「あ、狩りは、まだしてない。でも何か本気出したら追えんじゃね? という感じはすんのよ。次のチャンスで一緒にいくべ。作戦は、頑張る! あ、あとそうだ、ソウマも何か報告あんじゃなかったっけ」
「あーそうだ」
ステータス祭りですっかり忘れていた。ドヤりたい感情も抜けてしまったので、スッと言う。
「道も町も、この先にあったぞ」




