ステータス
エイジの後ろから声をかける。
「ふっふっふ。褒めろ」
「お。おつー。何かあったんだ」
「あったあった」
「俺もねー、発見した。どっち先言う?」
「お! まじか!」
と思ってエイジを見るが、彼の手には何も持っていない。
ずんずん先へ進んでいたんで、動物のねぐらを発見したとかでもなさそうだけど。
と思ってるうちに、エイジは手を伸ばして上下に振ってきた。エイジの好きなじゃんけんね。
「じゃっけっポイ!」
俺のパーがエイジのグーに勝つ。
「じゃあ俺からね」
「おい。まあいいけど」
エイジがうへへと笑う。
そして立ち止まって俺と向かい合い、
「さあ! ソウマ君、ゴブリンソウマ! 君の右上を見るがよい!」
くっ。
突っ込むのも不発に終わりそうなのでスルーするが、事実ゆえこそSAN値が削れるぜ。
俺は黙って右上を見る。
………青空やねー。
「青空やねー」
「いや、違うんだよ。説明むずいんだけど。こう、俺の方をまっすぐ見ながら、右上見てくんない?」
「どゆこと? こう?」
俺はエイジに顔を向けて目だけ右上に向ける。
「違う。ちょっと待って。表現間違えた。あのねー」
エイジがポンと手をたたく。
「これだ。右上に何かない?」
「え」とっさにまた目が動く。
「違う。視点はそのまんまでー。景色の右上に何かない」
ん? んん?
俺は何とか右上を見ようとしてるが、目がぐりぐりと動いたり戻ったりしてしまう。
「意識だけ右上向けてみそ」
「やってるんだが」
意識だけ……。あれ、なんかある? これは……
「点?」
「そうそ。それを意識でクリックしてみて。ボタンを押す感じ」
何だこれ。視界の右上に本当に針で指した程度の小さい点がある。黒というわけでなく、景色の反転色。
そちらを目で見ずに、意識で押すという感覚が分からない。どうしても目で追ってしまうのだが、そのたびに移動した視界の同じ位置、右上部へと逃げてしまい、イライラしてもう絶対エイジから目を離さないと決めて、その点へ意識を集中した。
「えい、押した! 意識で!」と叫ぶ。
その瞬間点が黒色に変わり、視界にウィンドウが展開される。
「う、おわあ!」
半透明ウィンドウ。の向こうに、エイジが笑顔で立っている。
ウィンドウは五つの大小に分かれていて、それぞれに文字が書かれている。こちら側の文字だ。
「俺読めないんだよねー。でもこれあれじゃん、ステータス? なんかねー。目と耳と鼻だってなったから集中してたら、右上に何かいるって気付いて……」
俺はほんわか喋ってるエイジをスルーしてウィンドウを目で追ってしまう。
各ウィンドウボックスが何を表すかの説明はないが、分類ごとで分けられてるんだろう。
「ちょ……ちょい確認させて」俺は手を挙げてエイジを止める。そのみどりい右手の甲がウィンドウの向こうに映る。
上は………現在ステータスだ。HP、MPなどがグラフの横に数字表記され、素早さとかがある。左上は、名前や種族か。
名前:ソウマ(仮)
年齢:17
種:ゴブリン
属:魔人属
真名:ソウマ
HP:17/17
MP:25/25
スタミナ:80/82
力:10
頑健:7
魔力:16
魔法抵抗:18
素早さ:48
ワールドコマンド
グランドル大陸語
隷属:-
寿命1.2倍
遠路
感知能力強化
円
レコード
パルクール
うっわあ。ついに出た。出たわー。ステータスー。
異世界転生したわ。俺したわー。来たんだわー。
上から読んでいくが、後半がほとんど分からない。遠路? 円?
と思って見ているウィンドウの向こうで、気づくとエイジが野草を蹴り始めていた。
「エイジ、エイジ」
「お、読んだ?」
「いや、もうちょい見たい。し、エイジのも見ないとだよ。そこらへんの地面に書き写せる?」
「あー、なるほどね。んじゃ歩くのはいったん休憩だな」
「そりゃーそだ。そりゃーそだよ君。こんな重大発見」
「な!? だべ? まあ俺は読めないんだけどねー」
そう言ってエイジは書くのによい場所を探してうろつき始める。
俺は改めてステータスウィンドウを見ていく。
【名前】と、【真名】? ソウマ(仮)? (仮)付けんなし。苗字消えてるし(仮)付けんなし。なんで【名前】だけ仮扱いなんだ?
で、まあ、【種】はやっぱりゴブリンなんだねー。分かってたけど。心の準備はしようとしていた。
ふむ、【年齢】は人間時代のまんま引継ぎか。
そして【HP】と【力】ひっく。さらに【頑健】紙。【頑健】半紙。これはまずい。幼児や乳幼児の【頑健】を確認したい。
で、【スタミナ】が急にどーん、か。まあね。こうして見ると、短い間にしてはニューボデーをまあまあ把握できてたかな。【力】? 気付いてた。【素早さ】? チワワウォークのことかな。エイジの半分以下の体格でさほど変わらないしね。
とにかく、ガテン系は捨てて移動系に全振りしたタイプってことか。……うわー。とっさの判断をしくった瞬間、死ぬ、ってこと?
レベルがない。ジョブがない。意外とゲーム感薄いのかも? これは心にメモメモ。
そして、こっからが問題のスキルですわ。
何【ワールドコマンド】って。ジャンプ臭がする。黒い武器出る? とにかくいきなり不明スキル。なんか音の響きは怖めだけど、強いのかしら。「これは世界の命令だ」みたいに最終兵器的な? だったらチートになるからいいなあ。
【グランドル大陸語】つってもねえ。母さん、いま俺、グランドルに来ました。
で【隷属】ですわ。これは聞き捨てならない。え、俺が誰かに仕えるの? 誰かが俺に仕えるの? ゴブに?
ほんとにスキルなのかこれ。隷属が上手ってなんだよ。頭にへんな姿が浮かぶじゃんか。ともかくいまのところはハイフン表示で起動してないっぽいのが救いだ。ちゃんと情報がそろわない内に埋まってしまう事態になると、相当まずいことになりそう。これも心にメモメモ。
【寿命1.2倍】。これは急だなー。え、これが転生者特典? とにかくラッキーでしょ。このままの意味でいいんだよね?
【遠路】? そりゃあ確かに、はるばる来たぜ異世界、なんだけど、そういう意味じゃないよねー。じゃあ何だろう、遠距離移動が可能ってことかな。【スタミナ】とはどう違う?
あ、【遠路】を持ってるから【スタミナ】が高い、ってことか? そうっぽいな。ひとまずそう思っとこう。
【感知能力強化】。これは、さっきの聴力のことだよねー。多分視力もいい。これは今後とても助かるはずっす。生えてくれてありがとう。
しかし、なー。強化って一言で済ませてるけど、俺は目と耳が強化されてて、エイジにはさらに鼻がつくとか、そういう見分けってつかないの?
なんか、スキルってずっと情報が足りなすぎだよなー。
ちょっとスキル欄を頭の中でクリックしてみる。開かない。『開け』と心で唱えてみる。開かない。
………んー、スキルって説明もレベルも無しなのかな。雑過ぎなんじゃないかなー。
【円】。お前舐めてんの? 一文字でぽんって、理解される気はあんの? いったいおいくらなのかしら? どうせお高いんでしょう?
レベルもないし、不明スキル。
【レコード】。そっかレコードかー。何か分からんけど、なぜ急にカタカナよ。記録系? 不明スキル。
再度、ウィンドウの文字を意識内で連打してみる。うんともすんとも開かない。
【パルクール】。これなんかもう、最近の言葉だよね。フランスなら昔から言ってたかもしれないけどさあ。
【グランドル大陸語】の脳内変換の方針が分からん。
……ああ、もしかして、俺の知ってる言語で該当単語があったらそれに脳内変換されるってことかしら。そっか、それなら【HP】【MP】から急に【スタミナ】って、‘P’が外れることも説明できる。で、単語がなければ近い日本語か英語の組み合わせ、みたいな。
まあじゃあチョコドーナッツを表す言葉に出会っても、円盤型小麦粉油揚げ焙煎カカオマスの甘味仕立て、とかじゃなくて、ちゃんとチョコドーナッツへと意味変換されてくれるってことね。
で、【パルクール】なんだけど、そもそもこれは……もしかしてさっき生えた?
幹ダッシュはとても怖かったし、苦労したんだけども、あの時間は無駄じゃなかったってことかしら。それに、あんくらいで生えてくれちゃうもんなの? それとも俺がスキルを元々持ってて、だからあんな短時間で登れたんだろうか。
んー、ゴブリンに【パルクール】なんてギフトされてなさそうだしなあ。よし、さっきの努力で芽生えたと思っとこう。
ふむ。スキルが見れるのは分かったが、結局、ハテナが多すぎる。
最後の空ボックスはもう放置だな。で、スキルっぽいのが二箱に分かれてるのは何だろう。先天と後天、じゃ分ける意味がそんなにないし………。
恒常スキルと任意発動? そっちのが、ぽいな。そう思っといてエイジのを見てみるとしよう。
一応ざっと見終わった。
しかし……と右上の黒点を押してみる。
閉じた。ぐっわあFPSかコレ。なるほどね。
しかしもうちょい大きくならないのかな。押しづらい。と点を見ながら思った瞬間、それがボリュームアップした。おわ。
え、もうちょい小さく。5ミリぐらい。あ、うんそうそう。そんくらいで。
あ、じゃああとさー。怒らないで聞いてね?
その、HPとか入ってる箱だけ、常時表示とかできないかなーなんて……あそうそうそうそうそう! これ。
え、ここからクリックすると……全表示。もっかいクリックすると? 全閉じー。そしてもっかい! HP箱のみ! 最高! 最高のユーザーインターフェイス!
……と喜びつつ、よく考えると怖いな。
え、誰が俺の思念波聞いてんの? 白猿? いないよね? 万物とかすべての人の心の中とか、いなくていいからね。




