表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブリンダンス ~余命一年の最弱魔人~  作者: 百号
友人獣人俺ゴブリン 篇
6/55

ケモだな


「とりあえずの目標として、道、町、家、とにかく人工物が見つけられると、ぐっと状況がよくなるんだよな」


「んー」


「あ、ほかになんかある?」


 エイジがこちらをちらりと見下ろす。


「一個。言っちゃうよ?」


「お、怖いね。何よ」


「なんつうか、お前ゴブリンじゃん」


 うん、と先を促しかけて、ビクッと来た。思わず立ち止まってしまう。


「うっわ」


「そうなのよ」


「うっわまずいじゃん。えー」


「やっぱ駆除対象みたいな可能性は、無きにしも非ず?」


「いや有りにしも有りんすだって。ああ、待て、どうだろう。転生モノは間口が広いからそうとも言えないか? ねえ、だって普通、駆除対象と人間をペアにするか?」


「分かんないねえ」


「分かんない…なあ。マジか」


えー、ほかの人間が見つかるか分かんない上に、見つけても助かるかは分かんないのか。


「うわあ、すまんのう……」と思わず謝ると、エイジはうっははと笑っている。気にしとらん、の意味だ。


 これは、迷惑かけるわけにいかんなー。

 自分の中での懸案事項に、人間を見つけたらどう動くべきかというのを追加し、いったんTODOを頭の中で整理する。

 

①【ここに来て渡された能力とか、体力とかの調査】→随時やってく

②【ナイフとコインの意味、用途】→後回し

③【現状を動かす(人や人工物を探す)】→最優先。解決までこれを目的に動く

④【人間を見つけたらどう動くべきか(ゴブリンの処遇)】→早めに作戦決める


 こんな感じかなー。まずは③を定常的にやりつつ、④を優先で決めとく。で、①はまあ、ぼちぼちな感じで?


 早速エイジに共有して意見を聞いてみた。

エイジはしばらく歩きながら考えて、ちょっとこちらを向く。


「えっとねー。【現状を動かす】のが超重要なのは一緒なんだけど、それは【人や人工物を探す】じゃなくて、【死ぬのを回避出来そうならいんじゃね?】でもいんじゃね? ①と④も少し関わってくるけど」


「ん? 死ぬのを回避って、いっしょじゃないのかそれ」


「いや、ほかの人間探すのが唯一で最優先じゃないんだって。たとえば草原で生きていけるならそれでもまずはいいじゃん。その後で生活レベルを上げたい、が出てくるかも知れんけど、まあそれはそうなったときの課題でいいし」


「あー、そういうことか」


「そうそ。で、それには俺たちの能力とかそういうのを自分でうまく解明できといたら、なんか助けになるかもねー、っていうので関わってきてて。あと、まあ④の【人間見つけたとき】は考えといてもいいけど、人間見つけても行かない選択肢もあるかな。なんてね」


「なるほどなるほど。すげえ。どした、賢いじゃん」


「まあねー。ゴールがちょっと違ってただけ」


 確かにそうだ。生きていけることが確保できるんならまずはそれでよく、ほかの人間に会うのが必須条件というわけではないんだ。野宿で体の休息が取れるとすれば、もう残りは水と栄養、と言ってしまうこともできる。もちろん徐々に衰弱していくことは避けなきゃいけないけど、でもそこらへんは次点の優先度として後でTODOに追加されるだろう、とか、そういうことか。


 エイジがいう通り、ゴールが違うと色々少しずつ変わってくるな。

そして、ここでもゴブリンの処遇について、どっちでもいいよ、と、エイジにフォローされた気がする。

 甘えてちゃいけない。こっちの人間に初めて会ったとき、どうするのか。これはこれで、やはり考えておこう。人間に助けてもらうことにこだわらないとしても、人間を見つけたときにうまく接すること自体は、決して悪いことにはならないはずだ。足を引っ張るわけにはいかない。


「でさー」


「うん?」


「音、すんだよね。俺だけ? サッとかカサとか」


「いま?」


「いまも。ちょいちょい。何かいるなら、【生き残る】に繋がるじゃん。ちょっと気を付けようか」


 それはそうだ。

 耳をそばだてつつ、しばらく二人で歩く。


 カサ


 おう。聞こえた。てか聞こえてた聞き流してた。普通に草の音かと思ってた。

 俺達はバッと左前方を向いて、同時に立ち止まった。

 

 5秒


 10秒


 うーむ、動きがない。

 と思っていたら30秒後ぐらいで、黒っぽい生き物が動いた。そしてその動きに合わせてまたカサッという音が届く。


 小っさ。

 うわ小っさ。遠。


 え、あれ?

 あれが動いたのが聞こえたってこと? あれ、そもそも超絶小さいよね。何? ネズミっぽい? それが、200メートルくらい離れてるよね。


「おいおい、あれ聞いたんか俺ら」


「っぽいねー。やっぱ聞こえたよね?」


「おう。こりゃあー、あれだな、耳よい設定だな、二人とも。へー、音が全部うるさくなるってわけでもないんだな」


「だなー。また1個分かったね。あ、あとね。俺鼻。お前は?」


「鼻って、あれか、嗅覚だな? ちょ、待てどれどれ」


 俺は鼻を澄ます。というのが正しい表現かは分からんが、そっと集中して吸ってみたり、目を閉じて首をめぐらして何度もクンクン嗅いでみたりする。


「ソウマ……ぶほっ。くっ」


「うるせえ。ちょっと待てよく分からん」


 大事なことなので、地面に四つん這いになってもう一度試す。うーむ分からん。


「くふぅっ! ずりいぞ! お前いまゴブリンで、パーツパーツはソウマなんだからな!」


 こいつのゲラは無視してもう少し嗅いでみるが、草原の草いきれの匂いは人間時代とあまり変わってない印象だった。


「あまり変わってる感じは、しないかな。エイジはどうなん」


「あー、草と土の匂いがくっきりすんね。草の種類ごとの匂いってこんなに分かるんだなーっていう感じ。それに混ざって、生き物の匂いってか、痕跡? こうやって歩いてるだけでも、ここに獣っぽいのが何かいたなあ、とか、あっち行ったのかな、とか。結構最近だろうなとか前だろうなとか」


「まじか! おお、すっげえ。それが本当なら、結構重要な能力じゃね? 自炊の可能性思いっきり上がらね?」


「そう? かもな。試してみないとだな」


 というか、そうか。

 ケモか。

 エイジはケモか。ケモだなこいつ。ステータスの確認は必要だが。


 えー………。そうだとすると………。ずるいー。


 俺がゴブでエイジがなぞの獣人? ステータスアップだらけで、見た目は人間で?


すげー不公平じゃね? 何かムカついてきた。


「お前、なぜヒト耳を生やしてるお前」


「んん?」


「いやもうネタは上がってんだ。獣人の可能性がガン高だお前は色々と。ほぼ100%だ。異世界来て嗅覚聴覚ジャンプ力上がってもうほぼ獣人確定なのにケモミミ生やしてないとか、邪道すぎだぞお前、一部ファンに叩かれまくるぞ。あと俺はすでに無性に殴りたい。ゴブリン代表の想いと祈りを込めて」


「獣人って。えーとなんか、獣と人のハーフみたいなやつ?」


「そう。獣の耳としっぽを生やすのが日本では義務化されとる。オオカミとか猫とか。そしてそのケモの能力も何かうまい感じに引き継いでるズルいやつだ」


「え、えー………。まじか………。まじか親父………。」


 ん? んん?


「あー、ちゃうちゃうちゃう。お前が想像するような出生の秘密は持ってないはずよ? えーと、だから例えばー。オオカミ獣人の村とかがどっかの森にあってー、そういうとこでケモミミ同士が結ばれたら当然ケモミミが生まれてー、もし人とケモミミとが結ばれてできたハーフだと、どっちタイプになるか分からん、みたいな」


「ああ。そういう感じなんだ。え、じゃあ獣人と人の子供だと、いまの俺みたいになるとか?」


「ん? そう、なのか? どうだろう設定集ほしいな」


「な、どれもなんか分かりそうだけど、答えまでは出ないんだよな」と、エイジは明るく笑う。


「まあ、いまは各種ヒントを拾い中ってことだなあ」


 エイジが歩き出して周りを見回す。


「どっかで、あのネズミやら兎やらの捕獲作戦に切り替えるのもありだね」


「選択肢は増えたね。んー、捕まえるとして、でゲットできたとして、そしたら次は食い方になるか。細菌や寄生虫を考えると火、だよな。あ、でもゴブリンと獣人か。ギャンブルありかも? だな。あとは水。食べ物から摂れる水ってどんぐらいなんだろうな。朝露とか雨も合わせたら結構いける?」


「なるほどなるほど」


「エイジは、腹は?」


 エイジが自分の腹をおさえて問いかける。


「いまは減ったーって感じじゃない。あれば食えるな、くらい」


「腹減ってから狩猟にチャレンジしてたら遅いかも。獣人系は食いしん坊設定が多いからなー。オラ腹減っちまってリキが出ねえよ、とか聞きたくないし」


「まだけっこう大丈夫そうよ?」


「んー…」


 俺はまた二人の作戦をかちゃかちゃしてみる。


「作戦出していい?」


「お、聞きましょ」


「ざっくり言うとー、エイジは狩りのメイン担当で、俺は周辺の斥候。エイジの狩りのターゲットは小動物系のみで、出来る限り二人がかりで行く感じ。それ以外は、あれだ、むしろ逃げねばだな。二人のうちお前はダッシュ力タイプで、俺はちょい遅いけど持久力あり。巻き狩りとか、あとエイジの身体能力なら投石も入れられるかとか試しつつでもいい。方針考えながら、目と耳と鼻はずっと探しとく。時間的、空間的に遠近の感覚も意識してほしい。ここまでOK?」


「ん、いいねえ。分かりやすい」


「じゃあ、よろしく頼む。で、俺は、高い丘とか木とかあるたび、先回りしてそこにのぼるわ。気を付けるけど、ちょっと音的にお前の邪魔になったらすまん。お前にはこの方角で歩いてもらって、俺ははぐれない程度でお前に合流したり別れたりして、見渡す範囲を広げる」


「あれ、木登りはできんの?」


「試してない。けど身軽設定だから、むしろ試しておきたいし」


「んー、おっけ。完璧」


「簡単に完璧って言うよなお前って。まだあんのよ。俺は木の実とか、そこらへんも気を付けとく。あと石を一、二個拾っておくから、もし俺が大チャンスの獲物を見つけたら、お前に向かって投げるってことにしよう。これはお前もな。俺が視界にいなかったときはソロチャレンジの判断も任せるってことで」


「いいねー。一回一人でも追ってみたいけど」


「あんまり無駄打ちは避けたほうがいいと思うぞ。体力回復の目途が今はないから。で、それを時間を区切ってやりたいんだが……」


 あたりを見回す。


「太陽でいいんじゃん。ソウマの肘まで落ちたらとか」


「肘? でもどっから動いたかが消えてんじゃん」


「いや、地面からの肘。丘で誤差はあるだろうけど、だいたい」


「あ、いいねえ。それで行こう」


 俺は立ったまま肘を地平線に合わせて、太陽の位置と比べてみる。

 1時間で15度だから……。


「たぶん2時間半くらい、かな。地球といっしょならだけど。そしたら方針転換が必要か、また作戦会議しよう。俺も考えとく」


「オケオケ、以上?」


「とりあえずは」


「じゃあ、作戦開始ー」


エイジがヘラっと笑った。こいつ何かこの状況楽しんでないか、と思ってしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ