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ゴブリンダンス ~余命一年の最弱魔人~  作者: 百号
友人獣人俺ゴブリン 篇
5/55

微かにロックが聴こえたね


「とりあえず、動くべきだよな」


「あー、もう動きながら考えた方がいいかもねえ」


「そうすっと、あとはどっちへ進むか、か」


 無策なのは分かってる。が、ここはだだっ広い草原のど真ん中なのだ。このままここにいて状況が好転すると考えるのは、楽天的過ぎるだろう。

 と言っても、どっちに何があって、どっちが進むといい方向なのか、そういうヒントは何も見当たらなかった。


「方角…。俺ら一時間くらい話したよな。太陽の位置か…。地球といっしょなら15度ぐらい動いてるはずなんだが、全く見てなかったね」


 エイジも真上にある太陽を見上げる。


「ああ俺も。そういうのも大事になってくんのかもねい」


「そうな。まあいまは方角分かったとしても、東に何があって西に何があるか分かんないんだけど」


 俺達は丘陵の頂まで歩いて、周囲を見回してみる。

 木が数本生えてるところや、小さな林っぽくなってるところが見える。

 でも基本的にはどっちを向いても草が生えた丘陵で、それがどれだけ広がってるのか分からない。


「野宿ならまあ前に何回かやったしな。あったかさ的にはイケるっしょ。でも、腹が怖いね」とエイジがぼやいた。


「腹って、飢えだよな。急に怖い言葉、来るなあ」


 エイジとは、高1と高2の夏に寝袋旅行をしたことがある。

 十八切符などを使って海沿いを電車で進んで、適当に栄えてる駅や無人駅で降りて数時間歩いたりして、夜には砂浜や、海の家の座敷に忍び込んでそこで寝るのだ。四隅に蚊取り線香を焚いて、暗闇と波の音の中でちょっとのあいだ語ったりもするがいつのまにかどちらかが寝付いていたりするような、青臭い貧乏旅行だ。

 ただその旅の行程には各所にコンビニがあり、ペットボトルの飲料やおにぎりがあった。


「いまはコンビニなしの、ナイフ一本のみ。サバイバル知識だって大して持ってない、か。これって、進む方向がめちゃくちゃ大事じゃね?」


「あー…」


 エイジは四方を見回している。

 俺も考える。何か、何かないか。太陽、木々、草原の傾斜。風向き。

 走れる距離は増えてたようだけど、それって長時間動けるのとイコールでいいんだっけ? 両方スタミナとは言いそうだけどなー。


1分程度二人で考えていると、エイジが俺を見てにかっと笑った。


「俺、決めていい?」


「んー、何かあんの?」


「ないけど。どっちもアイデアは出なそうだし。決めた方がいいやん。まあ決めて、もしそれでしくじったら……」


「おう」


「たぶん一回謝るわ」


 そう言ってエイジはウハッと笑い、「しょうがなくね?」と付け足す。

 思わず俺も笑う。こういうとこだよなー、と、どういうとこなのかも分からずに思ってしまう。


 変な決断力と、乗っかってしまいたくなる雰囲気を持っていて、そしてもし何かしら失敗しても彼は笑うだろうし、周囲はそれを恐らく許せてしまうのだろう、そういったキャラ持ち。ずっこい主人公体質。

 そして嫌な奴じゃないんだこれがほんとに。


 自分がこの先来るかもしれない極限状態になった時に、果たして今みたいなテンションで許せるのかは分からないが、でもやっぱりここは乗っかってしまおうと思わせてくれる。たとえ極限に近づいてきたとしても、その状況はエイジの責任でもないし、むしろそうなったらその心理状態自体がどちらかというと俺の責任だし。


 とりあえず黙ってどちらも指針も根拠も出せないままで、初期地点に居続けるのが悪手なのは間違いない。責任取れずに責任の大きさばかりのたまいあってデッドロックしてたら、それこそ飢え死にしてしまいそうだ。

 その場合、隊商とか行商人が通りかかるような奇跡にしか救われようがないのだ。


「隊商…。そうか、道は探したいな」


「道も見当たんないな」


「ん。だからまずはエイジに乗っかんのでいいや。町は点でも道は線だから、まだ確率高く見かけられるかも。限界来て倒れるにしても、そこで倒れときたい。あとは途中途中で、遠くを見渡せそうな場所があったら登っとこうな」


「あいよー。ではでは」


 エイジは両手を指さし状態にして「びゅんびゅん」と声に出しながら上下左右に振る。

 くっそガキか。


「はいこっちー」と片手で指すと同時に歩き始めたエイジを、少し遅れて追う。


「ノーヒント?」


「ノーヒント。でもこっちから、微かにロックが聴こえたね」


「おお。TOKYOの?」


「そう。TOKYO CITYのサウンドが。俺には分かる」


「そっかあ。俺らもついにTOKYOかー」と呟く。1時間前には住んでたんだが。


 何にせよ俺たちは太陽から10度くらい左手側に定めて、歩き始めてみたのだった。


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