表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブリンダンス ~余命一年の最弱魔人~  作者: 百号
友人獣人俺ゴブリン 篇
46/55

インターバルトーク


 俺とエイジは朝日が出た少し後ぐらいに、早朝鍛錬のために家を出た。最初はそのまま空き地には直行せずに、中央広場まで時計石を確保しにランニングをする。


 時計石というのは一回分のタイマー機能が付いた小石程度の小ぶりな魔石のことだ。元はクズ石に近い魔石らしく、それに五とか十半とかの時刻が刻印されている。石ごとに設定された時刻が来ると、ブーン、と震えたあとに黒色へと変色するのだ。

 時計台の下の露店には設定時刻ごとに何十個かずつ置いてあって、その後ろにはシフト替わりで色んなお爺さんがちんまりと座っている。チビッ子のこともある。時計石の貸り出し時には20ラル必要だが、返却すると17ラルが戻ってくることになっていた。借りパク対策はこの値段設定でやっているんだろう。

 夜の闇が深いこっちの世界では、案の定就寝が早い代わりに一日の開始もとても早い。広場では時計屋以外にもいくつかの露店がすでに開いていた。時計台の下には一日を始める人たちが十人ぐらいいて混み合っている。


 時計屋に着いたのはもうすぐ二半になる時刻で、そこで変色後の魔石みたいな顔をしたお爺さんから石をふたつ借りる。朝練を終える四の時の石と、エイジに言われて七の時の石だ。

 俺とエイジはそれぞれ石をひとつずつポケットに入れて、今度は空き地へと向けてまたランニングを開始する。



「ソラマメって二日酔い、ないんだねー」


「ん? そうね。まあ言っても昨日はそこまで飲んでないし」


「お。ほほう?」


 エイジが走りながらこちらに顔を向ける。


「ソラマメ氏にいたっては、当時の記憶はおありですかな?」


「なぜ紳士調なのか分からんが。記憶は、ちゃんとあるよー。主にセブンアップさんとだけど、普通に談笑してたじゃん。いっぱい話したからこまごました内容のことはアレだけど」


「ほほう」


「あれだなー、最初の印象は怖そうだったけど、なかなかいい人だったな」


「そうだね。そんで、自分がどんなだったかは覚えてる? 帰りのことは?」


「だから、普通だっただろ。え? 何か変だった? 帰りもセブンアップさんと普通に帰ったし」


 そこまで言って自分で疑問が浮かび上がる。


「って、ん? 何で先に帰ったんだっけ。しかもセブンアップさんと?」


「ほほうふむふむ」


「あれー。何だっけか」


「そうかそうか。そうゆー感じなのね。セブンアップさんと色々被るなーお前」


 そう言ってくつくつと笑ったあとに、エイジはこちらを向いて、「うん、ソラマメくんは、今後お酒禁止ね」と言った。


「え、何で? すげー気分良かったしお酒って思ってたより美味しいんだなーって昨日つくづく思ったんだが」


「禁止。俺が許可したとき以外は、飲酒、ダメ、絶対」


「え、え? 何したん俺」


 そこからはいくら尋ねてもエイジは正面をガン見しながら無表情に走るばかりで、最後の方は「ねえ怒ってる? あたいのこと怒ってるの? あたいバカだから分かんないけど、何かしたの?」と下手になって懸命に語りかけていた。

 そうしてるうちに俺とエイジは空き地へと到着する。禁酒の理由は聞けずじまいだった。


 柔軟体操を挟んだ後は、二人でペースを上げて走り出した。今度はランニングじゃなく、ダッシュ。まあインターバル走ってやつだね。

 インターバル走のインターバルの部分で、昨日エイジが収集した情報について共有してもらう。


 感想としては。

 ぐお。俺つかえねえー、だ。

 エイジがこんだけ色々聞いてくれてるのに、俺はセブンアップとキャッキャウフフしたあとは、じゃあね絶対また会おうねバイバーイ、と退場してしまったのでびた一文も情報を増やしとらん。


 すまぬー、という顔でエイジを見たら、向こうにもあっさり伝わったのか「酒、禁止ね」とまたにっこり言われた。


 いやあしかし、最後に、アベちゃんかー。俺たち以外の転生者で、しかもそれが、あのアベちゃん。これは事件だ。


 俺にとったら彼女の印象は『たまに見かける他クラスの生徒』だ。話したことはない。

 いつも短いショートボブで、髪が顔に半分掛かりながら廊下を俯いて歩いている気弱そうな女の子。

 エイジからは、休み時間や放課後話すたびに「アベちゃんがさー」と楽しそうに言うのをよく聞いていて、そしてある日を境にぱったり何も言わなくなった、そのお相手の女の子。

 何があったかはしばらく後になってからエイジに直接聞いた。まあ聞いたところでそういう経験がろくにないクラスクソ虫のこの俺は、「はあ」と「へえふうん」と、最後に「アベちゃんってより、思春期に振られた感じかね」「決まり手は思春期による押し出し。エイジの白星」という、何の意味もなさず慰めにもならないクソ虫らしいコメントだけ返しておいた。

 エイジにとってのみ超重要キャラであるそのアベちゃんが、偶然にもこちらの世界にいる、と。あの落ちてきたっていう電車に乗っちゃってたのかしら。

 ありゃー。



 俺たちはラストのダッシュを終えて、しばしの休憩に入った。エイジは仰向けに寝そべってぜはぜはと胸を上下させている。


「……昨日、は、……そんなとこ、かな」


「うむ。よー分かったっす。ありがとう」


「……感想、は?」


「感想? 何だろう。まあほんと、色々聞いてくれたもんだよなー」


「まず、ゴブリンの、博士、は? ま、結局デルガに、行く、だけか」


「そうなー。でもその人の情報を持ってんのがデルガの偉い人ばっかになりそうっていう面倒な予感はしてきたね。あとそのゴブリンは見た目が変わってるって、セブンアップさんが言ってたんだよね」


「うん」


「でもゴブリンはゴブリンだ、と。そうするといま時点の勝手な予想では、そいつは通常種のゴブリンとは少し種が違ってたりとかで、だから長寿だったりするんじゃないのかなーと、そう思った」


「え、もし種が違ってんなら、何を聞いても意味なくね?」


「まあ、もし最初から単純に種が違ってたら、確かにどうしようもないなー」


「うん」


「でも、もしゲーム的な概念で、何らかの条件を満たせば俺みたいなのにも『進化』っていうのが可能なんだとしたら、ワンチャンは残ってると思う」


「進化……」


「例えばねー。前のゲーム界ではホブゴブリンっていう、ゴブリンの上位種がいたりするのよ。知ってる?」


「知らん。強いの?」


「ちょっとだけ強い。で、もしこっちの世界ではそのホブゴブリンってのが一般的な存在じゃなくて、だから人々には『変わってるゴブリン』って言われてるだけだったなら、じゃあ次は俺がゴブリンからホブゴブリンに上がれる道筋がないかっていうのを調べればいいじゃん。で、丁度その博士が魔人種に詳しいっていうんだったら、その人に聞ければいいじゃん」


「ほー」


「それとも博士はほとんどゴブリン種のままで、でも内部的に何らかの進化をして長寿と知恵を手に入れた、とかね。まあ結局デルガ行って彼の情報を集めるのは変わらないんだけど、プラスで『進化』って概念がモンスターなどにあるのか、ってのも調べていきたい」


「なるほどねー。オケオケ。ちょっと、進んだ感じ?」


「んむ。だからありがとう」


「ドゥシタマシテー。あとはドラゴンの話だけど、天敵じゃあないんだってねー」


「それな。ほん、それな。俺の感想としては、『あれで天敵じゃないんかい!』だわ。あと『南門には絶対行かねえ!』だな。あとはそう、『でも勇気出たら恐怖耐性育てに行くかも!』『そんときはヨロシクね!』だな。これも聞いてくれてあんがと」


「ドゥシテマシー」


 エイジは俺の切羽詰まった声音に対して笑ったあと、ふ、と不自然な息継ぎのように黙り込む。


「ええと。……じゃーあと、アベちゃんの件」


「アベちゃんなー。アベちゃんさん。うん、エイジこれは、喰らうよなー」


「うーん。喰らうってか、まあかなりまたアップセットはしちゃったね。今日会ったらまず謝りたいのよ」


「アップセットて何だっけ。狼狽?」


「そうそ。なんか『狼狽』よりも狼狽っぽくない?」


「出会った瞬間エイジはアップアップ寄りにセットされたわけね。何となく浮かぶわー。見たかったわー」


 ケラケラ笑ってから俺は自分の考えを言ってみる。

 実際には話してないしまた聞きでしかないけれど、俺の感想としてはアベちゃんは、


・知らない振りをしたい説 40%

・記憶喪失説 50%

・空似説または異世界ドッペルゲンガー説 10%


 ってところかなーってところかな。

 ほんとならドッペルゲンガー説がもっと高かったはずなんだけど、これはエイジの慧眼によって右上アイコンがお互いに見えてるという共通認識を持てたので、どかんと一気に下がる。

 俺は言葉を続けた。


「だから、知らない振りなのか記憶喪失なのかが早めに分からんと、俺たちとしても対応しづらい気がする。普通に今日話したらあっさり分かるかも知れないけど、そこには注意しときたいな」


 エイジがこくこくと神妙な顔で頷く。


「めっちゃ、よく分かる。アベちゃんが俺らのことを知らない振りがしたいなら、その背景が見えないことには深追いしていいのか分かんないもんね。逆に記憶喪失だったらいまだって絶対混乱してて、困ってるはずだもん」


「うん。そうだったら俺らが知ってる情報は全部提供してあげよう」


「うんうん。そだねー」


「ただエイジさ、その先はどうしたい?」


「ん?」


「アベちゃんさん。てか、彼女のためにはシオって呼んどいた方がいいか。今後、シオのことについてどうしたいか」


「どうって。どう、かー。別に決めてない。それも話してからじゃん」


「それでもいいけど。ただ向こうはもう仕事やってて生活基盤があるんだから、ありがちな『パーティー組もうぜ!』『同じ目標持ってやってこうぜ!』になる話かどうかは、こっちだけで決めれるもんじゃないよね。こっちの情報をあげて考えてもらうとかならいいんだけど」


 なんせ数少ない同郷なんだし、向こうが何かに困ってて、こちらが協力することができるものなら、その力を割くのはやぶさかではない。とりあえずは今日会ったとき、こっちが持ってる異世界情報をあげるのとかね。

 でも、安直に「同じニッポンジンだー、ウェーイ! ヨ! ヨ! ヨ! ヨーホー、カムトゥゲザー!」とはなれないし、今後どういう関係を続けるかはお互いの望みとか利とかマイナス面とかを考えつつやっていかなくてはいけないはずだろう。


そこら辺を、そのままエイジに共有しておく。


「んー、そうか。……うん」


「悪いけど、エイジはテンションがどうしても盛り上がりやすいところっぽいんで、俺は余計にドライ目に構えとくね。あ、つっても何も反対じゃないのよ。ただ『なんでもしてあげる』状態でもないから、何かあるたび俺らで話し合っていこって感じ」


「ん。了解」


 あ、ちょっとブルーにしちゃったかな?

 まあでもあとでトラブる方が怖いし、ここは正直に言っとく方針で。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ