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ゴブリンダンス ~余命一年の最弱魔人~  作者: 百号
友人獣人俺ゴブリン 篇
40/55

薬草納品


 川から折り返しながら引き続き薬草を採集していく。

 途中で先ほど話を聞いた馬車と冒険者の一団が追いついてきて、手を振られたので会釈を返した。みんなルーキーに優しいなあ。うんうん。ほっこり。


 閉門まで余裕を残して北門まで戻ることができた。門柱へと近づくと、珍しくリオン先生が守衛をしている。珍しいというのも、俺が会うのは袋入りの野宿道具を工面してもらって以来なのだ。


「この前はほんとに、ありがとでゲシた」


 門の前で俺がぺこりと頭を下げると、リオン先生は苦笑したように顎ひげを撫でる。


「しかし、お前らがまさかグラントさんのところで面倒見てもらうことになるとはなあ。アッソらが色々と無理をぶっ通されてしまったようだが、まあ、クク、あの人にはなかなか逆らえん。どうだ、大変なじーさんだろう?」


「いや、結構良くしてもらってますよ。まああんまり色々話さない人ですけどねー」


「ふふ。そうか。で、お前ら今はもう、冒険者になったんだな?」


 リオン先生が俺とエイジの腰に掛けられたギルドカードを見やる。町を出るときと入るときに変に止められたくないから、見やすいように紐を通して腰に下げてあるのだ。


「はい。まあ徐々にやってこうかなー、と」


「そうだな。無理はすんなよ。いまは採集の帰りか?」


「はい、今日は手始めに薬草を。ソラマメと一緒に覚えながら、やり出したところですね」


「おう。それでいい。ゆっくりやっとけよ。衛兵やってると毎日見送って出迎えてだからな、色々うんざりなんだよ。今日中に戻るって手を振って行ってそれきり帰ってこない冒険者なんてのは、一番よくあるキツイやつだ。そもそもなんせお前らは、やっと町に入ったところなんだからな」


 リオン先生はほかの入門者に手を挙げて挨拶をしてから、再び俺たちを向いて順番に目を合わせる。


「クエストに出てったっきり帰ってこないとか、お前らはやるんじゃないぞ」


「うっす」


「ゲッス」


「うむ。で、そうだな……。お前ら、明日の夜とか空いてないか? 一度話をしたいんで、飯でも食いながらどうだ」


「あ、実は俺らも丁度聞きたいことあったんすよ。ぜひぜひ」


「じゃあ九半の時に仕事を上がるようにする。広場の時計台で待ち合せよう」


「了解っす! ではでは」



 俺たちは門の中へと進む。

 リオン先生と別れてから夕方の街路の喧騒の中をしばらく歩いていたところで、エイジが「お!」と声を上げた。なにがあったか聞いてみると、エイジの【感知能力強化】に【気配察知5】が生えたらしい。ぐおー。町でも周りに注意しようねキャンペーンね。俺もやってるつもりだったが、先越されたか。まあ森の中でもエイジのが気を付けて色々気付いてくれる場面、多かったからなー。

 リスク減らす系の能力ならいくらあっても大歓迎だ。俺ももっと気合を入れようっと。

 とりあえずいまは半径50メートル以内のゴロツキは全て感知する意気で。特に四組だ。


 そんなこんなで、今日は小径に連れ込まれることもなく拠点の袋屋まで辿り着いた。

 店に入ると、閉店前だからか勘定台の向こうにはじーさんとばーさんが並んで腰かけている。


「ただいまでーす」


「ただいまゲス」


「ああ、ふふふ。お帰りなさい。お疲れさま」


「……ふん」


エイジが勘定台の横にいってじーさん謹製の袋の口を開き、一掴み分の薬草を取り出した。


「お婆さん、今朝話したやつなんすけど、これらの薬草の処理の仕方って教えてもらってもいいですか?」


 ばーさんがエイジの手の中を見て目を細める。


「まあまあ、懐かしいわぁ。ボアグラリスと、アレチノノゲシね。クイン草も。ああ、根っこも全部引いて来たのね。お父さん、私ちょっと裏に回ってもいいですか?」


「……ふん」


 腕組みをしっぱなしの固形じーさんを置いて、俺たちはばーさんと家の裏庭へ向かった。

 この家の裏庭はまさに猫の額といえるようなやつで、一本のツツジっぽい低木を挟んで二本の木が生えていて、残りは俺がグルグルの練習をするのもきついようなスペースがちょっとあるだけだ。ただ、地面は綺麗に掃いてあって落ち葉もほとんど見当たらない。二人は揃って掃除好きの夫婦らしくて、ばーさんが店をはたき、じーさんが庭を整えているのをちょくちょく見かけていた。


 俺たちは縁台に座って、最初にばーさんの薬草講座を受ける。

 とりあえずエイジが先ほどたまたま掴み取った三種類を、それぞれ処理していくことになった。いまは教わった通りにクイン草の根の土を落とし、茎のふくらみの下のところを爪でパッチンしていってるところだ。


「なんだかじーさん、機嫌悪いでゲスねえ」


「ふふ。そうですか?」


「そうじゃないでゲスか?」


 まあ出会った初手から機嫌いいとこなんて見たことなかったが、黙ってる時の雰囲気とか「ふん」の感じとかが、最初の頃より不機嫌になってるように感じるのは俺だけだろうか。


「まあ、お店、長くやってたんしょ? 引退ってなったら色々考えることはあるだろうからねえ」


ばーさんは下を向いてハサミを操りながらほんのり微笑んでるだけだ。


「そうなんでゲスかねえ。あ、ばーさん、ちなみにこの根は何に効くでゲスか?」


「カサバの実をすりつぶしたのと、カンツメクサとを合わせてよく練り込んでねえ、それを傷に塗れば消毒と、傷の治りがね、早くなるんですよ」


 おー、回復系。でも、ぐわ、新キャラが二つも登場か。まあ今までの付き合いから見て記憶力はエイジより俺のが強いみたいだし、地道に知識は仕入れていかんとなー。


「ばーさんはもうここらへん全部覚えてて、作れるんでゲス? すごいでゲスねえ」


「ふふふ、いえいえ。よく生えてる薬草ぐらいですよ? 昔はねえ、じっとしてるのが嫌いで、薬草集めには喜んで行くのに、薬を煎じたり臼引きしたりの手仕事からは逃げてばっかりでねえ。よく叱られたもんです」


「へえー。なんか意外っすね。まあ俺はもっと無理だけど。覚えるのもじっとしてんのも逃げたいね」


「ゲスねえー。三人とも一緒なんでゲスね」


 三人で笑い合う。


「ああでも昨日二人が帰ったとき、旅人のジョブがどうのとかって言ってたでしょう? 旅人だったら確か調合が上手になるので、ソラマメさんはこれから得意になると思いますよ?」


 ほー。【調合】ってスキルがあるのか。まあ地味だけど、ないよりいいかな?


「あ、ところでお婆さん聞いてもいいっすか?」と俯いて作業していたエイジが顔を上げる。


「ええ、何ですか?」


「大体でいんだけど、薬草摘みが上手な人がこの三種類を集めるとしたら、一日に取れる量ってどれくらいっすかね」


「えー、どうでしょうねえ」


 そう言って、三種類を手で選り分ける。


「これと、これはもう充分くらいで、あとこれがもう少しあれば、くらいですかねえ」


 エイジはそれを聞いて袋をあさり、ばーさんが最後に言ったボアグラリスを一掴み取り出して「これぐらい?」と聞いた。

 婆さんは驚いた顔をした。

「ええ。どれぐらい取れたんですか? まだありそうですけど」


「へへへー。まあまあっすね。じゃあこの分だけ、とりあえずやっちゃおう」


「あいよ。あ、ばーさんはそろそろ閉店だし、もういいでゲスよ。ありがとゲス」


「ああ、あらあら、そうですね。でも置いといてくれたら、後でまた手伝いますよ?」


 結構でゲスー、あ、でもあとでほかの処理は教わらないとね、などやり取りをした後で、ばーさんがよっこいしょと家の中へと入っていく。

 俺はそれを見送ってから袋を覗き込み、三種類の薬草をさらに少しずつ足した。


「お、多めに持ってっとく?」


「この調子じゃ納品し切れないし、薬草だったら村で覚えがあったからって言っとけば通るでゲショ」


「そだねー」


「まあでもやっぱり、早めにミィノさんには正直な納品ができるようにしたいでゲスねえ」


「たぶん薬草も今日だけで、5日分くらい採れてたってことだもんねえ」


 そうなのだ。ばーさんが普通の一日分と言ってたのは、俺たちが今日町を出てから手始めに探り探り摘んで集めてた程度の分量だった。


「ゲス。で、明日は今日の復習と、新たにキノコの学習でゲス。ああ、あとエイジ、ひとつ頼んでいいでゲスか?」


「ん?」


「こっちで俺はこのまま残りの薬草も処理してっとくんで、エイジに今日の納品を頼みたいでゲス。で、そのときにミィノさんに、じーさんばーさんみたいな年寄りが助かる薬草も聞いてきてほしいでゲス」


「……あー、なるほど。お二人、お金は受け取ってくんないんだもんねえ」


「そ、シシ肉だけでってわけにもねえ、でゲス。ほかにも俺たちで返せるようなもんがあればいいけど」


「だねー。ま、了解」


「ゲスゲス」





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