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ゴブリンダンス ~余命一年の最弱魔人~  作者: 百号
友人獣人俺ゴブリン 篇
4/55

新たな数字


「ひょいと、拾い上げたんなら、地球に、また降ろせなかったのか」


「え?」


 全て聞き終えた俺が発した低音の問いかけに、エイジが聞き返す。


「猿とエイジという組合わせのせいで会話に変なおかしみが在るけど、まあ何話したのかってのは、よーく分かった。だが、俺らをひょいと拾い上げてわけのわからん異世界に落とすんじゃなくて、地球の別の場所に降ろせなかったのかって! なんかテレポーテーションみたいな不思議現象として!」


「あー。なるほど」


「なぜ! ここに! 別の世界て! 神側のゴタゴタで! しかもゴブリンだし! おかしいっしょ!」


「おー、うははは、出た、きゃんきゃんきゃんきゃんだ」


エイジがきゃっきゃきやっきゃと笑う。


「おい!」


「アハハ、悪い悪い。んーまあ、神様にも出来なかったのか、そんときには浮かばなかったとかなんじゃない?」


「浮かばなかったとか単語の小テストかよ! これ人生の最大の岐路だよきゃんきゃんも言うよ!」


 息継ぎ。


「神との対話っていうテンプレからなんか俺ハブられてるし! お前一人だと案の定色々ずれてるし!」


 息継ぎ。まだある。まだあるんだ。


「そもそも俺のガワがゴブリンなのは何なのよ! これでどこが迷惑料か!!」


 あははーとエイジが笑って、短く子犬の鳴きまねをした。


「知らん。ソウマのこときゃんきゃんって言ってたし、いまいい感じに声も高くなってるからそれとか? まあまたは、お前見たときすっげえ俺笑えたし、それが迷惑料だったり、かな?」


 エイジがまだきゃっきゃと笑う。


「分かった。もう、ナイフ出せ」


「ん?」


「お前、ナイフ出す、俺お前刺す。これ、ただの事故。もう転生ない。俺、草原で、小鬼として土くれとともに」


「ウハハ、まあまあ、落ち着こうぜ。せっかく生き延びたんだしね? とりあえずそこだけでも感謝しよ」


「感謝って、神側のトラブルって言ってたやん! コインとナイフだけ持って異世界だぞ? ゴブリンだぞ? 全然問題事案だよ。あ、ハアア!」とその時気付く。


「このコインが転生特典じゃないよね? 1ってしか書いてないよ? なんかもっとすごい特殊能力とかだよね?」


 エイジは「えーこれ?」と言ってほんわかと笑ってる。さっきから言葉が何も届いてない感じがするのは俺の気のせいか。


「または、ヘアカラーリングとかかもねえ。二人してだいぶお洒落な髪色だしね。暖色ボーイズ。あ、そのコイン見せてー」


 暖色ボーイズの響きやべえぞ、と言って俺は舌打ちしながらコインを投げ渡す。エイジはその表裏を見ながら、「おー安っちい」と正鵠を得た感想を漏らした。


「あれ? 1ってどれ?」


「顔の上に書いてあるじゃん」と言って俺もそれを見下ろし、その刻印部分を指さした。


「これ? この、丸に棒が刺さってるやつ?」


 言われてみて初めて、俺はその刻印の記号がアラビア数字でもローマ数字でもないことに気づいた。

 〇印に左斜め上から棒が刺さってる記号だが、でも俺には見た瞬間1という意味として入ってきていた。この字はたぶん1って意味なんだろうなー、じゃなく、いまもはっきり言えるが、これは1を表す数字だ。丸に交差する線の角度や本数、線が丸の上側か裏側なのかを使って、99までが一文字で表せる数字。

 あれ? これ何数字だ? いつ覚えた? と自問するが、その回答は自分の中には浮かんでこない。


「え、もしかして、ここらへんが転生系? 言語能力が付与済みなのか? エイジは読めなかったから、読解は俺にだけ、とか? えー、えーと、エイジ、いま俺らが話してるのは日本語だよな」


「あー、あー、あいうえお。うんそうね」


 俺は『草原』、という言葉を日本語以外で言い表そうとしてみる。

 grasslandという単語が浮かんだ後に、ぽんと日本語でも英語でもない『草原』が頭に浮かんできて、俺は目を見開いてそれを口にする。


「『草原』」


「お、おお? おおー」


 エイジが、草原という日本語以外の発音が入ってきて、草原という意味が浮かび、その脳内変換っぷりに驚いてぱちぱちと手を打つ。


「『草原』、ここは、草原だ。草原が広い、俺はエイジで広い草原に座っている。変なゴブリン。すげー変なゴブリン。おほほー、何語だこれ。すげえな」


「会話は両方とも、できるのか。なら、このこっちの? だよな? こっちの言葉で今から話してみよう」


 俺は何語かも知らない言葉に使用言語を切り替える。


「で、だ。俺にはさらに読み書きの能力も付いてるってことなのかな。こっちの、この言葉の。って、いま、通じてる?」


「おーおー、通じる通じる。え、でも、えー、ゴブリンのくせに何で読み書きがそっちだけ? まあでもソウマは本ばっか読んでたもんねー」


 こいつ他言語でも砕けた話し方変わらんのか、とビビる。まあ俺もなんだろうけど。

 果たして地球の読書量がこちらの読解能力付与と関連があるのかは分からないが、確かに無意識的に意思疎通が可能な言語が頭の中ですでに登録済で、さらに俺は記号を1と自然認識できる程度の読解能力がプラスで付いているらしい、ということまでがここまでのところで分かった。


「だったら何かほかにも身についてるのかもねー、知らないうちに」


エイジがなぜだか空を見渡しながら言う。


「分からん。ちょっとこのまま、考えてみようか。あとほら、異世界転移っていったら、ステータスとかって見れないのか?」


「ステータスってあれか。ヒットポイントとかだっけ?」


「そうそう。あとは使える技能とか魔法とか、何かの知識とか。ウィンドウみたいなのが自分の意識の中で開く、みたいのも。ちょっとお互い試してみよう」


 俺たちは草原に座って自分の意識や記憶、ステータスについて、前の世界の埒外のものが組み込まれてないかを探してみる。

 なかなかこれが難しいのだが、ゆっくりととっかかりについて探す。

 ゴブリンという種族…。ゴブリンの人生…。この世界の生き方…。このコインの価値……。

 ううむ、どれもピンとこないな。


「ステータス…、自分のステータス確認…、スキル…、能力…、種族…、魔法…、光あれ…」


 新しく覚えた言語でこれらもぶつぶつとつぶやいてみるが、何も発生しない。一応有名どころのRPGの初歩的な呪文なども唱えてみる。結果、うんともスンともいわず、手の平にマナも集まらず、草原が静かに風で揺れている。


 読み書きが出来るゴブリンが存在するような世界なのだから、魔法やスキルだってありそうなものだが、どうやら世界や自分の中に何があって何がないのかも、今の自分には思い当らないようだ。

 とりあえず、言語以外にこの世界における常識、知識は付与されてないといってよいのだろう。


「エイジも変わったところはない?」


「ないねー。言葉以外は、日本とか地球のまんまの中身だわ俺」


「体力とか、身体能力は?」


「そーね。それは試した方がよさそう」


 エイジがよいしょと立ち上がってから、ぴょんと軽く飛び跳ねる。


 そして、大分上の最高到達点で、「うひゃー!」と素っ頓狂に声を上げた。

 そのままはしゃいでピョンピョンと何度も跳ね始める。


「すげーな、エイジ、跳ぶねえ」


 ジャンプ力が、どうやらかなり増しているようだった。はー……、とエイジのことを見上げつつも、こうやって目の当たりにすると、本当に自分が今までいた常識の外の世界に来たんだ、来てしまったんだ、という実感で心にヒシと圧がかかる。こええ。ぐお。こええな。

俺の心情をよそにエイジはハッピーに飛び跳ねている。エイジの顔があった位置にジャンプ後の彼のすねが届くくらい、か。縦幅跳びでも足を曲げれば自分の身長だって軽く超えられそうに見える。


 俺はふー、と息を吐いてから、エイジを落ち着かせて、次は自分で跳んでみる。俺の場合も、エイジの頭に自分の頭が並ぶぐらいまで届いた。


「身長に対するジャンプ力はソウマのが行けんだねー。種族的なもんも入ってるのかも、かな」


「ありうるね。まあじゃあ次は、走ってみるか」


「あー、その前に、俺やっぱ少し高くなってるね、背が」


「へえ?そうなん」


「うん。まあ微差だけどちょっと目線というか、立った状態の景色が高い。って今気づいた。前のお前かそれ以上にはなってそう」


 少なくとも180越えか。


「エイジの種族とかはどうなんだろうな。同じ人間でわざわざ体格を変える可能性は低い気がするけど。それともこっちの平均が違うから、身長も能力もそれに合わせる、とかあるのかな」


「分からんねー。んーでも、体は軽い。ほいじゃあ、走てみよっか」


「おう」


 そこから、二人で草原をダッシュしてみる。

 徐々にスピードが乗り出し、緩やかにうねっている丘陵を全力疾走で越えていく。


 しばらく走ってから二人で止まり、感想を交換してみる。元の世界で走った時の感覚と比較してみたところ、エイジは実感としてオリンピック選手をぶっちぎれるくらいに速いんじゃないの?あと息が上がるのもちょっと遅くなってね? というレベルで、俺は、前よりかかなり早いけどエイジよりは遅いね(体格差!)、でも、スタミナは全然切れないぜ! ということが分かった。


 エイジは俺が走る姿を見て「足がてゅるるるる! てゅるるるるって! 町で散歩してるチワワみたいに!」とまた爆笑していた。

 もう届くとわかっていたのでジャンプして横面に足裏をかましておく。くしゃくしゃになって笑ってる顔に綺麗に決まった。

 んむ、ゴブリンにしては、思ってたよりかなり動けるっぽいな。


 まあこの世界ではゴブリン自体の身体能力が結構高いのか、それとも俺がゴブリンにしてはやれる方なのか、とにかく情報が不足しすぎなのだ。もしかすると、世界全体が底上げされてて、この状態でもダントツで最弱の種族、ということだってありうる。

 ちなみに俺の飛び前蹴りの威力は「元カノのびんたのが痛い」程度だったらしい。ほっぺたの痛覚にかなり情緒が混ざってるご様子なんで、まああんまり参考にはならない。俺だって、本気出したわけじゃないし?


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