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ゴブリンダンス ~余命一年の最弱魔人~  作者: 百号
友人獣人俺ゴブリン 篇
33/55

ギルドテンプレとジョブ説明

なんと昨日一話飛ばして更新してしまいました。こんな人いるんですね、すみません。

本話は昨日分になりますので、読了してる方は良ければ一話前をお読みください。


 翌日の昼前に俺たちは冒険者ギルドへと向かった。

 場所は北門の近くにあった。まあそうだよね、南は十傑草原で平和だしねー。


 ギルドは石造りの全体が灰色の2階建てだった。

 しばらくは建物に入らずに少し距離を置いたところから見ていると、ほどなくして3人組の冒険者が木戸を開いて建物から出てきた。


「あ、来たよ?」


「うん。……よし、分かった。確実に冒険者チックだな。ありゃあ荒くれてる。なるほどねー」


「で、何が確認したかったのよ?」


「いや、この荒くれ感、やさぐれ感をね。ほぼ俺が想定した通りだ。いいかエイジ、覚悟しろよ、これは、絶対来るぞ」


「んー? 何が?」


「だからー、『オイオイなんだ? ゴブリン連れのルーキーちゃんかよ。細っこいなあ。田舎帰ってママのおっぱいでも吸ってろよ。ゲヒャハハ。おいおいボビー可哀そうだろ、泣いちまうぞお? (一同)ゲヒャハハ。んん? オイコラ、なにスカシてんだこの野郎。おらよ! あ? なに? 消え……。く、チクショウ生意気な野郎だ、お前らやっちまえ! ――キィン! そこまでよ、止めなさい! この町での乱暴は私が許しません。あ、あの女は……やべえ、ずらかれ! ――ふう、大丈夫でしたか? 困ったものね。そこまで悪い人たちでもないんだけれど気性が荒くて。……でもあなた達の今の一瞬の動き……。あら、私としたことが失礼。私の名はクラシアン。この町の暮らしの……』だ」


「長いね」


「そうよ、長いのよ。これで全部テンプレだからな。変なアドリブも駄目だし、間違うなよ。あと最後に出てくるのは味方だから攻撃すんなよ」


「ほー」


 エイジはそう言いながら、特に構えることもなくギルドの古びた木戸を押し開けた。

 中は結構広くて、テーブルや掲示板、奥にあるカウンターなど、木造の市役所みたいな雰囲気だ。それほど混んでない時間帯のようで、そこかしこの会話がさざめき程度に聞こえる。

 そして、俺たちが入り口を入ったすぐ目の前には、一人の男が立っていた。はい、キター。イベント起動モブがプレイヤーの入館待ち状態でしたー。


 その男は二メートルくらいありそうな縦横ともに広がった巨体で、上半身裸の上に金属の肩当て胸当てという世紀末覇者状態。大剣を背負い、顔も身体も毛むくじゃらだ。


 あーあ、ほらー。ほらー。想定より余分に怖いー、強い―。


「んん? その恰好、お前らルーキーか?」


 こちらを目を細めて見下ろしながら、男が腹に響くような低い声で聞いてきた。


「はい」


 始まったぞ、エイジ。俺は戦闘に入ったら最大限に素早く避ける役だからな。意外に動けるゴブリンしかやれねーから、会話系の進行は頼むぞ。


「カードは。それもねえのか」


「あ、今からっす」


「そうか。受付は、あっちだ。金は? あるのか? 人間とゴブリンだと登録は、あー、2ラルーナ半だったか。まあルーキーてのはみんな貧乏なんで、登録だけツケも出来るが、あんまり最初からやらん方がいい。どうだ、あるのか?」


「はい」


「そうか。受付はな、少しくらい待ってでも、ほら、あっちの姉ちゃんの方にしときな。話が早いし分かりやすい。おっさんの二人はダメだ。姉ちゃんがメインで、あとのは立て込んだ時の手伝い程度なんでな」


「はい」


「あとは、んんむ。そうだな。どこの町もそうだが、ギルドは日の出の開館時と日の入り前とが混む。朝は新しい依頼票が出るし、夜は閉門間際にパーティーの完了報告が立て込むからだ。だから、割のいいクエストや短期労働がやりたけりゃあ朝に並ぶ必要がある。まあルーキー向けの安全なのはいくつか貼りっぱなしになってたりもするから、最初から焦るこたあねえ」


「はい」


 そのときすぐ後ろの木戸が開いて、ローブ姿の痩せぎすで暗い目をした冒険者が入ってくる。三十代の顔色が悪い男で、細い目で俺たちを順番にゆっくりねめつけてから、最後に大男を見上げた。


「フヒ、フヒヒヒ、ジル、待たせましたね?」


「おう」


「ヒッヒヒ。で、この人たちは何なんですか? ろくな装備もしてませんねえ。ヒヒヒ、ルーキーですかねえ?」


「あ、はい、いまから登録です」


「だそうだ」


「ヒッヒヒヒ。これから? 登録ですって? 何にも知らない雛鳥ちゃんですねえ。フヒヒ。色々教えてあげなくちゃ、いけませんよねえ?」


 高い耳障りな声でそう言ってからローブの男はエイジの前へと回り、若干曲がった腰のままでエイジのことを見上げる。


「ヒヒッ、ヒッ。冒険者ってのはねえ? いいですか。パーティー内だろうがパーティー間だろうが、助け合いが、一番大切なんです。特に駆け出しの頃は何かあったらギルド職員か私たちみたいなほかの冒険者に、すぐに言うようにしてくださいねえ? 誰だって最初はルーキーなんですから。ヒッヒヒ。あと初めの頃は、採集クエスト票を複数覚えておいて、受注はせずにそれぞれ数が溜まったら納品物と受注票を一緒に受付に出すのが、効率的です。フ……。フッヒヒヒ。無理して、討伐クエストなんかしちゃあだめですよ? ああ、あとそうでした、登録料は2ラルーナと少しだったかですがねえ? 持ってますかねえ?」


「それは俺が教えた。持ってるってよ」


「そうですか、ヒヒ、しばらくは貸してあげようかとも思ったんですがね。怪しげな人から借金するぐらいだったら、言うんですよ? まあ、頑張ってくださいねえ。とにかくくれぐれもいきがって無理しちゃあいけません。ヒッヒヒ」


「あ、はい」


「健闘を。ああ、無理しない健闘を、ね。フヒヒ? では、ガン、行きますかねえ。みんな待ってます」


「おう。それじゃな。こいつの言った通りだ、お前ら無理はすんなよ」


「はい。ありがとうございます!」


「ヒッヒヒ」


 二人は手を上げて木戸から出ていった。

 俺は目を目いっぱいに見開いて、キャラが混乱をきたしているこの世界の片隅からその木戸を見つめていた。

 エイジはそんな俺の横顔をちらりと見てから、息をひとつついて、カウンターの方へと歩き出す。


「すいません、こんにちはー」


「はい、こんにちはー。あら、初めてお会いしますね? 登録の方ですか? それともほかの町から?」


「あ、登録です。僕と、あそこのゴブリンで」


 耳には離れたカウンターの会話が聞こえてくるが、俺はまだ口を開けて木戸を見つめている。

 何だったんだいまのは。どっかのゲームクリエイターや編集さんが見たら叱られるくらいに、見た目とセリフがバラバラだったぞ。あれでどこがモブなのか。


「おーい。ソラマメー」


 俺は息を吐き出しながら頭をブルブルと振って自分を取り戻し、カウンターへと向かう。


 行ってみると、先ほど大男に『姉ちゃん』と言われていた受付の人は何と、兎獣人だった。二十歳、そこそこ? でピンク耳の、可愛い系のお姉さんだ。


「はい。ゴブリンさんもこんにちはー。じゃあこれから、初回登録の説明をします。と、あ、ちょっと待ってくださいね。しゅにーん、こちら新規登録の方なんで、しばらくカウンターお願いしていいですかー?」


「はいよー」


 後ろにいた頭が薄くなり始めてる気のよさそうなおじさんが手を上げる。


「ではではお待たせしました。まず最初に確認ですが、お二人での冒険者登録ですか? それともそちらのゴブリンさんへのジョブ付与だけが目的ですか?」


「あ、冒険者登録です。二人とも」


「では二人とも冒険者登録して、ジョブ付与も行う、ということでいいですか?」


「はい」


「わかりました。では、まず最初のお断りなんですが、ジョブ付与時にはそちらのゴブリンさんの耳に魔力が込められたピアスを付けてもらうことになります。そしてこのピアスですが、今後ギルドに来て依頼していただかない限り自分では外せません。そのピアスの装着については、大丈夫ですか?」


「へえ。取れないんですねー。ちぎったりしたら?」


「もし両耳がちぎれちゃったゴブリンを連れてたら、不正に攫ったということを紹介してるみたいなものなので、まあまともに街中は歩けませんね」


「なるほど。じゃあ外でピアスを付けたゴブリンが喋ったりしても、そんなに危険はない、と?」


「そうですね。あ、そちらのゴブリンさん、喋れるんですか?」


 エイジと受付嬢が俺を見下ろしてくる。


「へえ。話せるでゲス」


「わあ。はっきり話せるんだ。珍しいですね。あと方言変わってますね。まあきっと、大丈夫ですよー。冒険者が連れてるゴブリンさんは、比較的喋れる子がいる方ですし」


「ほおほお。良かったねソラマメ」


「ん。ゲスゲス」


「では、続きの説明です。ジョブはジョブストーンと付与魔法、ゴブリンさんはさらにピアスの魔力によって、本人との紐付けを行います。そして付与後には、ジョブに応じたスキルと身体能力が向上するようになります。登録にかかる費用は合わせて2.4ラルーナになります」


 俺はとっさに口を挟む。


「あの、スキルでゲスが」


「はい?」


「あ、聞いてみたかったことがあって。えと、スキルは、みんな自分が何を持ってるかってのは、分かるんでゲスか?」


「ええっと? 自分で身に付けていって自分で使うから、それは皆さん分かってると思いますけど」


 エイジが意をくみ取って、助け舟を出す。


「あ、えーと村にいたとき、聞いたんですけどね?冒険者はですね、目だか頭の中だかで何かをすると、自分のスキルとか体力とかを確認できるって言われたんですけど、そういうのって、ほんとにあるんですか?」


「スキルや体力を確認………はてさて」


 受付嬢は唇に手を当てて考える。

 耳がふよんふよんと動く。


「んー、思い当らないですけど、なんのことなんでしょうねー。皆さん、自分で気を付けて体力管理や魔力管理してらっしゃるはずですよ?」


 へー、ふむふむ、ないのか。アイコン。

 俺たち以外は、自分のスキルやステータスの状態確認はできない、と。

 つまりアイコンは転生者固有の能力。さらに俺の場合は、【レコード】が育てば他人の状態も見れるようになりそうだ、と。


「あ、じゃああの話は与太話だったのかなあ。すんません忘れちゃってください」


「はあ。では、えーと、引き続きジョブについて説明をしますね。このギルドでは毎週馬の日に、二階で登録説明会と付与式を行っています。次回は丁度明日ですが、ジョブを何にするかはもうお二人ともお決めですか?」


「あ、これもすません、何があるのかから分かんないっす」


「はい。じゃあジョブの種類について、説明しますねー。まず、ここで登録できるのは、戦士、剣士、旅人、魔法使い、僧侶、狩人、盗賊です。商人系とか職人系のジョブは別のギルドになります。またここにはないレア系のジョブは、それぞれ地方のギルドなどで付与条件を満たすと登録出来たり、ギルド外の施設で登録出来たり、みたいな感じですね。ではこのジョブのひとつひとつの説明もしていっていいですか?」


「はい。お願いします」


「まず剣士ですが、これはもう、剣特化ですね。片手剣、レイピア、大剣といった剣技に関するスキルや身体能力が身に付きます。あと剣の大きさによっては盾も扱えるようになりますね。それに対して戦士は、複数の武器が扱えて、さらに無手での格闘も向上します。武器には剣も含まれますけど、戦士職で剣を使い続けても各能力は剣士職の方には届きません。基本的なフィジカルの向上と、【突貫】みたいな武器共通スキル、そして使用武器に応じた能力が伸びます。次は旅人ですが、料理や騎獣、移動系の能力や、あとは自然魔法というフィールドで便利な魔法を覚えます。人間の従者をされるようなゴブリンさんは、これを覚えることが多いですね」


 ほほう。リオン先生が言ってたのと被ってはいるが、自然魔法っていうのは初めて聞いたな。


「魔法使いは、その名の通り、主に攻撃に用いる様々な属性魔法を使う方ですね。だいたい1、2個の得意属性というのを持っています。いくつもの属性を駆使するようなのは高名な魔法使いさんでもない限り難しいみたいですね。そして僧侶は聖魔法の使い手です。回復や防御魔法のほか、装具への祝福なども付与できます。狩人は、遠距離からの攻撃と、旅人と同じく自然魔法、あとは弱点の看破、フィールドでの罠設置とか気配察知が育ちます。最後に盗賊は……」


 受付のお姉さんがちらりと俺を見る。


「冒険者のゴブリンさんだと、これを取る方が多いですね。狩人と同様に気配察知、罠系と、隠密行動が得意になるほか、解除や開錠もできるのでダンジョンでは重宝されます。あとは素早さが高くなって、近接戦闘での急所狙いなどができるようになります。ただ、やっぱり本当の盗賊さんたちも取るジョブなので、特に草原にある町では、まあ何というか」


「あー、そこらへんは分かってます」


「ゲス」


「あ、はい。なんですね。でもまあ、七つ道具を買うときには盗賊ギルドへ行く必要がありますが、そこであまり悪い話に影響を受けなければ大丈夫です!」


 はあー、七つ道具。少し心惹かれるなあ。けどなー。


「旅人と狩人の自然魔法って、どういうのでゲスか?」


「自然魔法は、土や石、草木、あとは昆虫なんかも操る魔法ですねー。属性魔法には威力が劣るけど、火とか水、風も使えるようになります。まあ、着火やそよ風程度みたいですねー」


「ふむふむ」


「エイジは、決めたでゲスか?」


「俺はね、戦士ー」


 むふふとエイジが笑う。まあ棍を気に入ってるしな。

 俺は悩むところだなー。


「あ、ジョブって一回取ったらずっとそれなんですか?」とエイジが質問。


「いえ、同じ手続きをすれば、普通に変更できますよー。前のスキルが使えなくなるなんてこともないから、騎士さんとかになると属性魔法や聖魔法を使える人はざらにいますねー」


 そうか。少し気が楽になるかな。あ、でも自分の残り時間を考えると、やっぱり気楽にはなれないかな。


「むー。ゴブリンがなれないジョブとかはあるんでゲスか?」


「あれれ、すみません、適性の説明がまだでしたね! 人にもゴブリンさんにも個体ごとのジョブ適性というものがあって、それがないとジョブの付与は失敗してしまいます。まあ才能というやつですね。まず人の場合は魔法使いと僧侶に制限があって、適性持ちは四、五人に一人と言われています。ゴブリンさんのジョブ適性はもう少し厳しくてですね、えーと、戦士、盗賊、旅人なら通常持ってるんですが、剣士と狩人は半々ぐらいです。魔法系に至っては数件事例がある程度で、なっても成長速度が遅いことが多いので、チャレンジする価値すらない、と、言われてますね」


「ほー。むむむ」


 ゴブリンシャーマンとかゴブリンメイジはいないのか。


「ジョブ選択は、付与式までに優先順位を決めてくれたら、オーケーですよー」


「あ、じゃあそれまでに考えるでゲス」


「ちなみに、ジョブ付与では被付与者の体力と魔力を結構使うので、付与のチャレンジは一日二回が限界です。そのため付与式の開始は遅めの八の時になってるんですが、明日の参加予約を入れますか?」


 八の時とはなんどきだ。と思いながらもエイジと目を合わせ、二人とも頷いた。帰ったら時間の読み方をばーさんに聞こう。


「了解! では予約を入れときますねー。明日八の時にこのカウンターにいらしてください。もしパーティーを組むなら、そのパーティー名も考えておいてくださいね」


 お姉さんがにっこりと笑う。


「では明日お渡しするカードを準備しますので、名前と年齢を教えてもらえますか?」


「フクノエイジ、17歳っす」


「………」


 2人が俺を見る。


「………ソラマメ、17歳でゲス」



 お姉さんは俺の名前にも歳にも表情を崩すことなく、にっこりと笑った。

 それから書類を書きながらエイジの方を見て、ふむ、と小さく言う。


「あとこれはただの参考なんだけど、いま泊ってる寄宿先を教えてもらっても、いいかな?」


「ああ、二人とも、袋とか籠を売ってる、グラントさん、っていう人のところにお世話になってます」


 お姉さんが目をパチクリ開いた。


「えー、グラントさん? ってあの袋屋のお爺さま? 白髪でお髭の?」


「はい」


「へえー。このギルドでもあそこの背負い袋をお勧めしてるの! 丈夫で使い勝手がいいから!」


「あ、ですよねですよね。俺も使ってます。ほらコレ」


「ほんとだー。なかなか、センスいいかな? ふふ。まあ、何というか見た目が素朴な類なんで、そんなにみんなが買って使ってくれてないんだけどねー」


「はあ」


 エイジが若干戸惑いつつも笑顔で、

「あれ、お姉さんなんか、話し方……」

 と言うと、お姉さんはエイジを見上げ、少し悪そうな笑顔になった。


「だって、なんだ、年下じゃん。4つも」


「え、あ、はい」


 お姉さんがフフフ、と笑う。


「背、高いし見た目分かりづらいけど、言われてみたら、そうかな? ふふ、まあこれから、無理せず頑張ってね? くれぐれも危険なことはしないように!」


「あ……はい!」


「それじゃ今日の手続きはこれで終わりねー。じゃあ、また明日の午後にね!」


 うーわ。こういうお姉さんかー。

 これはエイジまずいわー。





 帰り道にエイジが黙っている。

 ほらなー、と。俺はジト目で見上げた。


 黙ってるけどだいたい何考えてるかが分かる。ああいう年上がうまいお姉さんに弱いんだよなー。それか陰あって守ってあげたくなる子に弱い。つまり結構弱い。

 まあこいつは学校でも人気者なので、おダシの俺はときどき女子にエイジ情報のことを聞かれたりした。ほとんどの場合俺の固有特性である暗い目をしたまま「んん、さあ」か「んん、別に」とモソモソ返しているだけだったが、「でもなんかチャラそうー」とかキャラキャラ言われたときにだけは、「あいつはチャラいんじゃない、チョロいんだ」と文章で返してあげていた。


 エイジはモテるだろうけど実際には浮気どころか、彼女作ったこともほとんどないし。

 うまく行かなそうーな酸っぱそうーな片思いを、ちょくちょく楽し気にやってるだけだし。


 今回もそうなるんだろうなあ、と生暖かい目で見てていると、エイジがぼっそりと呟いた。


「……明日、さ」


「ん」


「明日ギルド行くときに、【合】、使っていいかな」


 おいおいおいおいおいおい。


「お……。いいか。エイジ。あれは絶対一般的なスキルじゃないってところあたりは、分かってるよな?」


「んー。……うん。まあでもさ」


「じゃあやめとけ。下手にスキル信じられて場がクソほど荒れるか、信じられずに変態コスプレイヤーとしてのお前を信じられるか、そのどっちかだぞ」


「でもさ。……『俺も兎なんすよー』って」


「いや弾まないから。やめとけ」


「……んー」


「今日お前モロ人間で行っただろ。まず間違いなく後者になる。お前はギルドが太鼓判を押す、本腰入った変態だ。ヘンタイジョブを獲得済みの大物ルーキーだ」


「……んー」


「んー、じゃなくて。ちゃんと聞いてる? こっちでは14歳で成人って昨日ばーさんが言ってたろ? お前は成人男性なんだぞ? ギルド中が揺れる事案になるなって。お姉さんに怯えた兎みたいな目で見られるぞ」


 エイジが口を尖らせている。

 この子はもー。俺は尻を叩いて帰り道を急かした。



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