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ゴブリンダンス ~余命一年の最弱魔人~  作者: 百号
友人獣人俺ゴブリン 篇
30/55

むっつりじーさん


 (中)にとどめを刺し、さてどうするかと思ったところでまったりペースの足音が聞こえてきた。

 エイジの足音だ。わざと音をあまり隠してないんだろう。


「おう、お疲れー」


「おう。え、やったの!? おーわー、すげーじゃん。でか」


「んむ」


「どうやって倒した? あと、もう一匹はどうしたの」


「ライドした。もう一匹は後で詳しく言うが、あーりゃーやばかった。なんとスキル使ってきたのよ。んで、森に去って行った」


「まじか。でかかったよなー。なんか、なんだっけ、あのアニメの……」


「おっことぬし」


「そうそれ。へー、ほんとにいたんだ」


「いやいたかは分からんけどね。ああ、袋回収してきたんだな。解体するか」


「うん。ソウマHPは減ってない? 俺やろうか」


「紙なんでちまちまと、うーわー4減ってるわ。まあ頭も真っ白に近いんで、頼んでいい?」


「あいよー」


 ふわー。

 座り込む。

 あれはこっち来て最大の危機だったなー。


 でも、なんであのタイミングで去ってったんだろう。家族だか群れなんじゃないの? 魔獣ってそういうもん? それに、突進スキルあんならなんでもっと早く使わなかった? 発動条件があるのか、怒りとか場所とか。

 危機は去ったといえ、まだ色々謎はある。

 まあ、今は終わった。ちょっと休もう。


 あ、エイジってなんでここ分かったんだろう。て、木があんだけ倒れたらそうか。

 ほかの魔物寄ってこないのかしら。


「エイジーごめん、スタミナあったら兎なっといてくんない? 倒木の音でお代わりが引き寄せられるかも」


「ん。キマイラ、兎」


 ふわりん。へーんしん!

 マジ受けるなエイジ。


「ソウマ、休んだらゴブリンホール頼むなー」


「あいよ。ゴブリンリーフもやっとく」


 ゴブリンホールとは、もちろん俺の嘘スキルで、【爪】を使ってただ穴を掘ることだ。解体後の内臓とかを埋める穴ね。そしてゴブリンリーフは、いま作ったけど肉を包むための葉っぱ収集だ。


 15分ほどして作業が終了した。

 結局エイジは「もったいなくて」と言って袋パンパンに肉を入れた。まあ気持ちは分かる。



「あ、そーいやじーさんて」


 いま思い出した。


「俺が道まで戻ったときにはもう荷車の音しなかった。無事に帰れたんじゃないかねー」


「ああ、そうか…。なんだよ。なんかちょっとせちがらいな」


「まあ、お礼目当てでもなかったしな。いいことしたねー」


「んー。でもさ、そこら辺のシビアなルールも決めなきゃだよな。見捨てるってのはもちろん、嫌なんだけどさ」


「ああ、まあ今回は悪い」


「いや『三匹倒そう』が目的じゃなかったから、まあ、いいんじゃない。俺らが足速いの分かってたし。あ、そういや(小)ってどうした?」


「ん。ジャンプ回避を続けてー、向こうの息が切れてから兎になってー、あとはダッシュで離脱した。で兎のまま向こうの足音を聞いて、森に戻ってくところまで確認済み」


「そか」


「おう。ソウマのスキルアップは?」


「点滅してる。道出たら確認するよ」


「俺は生えてないから、言ってた通り経験値は一緒に戦ったかどうかだろうなー」


「あとはどこまでが一緒扱いか、か。まあ優先度低で検証してもいいね」


 俺たちは道に戻って、てれてれと町側へと進んだ。まあもちろん耳は警戒状態だが。





「ん」


「あれ、ああ」


 北門がもうすぐ見えるかな、という場所。

 林が切れたところに、牛車が町の方を向いたままで止まっていた。

 御者台にじーさんが座って、煙草をくゆらせながら牛に同じく向こうを向いている。


「どうする? さっきの爺さんだよね」


「いいことしたんだし避ける理由もないっしょ。ずっとああしてたのかね」


「二時間くらいは経ってんだよな。町に近いとはいえ」


 俺たちはじーさんの方へ近付いた。



「大丈夫でしたー?」


 牛車の後ろ側からエイジが声をかける。じーさんは前を向いたままだ。ん? おいおい。


「こんちわっす」


 俺たちが御者台の横について見上げると、じーさんはハンチングみたいな帽子の下の目だけを、こちらに向けた。


「ん……お前らは大丈夫だったか」


「はい」


「狩ったのか。さっきの、ホーンボアを」


「一匹だけ。真ん中ぐらいのやつ」


「ふん」


 ふん、ておいおい、と思いつつ、じーさんの顔に思い当った。

 エイジが川辺で親子に話しかける前に、南の道の上で声をかけた、袋と籠を荷台にいっぱいに積んでいたじーさんだ。「衛兵に聞け」じじいだ。


「前にお話ししましたよねー。十傑草原の方で。あ、そんときは荷を積んでたから、それを売ってきたところですか?」


「ん……そうじゃ」


「おー、売れた売れた」


「……おい」


 じーさんがエイジを見る。細めたたれ目は、睨んでると言っておかしくない印象を与える。


「はい」


「お前がはぐれたとか言っていた連れは……それか」


「あ、まーそんなところっす」


 じーさんは同じ目でじろりと俺を見る。


「ふん」


 またそう言って、前を向いた。いやだから、おいおいって。


「えーと、んじゃ、まーお元気で。よかったよかった」


 エイジが笑顔でそう言って手を上げて、歩き出した。

 俺もそれについていく。心の中でコーノポンコツジジイと思ったとか思わなかったとか。


 俺たちがこのまんま道の上を行けば、すぐ北門から見えてしまう。

 なので俺たちはさりげなく東側に逸れて、大回りで南に回れるよう、草むらに踏み出す。


「おい」


 この距離で普通は聞こえねえぞその声。というじーさんボイスが届いた。

 振り向くと、じーさんが牛に軽く鞭を入れる。


「素性を、聞く」


「はい?」


「先の時は、お前がどれだけ笑顔で話しても、荷や仲間を隠してる素性の奴にしか見えんかったからな」


「ああ。あはは」


「が、お前らは結局いまも二人しかおらず、町にも、入れとらんのじゃろう?」


「えーと」


「ゴブリン連れじゃ。『平和の法』もある。あとその袋はこっちで手に入れたな? どうしたんじゃ」


「ああ。……まあいいか、守衛のリオンさんに、町から手に入れて来てもらいました」


「……ふん」


「なんでこっちでって分かったんです?」


 荷台の上からじろりとまたエイジを見る。


「商人の叔父、とか言っておったのは、本当に来るのか?」


「えーと……」


「本当の、出身は」


「………遠く?」


「名は」


「フクノ、エイジっす」


「ふん。持ち物は?」


「えー、1ラルーナと、ナイフ。あとはリオンさんにもらった、鉈とかブランケット、ひょうたん、あと……」


「その中に、全部入っとるのか」


「ああいや、南の草原に色々隠してあります」


「………ふん」


 あー、全部正直に言っちゃった。

 まあそうすると何かまずいかっていうと、特に思いつきはしないんだけども。


 ふいにじーさんはまた牛を進めた。そして、すぐに止める。

また無言がしばらく続いた。



 そして、荷台の向こうの後頭部が前を向いたままで言った。


「あとで取りに行け」


「え?」


「乗れ。ほかの荷は、あとで取りに行け」


「え?」


 エイジがもう一度後頭部の反応を待つ。


「………乗れ」


 エイジと俺は顔を見合わせる。

 よく分からんが、じーさんは町に戻るんだよな? 俺たちは入れないぞ?

 ってか無駄に衛兵とか町に絡むのは避けてるところなんだが。

 じーさんも自分で平和の法のこと言ってたし、分かってるはずなんだけどなー。


 エイジが首をひねってから、少し迷い、足を上げて荷台へと乗った。

 分からん。一回乗ってみるか。


 俺たちが乗ると牛車が動き出す。

 じーさんは何も言わない。

 すぐにその背中の向こうに北門が見え始めた。


 まだ進む。じーさんは何も言わない。


「ってじーさん、俺たちはリオン先生にもう追っ払われてるんでゲスよ? 町には、入れないでゲスよ?」


 じーさんがこちらに首をひねり、片眉を上げた。太いふさふさの、黒の地がほぼ白髪になっている眉毛の下から、灰色の瞳が覗く。

 

 あ、俺、ゴブリンだった。喋っちゃうのあまり良くないんだっけ。


「………お前は、黙っとけ」


 じーさんは特に俺のトークスキルには突っ込まずに、俺の質問にも答えずに、そう言ってまた前を向いてしまった。

 俺はエイジと顔を見合わせる。



「おい」


 だいぶ門が近くなった時、じーさんの背中が言った。


「リオンがおらん。ほかに知ってる顔はいるか」


 衛兵の顔ぶれに確かにリオン先生はいなかった。代わりに小太りアッソがいる。スネ〇もいる。


「アッソさんがいますね。リオンさんと一緒に話しました。あとあの、痩せてるつり目の人」


「そうか」


 牛車は結局、そのまま門へと到着して止まってしまった。

 衛兵たちの視線が俺とエイジに集まる。


「アッソ!」


突然じーさんが声を上げた。


「なんだ、グラントさん」


「この男は、バージャウノンのさらに南、トスカというさびれた村のそのまたはずれにある、小さな名もなき村の出身、フクノ、エイジと言う。わしの甥で商人をやっているボゼンという男の、そのまた甥だ!」


 小太りアッソが顎の辺りを掻く。


「グラントさんなあ」


「こいつはわしの甥の甥、フクノ、エイジ! バージャウノンのさらに南、トスカというさびれた村のそのまたはずれにある小さな名もなき村の出身じゃ。わしの甥のボゼンについて、商人見習いになるため町を出た男だ」


「あのなあ」


「不幸にもボゼンとはぐれ、シアンテの名前を頼りに草原を進んでここへとたどり着き、しかし平和の法によって町へ入るのを拒まれていたところを、やっとわしと出会うことができた! この町で商人をさせるかどうかはボゼンの無事が分からぬいまは何とも言えぬが、これまでの、草つゆをすすり木の実で飢えをしのぐ日々、わしがきちんと引き取って面倒を見ることで終わりにさせたいと思う!」


「そいつら、兎ぐらいなら狩れるぞ。草つゆって川あるし」


「屋根も、着替えもなく、そこらの川や獣で飢えをしのぐ日々、わしが終わりにさせたいと思う!」


 グラントと言われたじーさんは、そう言って小太りアッソを見下ろした。

 

 アッソもじっとグラントさんを見上げる。


 しばらくして、アッソが視線を外し、ぼりぼりと頭をかいた。


「グラントさんが面倒見ると、そう、言いてえんだな」


「……ふん」


「責任取れんのか。ちょっとの情で流れるような爺さんじゃねえってのは知ってるが」


「……お前、知らんのか。一週間でわしは町を出る」


「おいおい」


「フォアセントの、娘の家に引っ越す。じゃから、もしこいつらが何か問題を起こせば、全財産かけても補償する方法しかないじゃろうな」


「……つってもなあ………」


「こいつらはホーンボアの、どでかいの、恐らくは『川の精霊』のパーティーが言ってたヌシじゃな、そいつらに追われていたわしを助けた」


「あ? いやおいおい、嘘だろ。やつは……」


「倒しては、おらん。だが牛車にのった爺一人を助けようとして飛び出し、そして実際にわしは助かった。……それがたまたま、甥の甥だったということじゃ」


「ちょっと待て、にわかに信じられん。棒と鉈しか持ってねえんだぞこいつら」


「あ、あー、アッソさん」


「んあ?」


 スネ〇、めんどいのでスネマルにしよう、が、小太りアッソに手を上げて口を開く。


「俺三日前の開門ときにそのエイジって男から、ホーンボアの肉をもらいましたよ。リオン隊長へのお礼と、あと俺と話した時に釣り銭でごたごたしたからって」


「あ?」


「なんかたまたま取れたって言ってましたけど。アッソさんにもって言われたけど、非番だったんで」


「あ? ホーンボアを?」


「ウッス。美味しくいただきました」


 俺はエイジを見る。

 涼しい顔してやがる。あれか、起きたらいなくて、兎姿で登場したときか。


「そんでそんときはリオン隊長と、なんか十傑物語とかの神話の軽い話とー、あとゴブリンの寿命についてとか話して、最後は『おかげで暮らしていけそうです』って言って草原に戻っていきました」


 エイジの顔がピクリとする。俺も強張る。

 なに、それ。神話はいい。ゴブリンの寿命て。え、寿命? 

 エイジは衛兵たちの方を向き続けてる。これは、あとで聞かなくては。



「まじなのか。ホーンボアから? グラントさんを?」


 アッソが頭を激しめにかく。

 それを見下ろしながら、じーさんがしたり顔で「それが果たして非道な輩かの? で、甥の甥じゃ」と言った。


「甥の甥ってなあ。………あー。………あーもう! 分かったよ! 隊長には俺から説明しとく! グラントさんからも一言言っといてくれよ!」


「ふん」


 そう鼻を鳴らすと、じーさんは一度アッソに頷いてから、牛に鞭を入れようとする。


「待て! おい、お前ら、降りてこい」


「なんじゃ? そいつらはバージャウノンのさらに南……」


「それはもういいからよ! 衛兵の面通しだ。顔を覚えさせる」


 俺たちは荷台から降りて、衛兵の前に並ばされた。

 衛兵たちの目がじろじろと、特に俺の顔へと集中する。


「おい、エイジ。そのゴブリン、名は付けてるか」


「はい」


 エイジが胸を張る。


「いや、はいじゃない。名と顔を覚えるんだよ。答えろ」


「はい。えー。ソラマメです」


 バッとエイジを見上げた。エイジは噴きだすのを我慢でもしているかのように口がむにむにしている。少し震えている。

 俺はエイジを見上げ、お、い、と何度もゆっくり口の動きでアピールするが、エイジはこっちを向かずにむにむにしてるだけ。しゃべ……喋りたい! いまもーれつに!


「ソラマメ……。思い切った名だな」


「村の特産なんです」


「そうか」


 エイジは鼻をすすって空を見上げ、はぁーー、と言った後、真面目な顔に戻って「手続きあれば、お願いします」と衛兵たちに言った。俺はその横顔に、お、い、とやり続けるが、エイジは無視し続ける。


「よし。ではお前ら、いいか」


アッソが前に出てくる。


「悪さすんなよ。絶対にな」


 順番にエイジと俺の目を見つめた。


「世話になったじいさんのたかが知れてる全財産なんて、俺たちは取り上げたくねえんだよ。お前らが何か悪さしたら、俺たちは絶対に捕まえて踏んじばるし、いつまでかかってでもお前らに償わせる。いいか? それがよーく分かったんなら、荷台に乗んな」


 俺たちはじーさんのことを一度見上げて、アッソを見て、うなづいた。



 そして俺たちが荷台に乗ると衛兵たちが道を開け、牛車がゴトゴトと動き出して、大きな門の内側へとくぐっていった。



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