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ゴブリンダンス ~余命一年の最弱魔人~  作者: 百号
友人獣人俺ゴブリン 篇
3/55

箕面


 エイジが気づいときには、もう周りは猿だらけだったらしい。

 制服で、両手ポケットを出す暇もないまま次に気づいたら周囲は森、そして目の前には自分の背丈の倍以上はありそうな岩山があった。

 大小の岩を積み重ねて出来たその岩山の上には自分を見下ろしている一匹の白い猿がいて、その周囲には思い思いに過ごしているたくさんの茶色い猿たちがいた。

 つまり猿包囲網はすでに完成し切っている状態。ぱっと見でも50匹以上はいたらしい。


 そして、頂上にある岩に腰かけた白猿が、雌っぽい猿4匹に毛づくろいしてもらいながらエイジに向けて口を開いた。


『おつかれー』


「え、あ、おつかれ。…っす。ん? お疲れ様です?」


 場面転換と常識破りが激しすぎて、エイジは軽く混乱中。思わず普通に返してしまう。


『んー楽に楽に。あんま時間もないし』


「はあ……」


『質問は?』


「え、いきなり」


猿はまったりした顔でエイジを見つめている。


「えー、んー。ええと、まずそちらは? どちら様かなと。俺はフクノエイジっていうんすけど」


 そう尋ねると、猿が目をかっと開き、両手をバッと開いた。


「おお」


 4匹の猿が速やかに移動して、伸ばした手と脇の下の毛づくろいを始める。


『……神』


 白猿は手を挙げたまま短く答える。

 目を細めていたがこちらを鷹揚に見下ろしているとか睥睨している、という感じよりは、目をほとんど閉じてうっとりしてるように見えた。


「神。神様。ですか。…んーまあ喋ってるし。じゃあそれははい。分かりました」


『ん』


「何系の神様すか?」


『あ、そこ重要? まあいいけど。えーとね……。あれ? 自己紹介ってむずいね。とりあえず地球でみんなが言ってるのには、入らんかな』


 白猿はしゃべりながら段々と手を挙げていく。首も上に伸ばして天空を見つめるようになっていく。ほかの猿もそれに合わせて繕う場所を変えていく。

 別段、神々しくは見えない。


『そだねえ。我は世界はいくつか作った! かなー。君らに分かりやすく言うと』


「おーすげえ」


『けどまあ、メイン業務じゃないかな。ぼちぼちたまに作っては放置してまーす、程度よ? あ、ちなみに今日5分くらいしか時間とれんからよろしくねー。てかあと3分』


「ありゃ。えーとじゃあ、俺は、やっぱ死んだ感じですか? 電車とかもう、すぐそこに超来てたんで」


『いや死んでない。転生前のクーリングタイム』


「死んでない? 転生? って何すか?」


『えーとね。普段は我ってその世界ん中の出来事ならどんなんでも勝手に死んどけ生きとけって感じでね、やらしていただいてるわけなんですけども。今回はね、ちょいと神同士のトラブルの中で、いいのを一発もらっちゃったわけよ。で、そこで発生した被害は現世側の事情じゃないから、特別にアフターサービス的に、ひょいと拾い上げて我保有の別の世界へとね。ヒョイ&ポーン、キャッチ&リリースって感じで、いまから飛ばそうかなーってね』


「あ、そーなんだ死なないんだ。え、何かありがとうございます」


『いいよー。現場には小っこい隕石を急いで配置したし。被害はとっさに狭めて30メートル四方程度なんだけど、まあでも電車落ちちゃったしねえ。怪我で済んだ人はそこらへんに残して、もう無理な人はほとんど死体も残らずお亡くなりになりましたって感じにしといた。ちなみにだけど、トラブったっていう相手とはいまも絶賛戦闘中』


「え、大丈夫なんすか」


『平気―、分体。まあちょっと向こうが変なことやりやがったから君んとこ一瞬揺らいじゃったけど。もう楽勝かなー』


「はあ。あとはえーと」


『そこ!』


「え?」


『あー、そこそこそこ良き良き良き』


「ああ」


『あぁ……我、ふ、我……』


「あ、えーと、俺の隣にソウマって奴いたはずなんですけど、あいつはどうなってます?」


『ん゛ん゛んっ』


「あ、待ちましょか?」


『んーん。えと、ソウマくんだっけ。君といっしょのコースよー。ぱっと見きゃんきゃんと長引きそうな感じの子だったから、君だけここに呼んだんだけど』


「そっかあ。まあ、きゃんきゃんしそうっすねー」


『ねー』


 白猿とエイジはクラスメイトの軽い陰口でも言ってるかのように笑い合った。


『まあ、向こうにポーンしてもエイジくんのすぐ横に置いとくし、地球側にも隕石んなかに新原子入れといてあげたし、君たちみんなにも迷惑料ちょっとずつ包んどくんでねー、見てねー』


「あー、あざます。そっかあ。あとは・・・そうだな、ここって、やっぱ神様の世界で、ほかのお猿の人たちも神様なんですか?」


神様って土から小さな何かを拾って食べるものなんだろうかと思いながらエイジは尋ねる。


箕面(みのお)


「はい?」


『兵庫県箕面。猿で有名。みんな良い猿よ? まあ自分だってー、猿型なんでー、ボスぐらいやっとかなきゃって思ったっていうかー。むしろ我の本体は天界とか原初の間よりここに居がちっていうかー』


「へーいいなあ、え、みんな雌なんすか」


『いや、猿山ってのは普通に雄の若手とかも混ざってるもんよ? ボスに勝ったモンがボスってだけで。それが普通。ただね? 秘密だけどね?』


 白猿は機嫌よさそうに微笑む。


『実は当たりー。ここは全部雌なのー』


「えー! いいなあ」


『んふふー、ちょっと条理曲げたー。あ、勝ったよ』


「え?」


『あほにいま勝った。ちょちょいってやったらもうぷちってなって』


「おーさすがっすね」


『まあねー。あ、時間だ。転送入りまーす』


「あ、はい。ありがとうございました」


『はーいよー。おつおつー』



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