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ゴブリンダンス ~余命一年の最弱魔人~  作者: 百号
友人獣人俺ゴブリン 篇
26/55

ツノ持ち猪


 俺たちと目が合った瞬間、猪は突進を始めた。ドゥッコココ、と土を飛ばしながらスピードを上げてくる。


「ぐぅおう!」


 きょとん、の状態から解放されて、必死で飛びのく。エイジと左右に分かれた。

 猪がブレーキを掛けつつ回頭する。

 次の狙いは、エイジか。

 ゴフ、ゴフ、と息を吐きながら、すぐに走り出す。

 速い。速いし、逃げた方に微妙にカーブしながら追ってくる。

 エイジが大きく飛ぶ。


「カーブして追ってくるぞ!」


「うい。はええし、角がこっわいな」


 そうなのだ。体格は猪のままだが、牙に加えて、太く大きな角がある。すべて上向きに反っていて、薄紫の不思議な色をしている。血が通ってるんだろうか。

 またエイジに突進し、止まるかと思いきや、カーブを描きながら俺に向かってきた。

「フオウ!」と叫んで飛び上がって避ける。


 また突進が外れたことで猪は怒りを募らせて、俺たちを見ながら高いいななき声を上げた。


「エイジ、棍大丈夫か」


「んー、さっきいい音がして……来た!」


 二人左右に分かれて逃げる。

 また連続ダッシュだ。今度はこっちに来た。

 後ろにあった木を使い、三角飛びで逃げる。少しずつ、だが恐怖感が薄れてきた? と気付く。

 いや怖いんだが。効率的に回避することとか考えられ始めてる。


 と思ったのは嘘。


 何、木の幹が折れるって。そこはディ〇ブロスみたいに角が刺さっちゃってぶひーぶひーじゃないの。


「やばいやばいやばい」


「うは、すげえなあ」


 そういえばさっきミギウデンが殴ってた木のはずだ。耐久値が下がってた、と思いたい。

 しかし、走行速度的には、逃げれる、かも。直線は俺たちのが速い。マックススピードでの持久力はどっちが勝つか不明。猪ってそもそも、程よい速度で持久走とかはできるんだっけ。

 で、エイジの棍は折れかけてそうなんだよなー。こいつ腹とか以外は堅そうだし。そうすると武器は俺の鉈しかない。この腕力で、鉈がどこまで通るか。


「エイジ」


「おー」


「もう少し、(けん)に回りたい」


「けん」


「様子見。向こうのパターンを観察して、逃げるか、やるか、相手、が!」


 ジャンプ。


「相手が疲れるかとか見たい。要はもう少し頑張って避けましょう、だ」


「オケ―。絶対、続けたら向こうのが疲れるよね」


 そして俺たちは繰り返す。

 突進とジャンプ。


 突進、ジャンプ。短い踊り。突進、踊り、ジャンプ、短い踊り。踊り。

 こちらはエイジと俺の二人がいるので、踊りの回数を増やすことも可能なようだ。

 エイジは踊らない。そうゆうとこスタイリッシュじゃないのよね、彼。野暮なの。


「あんま舐めちゃだめだよ」


「ん。でもうん、これは種族特性」


エイジも短く笑う余裕はある。持久が心配だが、息も上がってない。


「最初焦ったけど、避けれるねー、あとは攻撃だわ」


「俺はかすっただけでも死ねそうだけどな。もーちょい疲れさせたら、エイジ、さっきの俺の役出来るか」


「さっきのって、え、俺が避け役?」


「棍やばいしょ」


「んー。鉈くれたらやるよ」


「いっしュン!」


 ジャンプ!


「一瞬動きを止めたいんだ。でかい木を背にして、やれる?」


「おう。いいけど」


「上じゃなく、左右に避けてくれ」


 続けて二人で4回分のジャンプ。

 向こうの助走距離やスピードに衰えが見え始めた気がする。このまま行くべきか、長引かせないほうがいいのか。うーん、経験値が足りないなー。


「んじゃ行くよ! あの木ね」


 おっと。行くか。やっぱ行くのか。

 あれでうん、ああ行くってことね。じゃああの木で……。はいはい。

 やべ、緊張してきた。


「ハイハイハイ!」


 エイジが猪と正対して手を叩く。俺は移動を終えた。

 

 怒りを高め切った猪がエイジを睨み上げ、我慢できないように走り出す。

 ドココココ!


 猪と同時に俺も走り出す。猪と俺のコースが垂直に交わる方向に、裸足の足指で土を踏み込みながら前傾姿勢で駆ける。


 猪が俺の目前を通り過ぎた。

 エイジがぎりぎりまで引き寄せてから、真横に飛ぶ。

 ゴウン、と音を立てて猪が木に突き当たった。角は、刺さったか? 刺さってないか? まあ、どっちでもいい、と俺は自分のすぐ真下にいる猪を見下ろしながら思った。


 エイジが狙った木の、隣の木をめがけてダッシュで駆けあがり、エイジが元いた場所を目掛けて、回転しながら落ちていくところだ。

 何度も練習したから目算は取れている。

 2回転分の遠心力。鉈、腕、背筋が生み出す、バネと筋力、遠心力を織り交ぜた力。腰から下の重心分の反動。

 なるべく体の全てを活かしながら両手に構えた鉈の、トゲ部分を、猪の脳天に叩き落とした。


 決まったー!


 ゴブリンソウマ、決めました! でもそのあとのこと諸々考えてなかったから、そのまますとん、と猪の背中に着地してしまう。

 やばい、猪のダメージは? と鉈を抜こうとして抜けない。

猪が倒れだした。うおう、っと鉈をあきらめ、背中に足を乗せて飛びのく。


猪はドサッと、土を飛ばしながら横倒しに倒れた。


「………行った?」


「ぽい。行ったよね?」


 エイジが近づいて来て、一緒に猪を見下ろす。

 俺は頭の方に近づいて鉈を取ろうとして、あきらめてエイジに頼む。


「うお、トゲじゃなくて刃の方までめり込んでるよ」


「ローリング鉈アタック」


 足を使ってエイジが引き抜く。血が音を立てて飛び出た。


「うわすっげ。ナタータックやるじゃん」


「香辛料ぽく言わないで。あれこいつ、消えないのか?」


 猪が消え出さない。

 俺は【レコード】を使ってみる。


(魔獣)


 んー。

 (の死体)も出ない。毎日疲れ溜めながらやってんだけどなー。

 で、さっきのミギウデンは(魔物)で、猪は(魔獣)。兎は(獣)。違いがあるのか、ないのかが分からん。

 まあミギウデンは見た目がめっちゃ魔法生物だったから、消えるのは違和感ないしなー。

 あ、それよりも。


「エイジ、これ大事なことだが、いつでも警戒しないとだ、俺たち」


「警戒? あーこいつ、いつの間にか来てたね」


「そう。いまのときもそうだけど、戦闘中には周りに気を配れてないとまずいな。てか、猪がもう少し早く来てたら俺らやばかったかもしれん。どっちかが不意打ち受けてたかも」


「だね。でも、むずいな」


「まあせめて、実際に攻撃したりされたりしてない方は、周りにも気を付けよう」


「それが課題だなー。了解よー」


 そのほかの反省会、感想会は南に帰ってからでもいい。


「じゃあ警戒しながら、解体、するよね」


「大物だから俺やるよ。ナイフだけじゃきつそうなんで鉈も貸して」


俺は鉈を手渡す。


「猪って何取れるんだろ」


「毛皮と角、牙は取っときたいね。肉は、持てる分だろうな。ああ、俺は肉を包めるようなでかい葉っぱ探すわ」


 葉っぱ探しながら、警戒しながら、ステータスも見よう。むずいけど。

 あ、ミギウデンの魔石は?

 あったあった。



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