モンスターを見に行きたい
深夜まで身体いぢめぬきナイトをやったおかげで、不眠が【スタミナ】に悪影響することも判明した。エイジが寝落ちしないように草原を歩き回ってる間に、気づいたらスタミナが高ペースで減り始めて、急いで座ってみたけどやはり数分に1ポイントくらいのペースで自動的に減ったらしい。
つまり不眠&空腹&疲労みたいなじっとしてるのもキツイ状態だったら、「その状態で起きてる」という行為だけでもスタミナ消費が行われてしまう、と。
そしてエイジは予め決めてあった通りに焼いてあった兎肉を十分な量とったが、それで勝手に減少していくのは止まっても、【スタミナ】の完全回復までには至らなかった、らしい。食事と睡眠と疲労のそれぞれが作用しあっていて、一つを取れば安心、って訳にはいかないようだ。
結果、【スタミナ】については数値がはっきり見えるようになった点と、食事でぐんぐん回復とかっていうこまごました点は違うけど、基本原理は前の世界とだいたいいっしょかなー、というのが分かった。
ともかくエイジの苦労のお陰だね。
え? そのときの俺? 寝てましたよぐーすかと。友達極限状態にしときながら。報告受けたときだけ起きたけど。
まあ先に話し合って、それでいいよってなってたもんね。
なので、せめていまはエイジが寝てる間に、兎狩りへと精を出してます。
結果、
早朝から二羽見つけた。ラッキー。
そして二羽ともゲットした。実力。
これは……って追い始めてまあー驚いたね。
俺ってば、直線勝負で兎とほぼ同等くらいやん。
そして小回りの駆動力、これも兎に全然負けてないやん。
さらにステルス効くし。持久効くし。
どうやら【ダッシュ力】萌芽が加わったお陰で、もう兎には負けなくなった。所詮兎とは言え、デカい。
だってこれって俺もしかして、食って………行ける?
野良で食っていけるだけじゃなく、もしも領民権ゲットしたら、最初からいっぱしの狩人スタート?
いや、もしエイジと離れたら、俺の一番の敵って人間になるかもだしなー。
世知辛いな。もう大丈夫と思うのはまだまだ早いだろうなー。
まあおいおい考えていこう。
◇
「お、起きたか。おはよー」
「ん……。おはよー。………いま、昼過ぎ?」
「まあ、昼頃かな。疲れは取れた?」
「えーとねスタミナは……。お、満タンだ。うん、確かに元気っぽい」
「そりゃ良かった。スタミナのみの減少なら一晩で全快するんだってのも分かったな。で、腹は? こんなんありますけど」
俺はどや顔で、解体済みの兎二羽の横に、葉っぱに乗せた魚を見せた。
「おお! 魚だ!」
「兎狩りの後で釣ってみた。まあ4時間以上かけて一匹しか釣れなかったから、効率は兎より悪いね。魚が少ないのか、俺が下手なのかは分からんけど」
「兎も一人で二匹獲ったんかー、やるじゃん」
「肉の保存と種の保存を考えて、二匹獲ってすぐやめたくらいだからねー。エイジも昨日ラストに生えてた【ダッシュ力】、早く試してみ? たぶんお前ならもっとすげーよ」
喋りながら木を削り出した串に魚を刺して、焚火のそばに立てかける。黄色い線が入ってて鮎っぽいんだけど、記憶より一回り大きいかな? という印象。まあ焼いて食えないってことはないでしょ。昨日の労いってことで、エイジに食べてもらおう。
「早速飯にしましょうか。エイジ魚食べていいよー」
「マジ? サンキュー」
「でね、今後の提案なんだけど」
「お、うん」
「今日と明日の2日間は、食って動いて寝て、とスキル修業に費やしていいかな、と」
「ふむ、そっからは?」
「迷いどころなんだが………俺たちってモンスターを未経験の、まんまだよな?」
「あー」
「まだ倒してないどころか、モンスターがどんなものかも見てない。そしてその状態だと別の町へも動きづらい。なんせ、この十傑草原ってのは何とかなってきたけど、町の生活も町の外での生活も何も分からないし目途が立たないままだからね」
「え、じゃあ北門の向こうの森だっけ? に行くっていうこと?」
「魔物を倒しに行くんじゃなくて、とりあえず見に行く。その実行タイミングで迷ってる。戦闘は素人だけどひとつ好条件に思うのは、俺たち逃げ足は相当早いんじゃないかってこと。兎以上だからな」
「それは……そだね。動物界のどんぐらいか分からんけど」
「前の世界で言えば、熊とかライオン、狼よりは早い。チーターはそりゃ無理だけど」
「ほー」
「スキルを上げまくって、危うげなく魔物デビューするのが安全策なのは分かるんだけどな」
「いつまでやるのかの目安がないからねー。うん。ちょっと見に行く、ってことか」
「そうそう。どう思う? もっと長くスキル上げてもいいけど」
「んーまだ考えるけど、基本、悪くないかなあ。魔物がスライムなのか熊なのかは、逃げれる前提であれば知っておきたい。さらにもし倒せるようなら選択肢がいろいろ広がってくるよね」
そう、選択肢。兎肉以外が手に入るかもしれないし、それが換金出来てラルちゃんラルーナちゃんを貯めていけるかもしれない。戦闘力がついて冒険者ランクD相当などに育っていけるかもしれない。何より、そもそもの行動範囲が広げていけるのだ。
そうすると、全体的に何が出来て何が出来ないかが分かった上で、そのうちのどれをやっていくかについてが改めて話し合えるようになる。
「まあでも、一匹目のエンカウントで倒すのには俺はネガティブだけどな。魔物の見た目を確認して、距離置いてから倒し方や討伐するかしないかの条件を話し合って、体調と運勢がいい感じに重なった日に、改めて挑戦したい」
エイジが笑う。
「ソウマは強気か弱気か分からんねー」
「基本的に弱気なんだと思ってくれ。んじゃ、【ダッシュ力】【持久力】【パルクール】の逃げスキル優先で、あとの時間はそれぞれの武器も練習するって感じで。あ、俺は武器にこの鉈使ってみていい? 3日後実際に使う気はあまりないけど」
「いいよー。俺は棍のが気分燃えるし。鉈の重さって、大丈夫なん?」
「うまく言えんけど、腕の力で振る感じじゃなくせば大丈夫そう。【円】と合わせて試してみる。むしろ、俺の【爪】って頼ると危険なんだよね」
「すげえ距離近いからね」
「そうそう。防御が紙の俺が敵と近くなる上にさ、長さが2、3センチじゃん。相手によってもし『刺さったから何?』ってなっちゃったら、もう終わりだよなー、って。だからいま【爪】は、武器がなくなった大ピンチとか、何かの拍子で敵の急所が近い瞬間とかの、サブウエポン程度かな」
「まあまあ、基本俺が前に出りゃいいっしょ?」
「んー、すまん。基本方針はそれで頼んでいい? 俺、存在自体がサブウエポンなもんで」
「うっはは。いいよー」
エイジが屈託なく笑う。感謝。




