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ゴブリンダンス ~余命一年の最弱魔人~  作者: 百号
友人獣人俺ゴブリン 篇
20/55

ゴブリン相場


「ゴブリンってのは、普通は単語の命令を聞き分けられるぐらいで、せいぜいゴギャとか返事するのがほとんどだと思うぞ? たまにそれなりに話す奴はいるんだが……。おい、ゴブリン。お前はここまでの会話を全て理解してたのか?」


「え………その、なんとな……くゴギャ」


 ギャ、ゴギャ、とか口の中でいまさら呟いておく。初めての挑戦なのでうまくできてるかすごい不安。

 リオンがひげに手を当てながら俺を見つめる。


「エイジ……、下世話な案もあるが、聞くか?」


「はあ」


「こいつのこと売ったら、たぶんまあまあいくぞ」


 ゴギャ。


「へ?」


「まずゴブリンの中でも人のもとに入れる奴自体がかなりレアだから、相場で20ラルーナ以上はつく。狩猟と売却を回してるだけの冒険者や商人がいるくらいだからな。で、さらにジョブ持ちでレベルを上げている奴は、40とか80とかにもなる」


 ギャ。


 母さん、俺いま、グランドル大陸で自分の相場の話されてます。


「そして詳しくはないんだが、アサシンみたいな上級職になるゴブリンもたまにいて、もしこいつがそれくらいに賢いんだとしたら、それは相当いくぞ。その素養が見られるようであれば、ジョブ未決定なのも逆に余計に値がつくかもしれんな」


 グゲャ。


 エイジが「へー」と相槌を打つ。


「でもまあ、そんなのはいいっす」


「そうか? そしたらこの町にも入れるし、逆に連れたままだと、入門で苦労することはこの先も続くかもしれないぞ。人間だけなら通れるってところとか」


「あー。いやまあ、そしたら入んないで」


 エ、エイジイイイイイイイイイ! ゴギャア! ゴ……ゴギャッゲスッゲス(泣)。

 自然体に男前すぎて、もう俺、俺、赤い実がはじけちゃいそうだ。


「ふうん。大事にしてるんだな」


「大事? んー…、友達?」


「友達か。……やはり変わってるな、お前は」


「え、リオンさんもじゃないすか?」


「そうか? 俺は普通だぞ」


「俺みたいな無知で無防備な奴が、大金になるかもっていうのといっしょにいるのに、色々、なんか正直に教えてくれてるし。いやほんとーに感謝です」


「ん? まあ、これは普通なんじゃないか。俺はこうやって務められててちゃんと食えてるわけだし。それに人を守る立場の衛兵なんだしな」


「あ、なんとなく、そーゆうとこっす」


 確かにリオンからは根っからの性質のよさみたいなのが各所で見え隠れしてる。門番より先生とか向いてそう。感謝だ。これからはリオン先生って呼ぼう。そしてもう一人の小太りアッソのことは、うん、小太りアッソって呼ぼう。


「あ、で、さっきのこいつの質問なんですけど」


「ああ。平和の法な」


 そうそう。俺も自分の相場の乱高下のせいで忘れてた。


「そうだな。まずお前らが通ってきた、この町の南側に広がる十傑草原についてだが、通ってきてみてどうだ? 魔物に出くわしたか」


「あ、いなかったっすね。兎とネズミぐらい。ああでも竜に乗った怖めの軍団みたいなのは見ました」


「ああ昨日のを見たのか。それも関係があるんだ。エイジは十傑物語の中にある、『十傑の夢』の御使い様の話くらいは聞いたことがあるだろう?」


「え、はあ」


「その夢に出てきたといわれるのがこの草原で、ゆえに十傑草原の名を冠している。そして、彼らが同じ夢を見たと言われる250年の昔からずっと、ここはそれに従って魔や悪の存在が許されていない」


「あー、じゃああの軍みたいなのは、見回りみたいな?」


「デルガの白銀騎竜隊、な。そうだ。格好良かっただろう」


 いやいやいや。あれこそ魔に見えましたけど。悪がめっちゃたくさん群れ走ってましたけど。珍走団ですよあんなの。


「魔物が流れてきてないか、巣を移していないかを周回予定に従って回っているんだ」


 ほら、いま集会の予定って言った。


「そして、十傑草原はデルガとマーキュアの対立する二国間に面していながら、『不戦の誓い』が順守されていて、また草原にある町や都市にはすべて『平和の法』が適用されている」


「なるほどなるほどー。草原内にいる限りは魔物も戦争もなくてめっちゃ安全、ってことですね」


「そうだな。シアンテもその恩恵に預かってはいるが、草原の北端の町なものだから栄え方としてはまあまあぐらいだ。ここも北の森のあたりからは魔物がそこそこ出る。気を付けろよ」


「げ、はい」


「衛兵は北門に10人くらい詰めているが、こっちはいつも3,4人だ」


「あれ。いまは2人じゃないっすか」


 確かに。昨日今日と2人しか見てないが。中にいるんだろうか。


「いまは、俺がいるからいいんだ」


 リオン先生が自分の足に立てかけた戦斧の柄をぽんと叩いた。ニヤリ、ドヤァ。


「おっ? おぉ!? ヨ!」


 ぱちぱちとエイジが楽しそうに拍手する。俺も肩を振って踊っておく。

 リオン先生が笑う。


「やっぱ変わってるよ、お前は。いや、お前らか」


 そう言ってふっと息を付き、「で、お前らこれからどうするんだ。話は戻るが、門内に入れてやることは出来んぞ」と聞いてきた。


「作戦会議っす。とりあえず」


「ゴブリンと作戦会議、か。まあ、自分で兎を狩れるようだから、とりあえずのところは大丈夫か」


 そう言ってアッソに首を振り、門柱に置かれた杖とナイフを持ってこさせた。兎は昨日2羽食べて今日1羽捕まえたから、エイジの棍にはいまは1羽がぶら下がっている。


「あ、そうだ。話が少し変わるんですけど、水を入れる水筒みたいなのって、どっかで手に入れられないですかね」


 エイジが聞く。

 確かに、今後川辺縛りで動くのかどうかに関わるので、水を入れておける容器があると助かる。


「ん……。荷は、本当にそれだけなのか」


「はい。ナイフとコイン、あと自作の杖っす」


 リオン先生は少し考えて、「……そうだな。閉門までに買っておいてやってもいいが」と答えた。

 アッソの眉毛がほんの少し動く。


「ただし1ラルーナを先に渡すんならな。釣りは後で返す」


 エイジがこちらを向く。


 え。えー。

 えー、やだ。ラルーナちゃん。俺の銀色の君。

 やーだー。

 エイジが手を、ん、と出してくる。

 ヤダゲスーヤダゲス―。


「う、兎と交換みたいなのは、どうでゲスか?」


「駄目だな。売り手がうんと言うかが分からん」


 エイジの手の平が早く渡せと圧を掛けてくる。

 ヤーダーゲスー。

 

 俺たちがラルーナ硬貨をつまみ合って静かな諍いをしていると、「『小鬼にコイン』ってのは、つくづくほんとなんだな」とリオン先生が言った。


「ことわざっすか」


「ああ。『猫にマタタビ』、みたいな意味だ」


 え、ほんと? このこだわりというかラルーナちゃんへの愛情って、種族特性なの? 俺はもう魂までゴブゴブしちゃったの。

 俺の一瞬の心の揺れにエイジはつけ込みやがり、ピンッとコインが取り上げられる。


あああ。


 エイジに引っ付いて伸び上がり、万歳するが、手を挙げられてるため届かない。

 俺の……ッ、ジャンプ力……、そして【パルクール】………ここで使うべきか!?


 逡巡してるあいだにコインはリオン先生にはいっと手渡された。


「ん。黒パンがあったら、いるか?」


「あ、ほんとですか? 少しでもいいんであったら助かるっす」


「分かった。では、閉門前にまたここに来い」


 そう言ってリオン先生は戦斧を持ち、門前へと戻った。


 く……俺の………ッ、ダッシュそしてジャンプ力………、【円】を………この力をッ! ここか、ここなのかッ!?


「おーい、いくぞー」


 クウッ!

 くそっ! 覚えてろ!




「相変わらずの、おせっかいですな」


 後ろから小太りアッソの声がぼっそりと聞こえた。



 アッソ「止まれ!」以外も喋れたんか。意外やな。同じゴブリン種かと思い始めてたわ。むしろ下位種のデブリンかと。オークと雑種やろお前。違うんかワレ、オゥ。ラルーナたんと別離というときに唐突に喋んなやこの野郎、この、肉、無言肉め。



 あーあー。ラルーナたん……。


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