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ゴブリンダンス ~余命一年の最弱魔人~  作者: 百号
友人獣人俺ゴブリン 篇
2/55

ゴブリンか、あとは


 俺は真っ白になりかけたところから、何とか自分を取り戻す。


「ゴブ…。待て! 待て待て! とにかく状況認識!」


「ぶふっ。 だからやめろって。ゴブリンが状況認識とか言うの。ずるい、卑怯」


「ずるくねえ! まず、周囲は、草原と青空。ほら見ろ、んー、広がってるねえ。そしてぱっと見何もないねえ。ハイいったん放置。そして、あとは俺らだ!」


「俺らっていうか…。まあいいや。で俺は? やっぱなんか変わってんの」


「む…」


 後ろ手に寄っかかって胡坐をかいたエイジのことを、改めて見る。

 むー……。人間だ。ただのとっぽい人間だ。

 俺の知ってるエイジの顔が、普通に顔部分に貼っ付いていてる。


「顔は…変わらん。髪が前にやらかしたときみたいなオレンジ。ガタイは、どうだよく分からん。俺が小っちゃくなったのかエイジもでかくなってんのか。自分ではどうだ?」


「んー、比較対象ないと、よく分かんないもんだね。違和感はない。手足の太さも、……変わんない気がするね。髪は、オレンジなんだー」


 短髪なので自分で見れないらしいが、髪を触ってみている。


「コバセンにまた呼び出されちゃう」


「その余裕感は…。まーお前はそういう奴だったよな。んで、今着てんのは何だ? 布の服?」


「だね。学ラン消えたねー。これは、布ってか皮? ワイルドな作りなー。で、ポケットにこれ」


 貫頭着とでもいうのか、大きめの服とズボン。ズボンについてたらしいポケットからエイジが取り出したのは、おお、これはナイフか。


「えー、普通に入ってたん?」


 その髪色でナイフて。ちょっととっぽすぎるだろ。

 ナイフは包丁を一回り小ぶりにしたぐらいのサイズのシンプルな作りで、皮を折ったようなこれまたシンプルなカバーが付いている。

 エイジがカバーを取ってみると、銀色の片刃が出てきた。

 何というか・・普通?


「なんかないの。メーカー名とか紋章とか」


「ないなー。作りも安っちいね。曇っててあんま切れなそうだし、持ち手も何かの木を、削ったまんま?」


「んじゃ俺は・・」


 俺も自分のズボンに付いていたポケットを探る。

 右ポケットの底に小さな感触があり、すぐに掴んで取り出した。


 おお?

 おお、コインだ。

 目の高さに上げて裏表の意匠を検分する。コインは銀色で、男性の横顔の肖像の上に小さく1と書いてある。裏面にはなんかいびつな図形が書いてあるけど、これは国境線かな。見たことない国だが。大雑把には逆さのおわん型。


 ……あー。

 ムムム。

 突然に別景色に飛んで、二人の見た目が変わってて、でポケットにはナイフと、見たこともないコイン、なー…。


 これはー。

 認めたくないがー。

 エイジの顔をじっと見る。彼は何? と眉毛を上げる。


「何というか…、異世界転移やんね、これ」


「ん?」


「ほら、剣と魔法の世界、みたいなやつでさ。ゲームの世界観っぽいところに突然行っちゃうやつ。アニメや小説の。前エイジにもいくつか勧めたじゃん。お前、ゲームしないからなーってうやむやになったけど」


「あーあれか。読んどきゃよかったかな。てか、まあ、ここが異世界だとは思うんだ?」


「いや、まあ・・」


 微かな期待に賭けつつ、小さい声音でエイジを見上げる。


「俺、ゴブリンなんしょ?」


 エイジは頷いて即答する。


「あーもうゴブリン。知識浅いけど、さすがにそれはゴブリンだねー」


「いや、でもお前、俺だって分かったんだろ」


「そうそう、各所にちょっとソウマが残ってて、それがまたウケんのよ。スマホの合成アプリみたい」


 ぐわー。ゴブリン×俺かよ。どっちもブスかよ。

 確認したい。

 絶対確認したくない。


「いや、エイジ知識浅いならほら、ほかの可能性もさ?小柄な男性の、えーと色違いとか? ペンキではしゃいじゃった子供とか。ゴブリンに間違われやすい、ほら、浮かばんけど、せめて何かほかの生き物とか」


「小さくて緑で、鼻がなくて牙と爪生えてて、耳とがってて、髪がちょっと生えてて真っ赤。んー、似てる生き物ねえ…」


 赤いのか。一握りの毛髪よお前は。


 そして口の中は、と触ってみる。…あーうん牙だね。うんうん。これは牙牙。で、耳? 確認し忘れてたけど、ほんとだそだねー、尖ってるねー。


 エイジが俺を見て、目線を上げて落として俺を見て、という感じで考えつつ口を開く。


「ゴブリンか、あとは…」


「あとは?」


 俺は一縷の望みにすがるように聞き返す。

 それはそうだ。異世界転移でもそうじゃないとしても、最弱瞬死のゴブリンなんて引きたくはない。しかも一緒に来た相方はヘアカラーだけ変えて、この夏ちょっと冒険しちゃいました状態で草原で微笑んでいるのだ。こんなのとんでもない不公平だ。社会問題だ。


「あとは、ゴブリンの子供?」


 エイジはそういって小首をかしげる。びた一文可愛くない。


「まあ、まあその、何だ。俺がゴブリンかまたはそれに類するような、とか、誤解されがちである、まあとある生物だったとしてもだな」


「子供かどうかはほら、あそこのアレ見ないの?」


「うるせえ、とにかく今はこうなってしまった経緯について…、ちょっと待てやっぱ見る」


 俺はエイジに背を向け、ズボンの前を広げて恐る恐る見る。


 ノーパンなんだ。へー。

 あー、ふうん。へー、ここがこんな色して…。

 へー…。

 で、ここは、こう…アラララ…ふうん、へー…。


「見してー」


「うるせえうるせえ寄るなてめえのモンでも見とけ」


「異世界チン〇見たい見たい」


「死ぬぞ? いいか分かんないけど初手からそんだけ世界観を舐めてたら大概の流れじゃどえらいバチが当たるぞ? とにかく今は何でこうなったかの話! そして、じゃあどうするかっていう話!」


 おれはズボンの前にある紐をキュキュッと締めて、草の上にドカッと座り、ズボンの上から股間を両手でギュッと守った。

 とにかく緑色なこの子のことだけは、俺がこの先も守っていってやらんといかん。


「まず俺! 俺の記憶ね。ええと今日はー、学校が始業式だけで終わって、エイジと帰ろうってときにまたひと駅歩いていくかねってなって、線路沿いの道をめっちゃ平和に歩いていました、と。で、そっからだね。そっからもういきなり目の前がXP」


「XP?」


「昔のウィンドウズ。の、ほら、デスクトップ画面」と言って俺は草原と空を指さす。


「あー、ぽいねえ。ぽいぽい。うまい」


 エイジは周りを見回して笑っている。さっきからこいつは普通に教室やファミレスでだべっているときのようなテンションだ。

 まさかここまでとは、とは思うが、元来こういう奴なのだ。そこがいいところなような、すごいような、でも今はそれどころじゃないような。まあ放っとこう。


「エイジは? 俺と同じか」


「あー、俺はもうちょい間に挟むかな。電車に轢かれる寸前まで見たし、猿からは転移入りまーすって言われたし」


 電車に轢かれ? え、猿? 

 ぽかんとしてる俺にエイジは続ける。


「え、ソウマ本当にあの時のこと気づいてないんだ? グラっていうか、何かドンって一回、思い切り縦揺れしてさ」


「縦揺れ? え、電車のこと?」


「いや、その揺れは電車が来る前。体が一瞬浮くぐらい揺れたんだって。で、もうそのすぐ後に俺の左側、左後ろかな、から電車が突っ込んできててさ」


「え?」


「だから一発思いっ切り揺れて、おおってなった時にはもう視界の隅から電車が猛烈に突っ込んできてたっていう感じ。グワッて。で、場面がふっと代わって猿山」


「エイジ、ついていけん」


「いや、実際そんな感じなのよ。ソウマの隣でのんびり歩いてたら地面が揺れてー、で、横の線路って高くなってたじゃん、そこから俺達目掛けて電車が落ちてくるのが見えてー。俺も気づいたのはぶつかる寸前くらいだったよ。んで次は猿山で『転移入りまーす』」


「いや」


「で、また場面が代わっていまここ」エイジが地面を指さす。俺はむしろ彼のことをビッと指さして、「いやそこ! そこなんかいたね! はしょっちゃダメな山がぜったいあったね!」と言った。


「えーでも、猿と5分10分話したんだよね。長い」


「いやそこ超重要だから。そこで話したの全部はしょったらいかん。わーもう何だ何だ?とにかく全部、聞かせてくれ」


「わーかったって」


 特異な状況なのに普段の会話みたいになってるのが怖い。明らかにエイジにつられてるんだが。

 まあとにかくこれが転移だったらその猿がキーになるので、彼がしたという会話を一つ残らず話してもらうことにした。

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