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ゴブリンダンス ~余命一年の最弱魔人~  作者: 百号
友人獣人俺ゴブリン 篇
18/55

衛兵が本気


 川辺での立ち話でエイジは、遠方の小さい村から出てきたばかりのもの知らずな純朴小僧を装ったまま、母親から追加で獣人とギィツの実についての情報を仕入れて、最後はみんなで笑顔で手を振って別れた。一番下の子なんて何度も振り返ってエイジに手を振っていたぐらいだ。

 人たらしスキルがひどい。

 黙って聞いてるだけで自分を省みてしまって痛い。


 母親の話によれば、どうやら獣人は人と明らかに違うから獣人なのであって、見た目と能力に明白な特徴があるものらしい。

 人間と子供を作って獣人の血が薄まってきたときに生まれてくるのは、「明らかな獣人」か「明らかな人間」の二択。おばさんの友達にも見た目も中身も「普通の人間の美人さん」で、父親が熊獣人な人がいるらしい。なにそれ怖い。娘さんを僕にくださいコントで見たい。


 でもそうすると、エイジのステータスに【獣人】と出てるのは何でかなー。転生ゆえの特殊事情がここにも隠れてるのかもしれない。

 しれなくないのかもしれない。

 まあピンは差しとこう。


 なんにせよ、衛兵に当たって砕ける前に情報収集することはできた。人とゴブリンのペアがおかしくないと分かったのは大きい。

 声をかける相手は完全非武装の老人と女子供だけ狙うという三流盗賊的な方針だったが、気のいい親子連れに出会えてよかった。

 その前にも農夫のじいさんとか、荷馬車にたくさんかご載っけたじいさんにも声をかけていたが、そっちは「忙しい、門行け」の一点張りでせちがらかった。

 にべもない感じでエイジも孫スキルをうまく発動できなかったらしい。



 そんなこんなで門に接近中。

 二人いる衛兵からもこちらを視認できる位置に、いままさに入ろうとしている。


 やっぱちょっと緊張。

 こんちわー。

 草原と青空が綺麗ですね。

 ああ、心が洗われていくなー。

 人は、なぜ争うの? 憎しみや悲しみから自由でありたいのになぁ。

 そう思いません?

 あ、何かじっと見られてるけど、悪い者じゃないですよー。見て見て、害のない微笑み。

 僕たちは、ほら、そんな急いで門の中に一回入って、あ、盾と、手槍と、え、戦斧? を持って出てくるようなもんじゃあないですよ?

 え、門を守るように構えないで。

 さっきまで門柱に寄りかかって談笑してたじゃん。


「とりあえず、行ってみるっしょ」


 エイジがぼそりと囁く。


「うー、何? 超臨戦やん」


「んふ。いざとなったらダッシュだなー」


 赤い髪の若ひげと、黒髪の小太りがこちらを見つめている。


「こんち……」


「止まれ!!」


 こんち止まれって。

 エイジの挨拶が阻まれた。小太りさん、大声出さないでー。


 六歩ぐらいの距離で俺たちは立ち止まらされた。これは……間合いというやつか?

 やばい、向こうの本気度が想定の10倍ひどい。二人の熱視線の熱が熱い。

 俺はエイジの方に一度目線を出して、自分が持っていた杖を地面に置いた。

 エイジもそれに続く。


「あのー、何も持ってないっすよー、これ杖ですし。てかただの拾った木切れです。あ、あとこれナイフ」


 そう言ってエイジはポケットのナイフも地面に置いた。

 若ひげが口を開く。


「お前ら、見ない顔だな。紹介状や身分を証明するものはあるか」


「いや、それが事情があってないです。実は……」


「待て」


 説明しようとしたところで若ひげが片手を上げた。

 武装解除したのが良かったのか、ふむ、という顔でひげを撫でながら、向こうも戦斧の構えを降ろした。


「手ぶらでゴブリン連れ、林から出てきたな……。そのゴブリン、ジョブは持たせているのか?」


 あー、しくった。そりゃ林から出てきたら怪しいか。大回りして道を通ってくるべきだったかー。


「ジョブ?」


「ジョブだ。つまり……どこかのギルドに行って、ジョブを取らせたことはあるか?」


「あ、ギルドも分かんないっていうか、行ったことないです。田舎の村の出なもんで」


「む……そうか」


 若ひげが小太りの方に顔を寄せて何か囁く。

 二人してめっちゃ俺の、顔? を見つめてる気がするんだが。

 あれ、この顔ってゴブリン界にしても変わっちゃってます? ちょっとソウマって奴が混ざってるんだけど。

 でもソウマフレーバーをほんのりかもしただけの、ノーマルゴブリンですよ?


 二人がこちらを見つめたまま、黙って一度頷き合った。

 大丈夫だよね?

 今の、(よし、殺そう)(殺そう)じゃないよね?


「まず、男の方、その杖とナイフをもう少しこちらに放ってくれ。話が終わるまでのあいだ預かる」


「あ、はい」


 エイジが杖とナイフを放ると、小太りが回収して門柱のもとに置いた。


「で、質問だが、そのゴブリンは、言葉はどこまで通じる」


「あ、えーと」エイジがこちらをみる。


「あ、しゃ、喋れるでゲス」


 エイジが小声で「ゲスて」と噴きそうになるのをこらえる気配がする。いやいやあっしなんざ所詮は奴隷みてえなもんでゲスからね。戦斧持った人間様には逆らうなって群れの長老にも言われてますし。


 若ひげがほう、という顔をして、しばらく考える。


「ではゴブリン、こっちに来い。余計な動きはするなよ。アッソ、構えておいてくれ」


 うへえ。ご指名。

 アッソと言われた小太りが手槍を俺の頭部に向けて構える。

 実は鋭利な刃物頭部に向けられバージンなので、かなり恐ろしい。が、そちらへと歩き出さざるをえない。

 怖いー。さっきのほんとに(殺そう)(うん、すぐ殺そう)じゃないよね?


 俺が恐る恐る近づくと、若ひげが戦斧を地面に置いた。


「心配するな。お前の耳をよく見たいだけだ」といって手を伸ばしてくる。


 耳?


 耳たぶを引っ張られた。そんな強くはないが、腰をかがめた若ひげに、両耳をうにょうにょ検分されてるのが分かる。


「ふむ、言う通りのようだな。よし。主人のところに戻っていい」


 そう言って若ひげは俺を振り向かせて、背中をぽんと叩いた。


 あ、ジェントル。いや、優しいっていうよりは、思ったより奴隷扱いじゃない。いい奴? でも、あれ? いまエイジのこと主人って言った? 言ったよねお前? むしるよ?


 俺はエイジの隣に戻る。


「えっと、いま何してたのかって聞いてもいいですか?」


「ん……まあ本当に知らんのなら、お前は知っておいた方がいいだろうな」


 若ひげが答える。


「まず前提知識として、人間だけでなくゴブリンも、主人にギルドという場所へ連れていかれてジョブを取ることが多い。多いというか、ギルドがある町ではそれが普通だな。メリットが大きく、ギルドに最初金を払う以外にはとりたてて損がない。ゴブリンを贖えるような人間だったらなおさらだ」


 ほむほむ。


「そして、そのときによく取らせるジョブというのがあって、まずは旅人。これはゴブリンが御者をできるようになるし、簡単な料理やある程度の運搬などといった、小間使いとして便利なものを覚えられるからな。商人所有のゴブリンであれば、ほぼすべてと言っていいほど旅人持ちだ」


 ほー。

 ギルドと、ジョブかあ。やっぱあるのかー。


「もうひとつ、ゴブリンを雑用ではなく戦力として使役するようなときに取らせるジョブがある。分かるか」


「あー、とうぞく? っすか」


「そうだ。兵団や冒険者、そして実際の盗賊や山賊一味、暗殺者(アサシン)などが、ゴブリンに盗賊ジョブというものを取らせる。盗賊持ちのゴブリンは非力なのは変わらないが、戦闘や盗みにおいて、ジョブに応じた固有の技を覚え始める」


「なるほどー。でも、それが耳と何か関係があるんですか?」


「ギルドでジョブを取ると、ギルドカードが発行されるんだが、さらにゴブリンの場合、魔力を付与したゴブリンピアスというものが与えられる。ゴブリンだとそれがないとジョブと個体が結び付けられないんだ。つまり、」


 若ひげがそう言って俺を見る。


「そのゴブリンの耳にはピアスもピアス穴もなかった。現在盗賊持ち、または過去に盗賊持ちだったことがないのは、耳を見ることで証明される」


「お」


 お。


「ゴブリンを連れてて盗賊持ちでないということは、ひいてはお前も賊のような盗みをはたらいてきてはいないのかもしれない、ということにもなる。あまりに利に合わないからな。まあ、これまでは、の話だが」


「おお」


 おお。


「えと、じゃあ」


「まだだ。警戒の必要も大分なくなりはしたが、まだ色々と話を聞く必要がある。男はこっちの方へ」


「はい」


「お前、名は何だ?」


「あ、エイジっすー」


 そう言ってエイジは衛兵の方へてれてれと歩いて行った。エイジ、緊張感。



 しかし、へー、ふうん。なるほどねー。

 ジョブかー。あるんだね。

 で、ゴブリンの場合、ジョブ取ってるかどうかが周りに耳で分かるのか。それまではスキルにハイフン表示もされないんだ。ああ、全員ジョブに付いてて当たり前、の扱いじゃないからか。


 とりあえずは、盗賊山賊系の疑いが晴れて良かったってことね。

 善良なゴブリンですよー。

 夜の闇に紛れて駆けませんよー。

 でもちょっぴり耳がよいので、ひそめた声での話がまる聞こえですけど。これは不可抗力ですよー。


 エイジがこれまでの経緯や出身などを聞かれている。ここらへんは打ち合わせ通りにつつがなく答えていく。つつがないといっても、つまり「何も持ってません!」「分かんないっす!」「田舎者っす!」作戦だが。


 想定問答をしてなかったところでは、俺たちの所持金を質問してきた。

 当たり前みたいにエイジがこちらを振り返る。


 え、これ出すの? 取り上げられない? 

 ここでこれの価値が分かっとくのは大事だけど。

 やだなー。だいぶこのコインとはおともだちになってるのよ。


「ゴブリンに預けてるとは、変わってるな。見せてみろ」


 いや、むしろこれが俺唯一の所持物ですからね。ズボンは取ってもこれは取り上げないでほしい。

 俺は近づいて、手の平に銀貨を乗せて見せる。


「ふむ。1ラルーナか」


 若ひげが呟く。

 1ラルーナ。とりあえず貨幣としての名前が分かった。

 へえ、君、ラルーナちゃんって言うんだねえ。


 ラルーナちゃん、可愛いねえ。


「えっと、1ラルーナって、どんぐらいなんすかね」


 俺がラルーナと挨拶してるうちにエイジが尋ねてくれる。


「む……。さすがに普通は村を出るとき教わってくるぞ」


「へへ。すいません」


「お前はものを知らなすぎるな。いいか、100ラルが1ラルーナで、100ラルーナが1ラルーバスだ。1ラルーナは、そうだな、まともなベッドと夜に食事が出るような宿屋で、人間二人が一泊できる、というくらいだな」


 ぐわあ。

 ぐわあ……ラルーナちゃん……。そうかぁ、1万円くらい、かなあ。

 まあ若ひげのテンションで大した価値じゃないの分かってたけど、化けれなかったかー。作り的にも期待持てなかったしなー。


「人間と、ゴブリンだったら?」


「ゴブリンは土間や玄関で寝かせるからな。ベッドひとつの部屋を取って、5ラルか10ラル程度の追加金で済む。厩で寝かせる冒険者もいるらしいぞ」


 土間……厩………ラルーナちゃん………。


 ああー。

 なんかもう、何も聞きたくなくなってきたぞ?


「じゃあ、なんとか切り詰めて二、三泊かなあ」


「だいたいそんなものだな」


「あ、あの、質問しても、いいでゲスか?」


 若ひげがちょっと驚いた顔で俺を見る。


「おう。いいぞ」


「ギルドっていうのは、冒険者ギルドでゲスか? そんで登録には、お金がかかるでゲスか?」


「ああ、ギルドはいくつかあるが、お前らが関係あるとすれば冒険者ギルドか商業ギルドだ。冒険者だと登録料は、いくらだったかな。1ラルーナぐらいだ。だがゴブリンはピアス代があるからもっとだろうな」


 足らん。足りなすぎるじゃないか。


「ああ……。そうでゲスか」


 エイジもそれを聞いて、肩をすくめながらこちらを見る。


「こりゃまあ、とにかく一回入って何とか頑張って稼ぐしかないねー」


「でゲスね……」


 若ひげが「ん?」と眉毛を上げて、一度小太りアッソと目を合わせる。


「まあ、いま色々とお前らの話は聞いたわけだが」


へえ。まだ何か?


「結論として、入門そのものが許可できんぞ?」と、普通の顔で言った。


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