確実に道
起きてからまず、エイジと朝露がどれくらい取れるかを試した。
結果、これはかなり厳しい。
喉を潤せるぐらいに集めるのは無理だなー。
最後には俺が幹ダッシュを披露して木に登り、木の枝を何本か振って落としてみたがエイジが手の平に受けとめて舐めれたのは「3,4滴」だったらしい。
今日中に町のそばに着くっていう見込みだが、これが外れるとピンチだな。
とにかく今はいったんあきらめて、昨夜分かったことをエイジに共有することにした。
いま、俺のスキルはこんな感じ。
ワールドコマンド(参照C-)
寿命1.2倍
グランドル大陸語(話80、語80)
隷属:-(信頼度:―)
授受(±0)
遠路
感知能力強化(視力強化40、聴覚強化70、暗視55)
円(遠心増加5、回転速度5)
レコード(参照深度12)
パルクール(登攀2、垂直走行8)
爪(硬化5)
横の数値は値が大きいのでレベルではなくて、例えば最高を100としたときの値かなあ、という予想。
でも、エイジは結局あまり情報が増えなかった。まあ元々スキル数が少なめだしね。
ワールドコマンド(参照C⁻)
グランドル大陸語(話80)
感知能力強化(視力強化50、聴覚強化70、嗅覚強化75、暗視40)
回復力強化(HP回復10)
合
俺の【円】は開くのに、エイジの【合】は開かない。
俺の【遠路】といっしょで、結局、【合】も謎のまんまかー。
で、【ワールドコマンド】なんだが、参照と書いてあるところからすると、このアイコンで開くウィンドウのことなんじゃないか、とエイジと話す。使ってくうちにスキルアップしていくかっていうと、うーん、分からん。アップするとどうなるんだ。
【隷属】には信頼度があるらしい。これはハイフンなんで良かった。【授受】も同じく未起動状態。【遠路】は開かない。ここら辺はそんなに情報が増えなかった。
でも【感知能力強化】は自分らで把握していた通りに増強されていて、しかもその数値はかなり高めと分かった。
そして【円】。これは確実に回転系だね。普通に考えると何かを回すっていうより、自分が回るんだろうなー、と予想できる。
【レコード】にも参照という言葉が出てきたので、こっちが鑑定という当たりが付いた。そしてこの超重要フラグが立ってる【レコード】なんだけど、繰り返し起動してるとやっぱり疲れ始めた。
そのときすぐにステ確認すると【スタミナ】が1減っていて、それからまだしばらく続けるうち、疲労度に応じて加速度的にスタミナが減少することが分かった。5減ったところで中止。
そこまでやったけど、結局【参照深度】の横にある数値に動きはなかった。
そのあと俺は、朝まで地道に爪のうずうずを試していた。
結果、じゃーん。【爪】スキル発生。やっぱり種族特性のやつは生えやすい、そんでたぶん育ちやすい、ってことなんだろうな。
といった感じで、俺ばっかり順調にスキル育成中、エイジは停止中。まあ少しでもステ差を埋められるといいんだけどね。
エイジにここらへんまでのことを共有して、今後はお互い熟練度を稼ぐのを主軸に据えた方がいいっていうことで共通認識を持っておいた。
「ただし、水、飯、町あたりの目途がもう少ししっかりしたら、だと思う」
「ああ。スタミナが減るとまずいってことね」
「そうそ。減らないようなやつもあるとは思うんだけど、エイジは種族とステから見ると特にガテン系スキルが生えやすいんだろうなー、って気がすんのね。で、それって、大概がスタミナ消費しそうだから」
「ふむふむ。じゃあとりあえず今は、町に近づいておくしかないか」
「そうなー」
「いまは大丈夫だけど、川とか池ってないもんかね。水の面は不安」
ねー。やっぱそうだよねー。
人間で2,3日はもつみたいだが、現在の俺たちは水の優先度が一番高い。
「町って水源の近くに建設しがちだから期待しよう。まあ無くても、そして町に入れなくても、頼んで水の一杯ももらえないっていうのはせち辛すぎかな、とは思ってる」
「そだね。よっし。とにかく一回町だ町。様子見に行きますか」
そう言ってエイジは木に立てかけてあった棒のうち、短い一本を俺に放った。
「これは?」
「とりま、杖。あとはほんとにいざって言うときに、無いよりはましかなーって。夜に削っといた」
「おお、ありがとー」
丘陵はそれなりに登ったり下りたりがあるし、長時間なら杖もスタミナに影響はありそうだ。
俺は指でいじっていたコインをしまって身を起こし、杖が地面につく感触を確かめた。
◇
それから、日中に移動を続け、日がそろそろ傾きだすかなというころに、俺たちは薄茶の土が踏み鳴らされた道へと行きついていた。
そしてそしてさらに嬉しいことなのだが、遠方に通奏低音のように流れる水の音を耳でも捉えている。
当たり♪ やっぱ町には川だよね。
「よっしゃ、だね」
「おう。良かった。まあまあ心配だったよなー?」
エイジがほっとした笑顔で振り返る。
「もう、確実に道だし、確実に水だ。こっからは作戦通りで行きますか」
そう言って俺たちは引き返した。
丘を挟んで道から見えない位置まで戻ってから、エイジは隠していた杖を拾い上げる。
杖の一端には、蔦で結ばれた兎がぶら下がっていた。
そして俺達は川音のする方角へ、道とは一定距離を保ちながら進み始める。
この兎は、近めのカサリ音だけを対象に、1日がかりで7チャレンジ、3羽ゲットしたものだった。7チャレンジのうち、2回はネズミだったので判明したときすぐに狙うのもやめた。食いでがなさそうなのと、町のネズミは食ったらヤバいけど野ネズミは平気、ということでいいのかが二人とも断言できなかったからだ。
結局兎とは5羽出会ってうち3羽をゲットしたのだから、遭遇率も、成績も悪くないと思う。
そしてなんと、うち2羽は俺が追い子となってゲットした。
エイジの【スタミナ】を考えての配役変更だったが、エイジに比べてダッシュ力がなくても、小回りがきくし十分早い。また、発見なのだが、ターゲットを見つけてから俺が大回りするときも、忍び寄るときも、どうもかなり近くまで寄れるようだった。
「隠密系スキルの才能っぽくない?」とドヤったら、「え、保護色じゃないの?」と言われてギャッと声が出た。盲点だった。
なんにせよ、1羽を昼過ぎ頃に平らげてもまだ2羽もぶら下がっていて、そしてここは道があって町が近く、さらに水の音もしている。
つまり、いまは行き倒れリスクがぐぐっと下がってきているので、逆に人間とエンカウントしたときのリスクの方を十分に考慮できる状態になったと言えるのだ。
なので、ここからの作戦は以下のように設定済み。
・道からこちら側が見えない位置をキープし続け、会話も抑えて移動。聴覚をフル稼働にしておく。
・誰かが道を進んでいる気配があったときには、こっそりと確認しに行く。
・恰好、性別、歳、人数を見て、危険度小から大までに分ける。帯剣した人とか、狩人、山人みたいに気配察知に優れてるかも、な感じがしたら危険度大。
そして、そこからさらに細分化。
・危険度小が町を出たとき。⇒エイジがシナリオに従って情報収集。
・危険度小から中が町に向かってるとき。⇒こっそり後を付ける。門に入るときの様子を確認。
・誰も通らない。⇒まあ川行ってから野宿やね。町? 門? 絶対ばれないなら見てもいいよ。
こんな感じが妥当かと。
さてさて、これからどのコースになるのやら。




