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ゴブリンダンス ~余命一年の最弱魔人~  作者: 百号
友人獣人俺ゴブリン 篇
12/55

点火式

 日は傾きだしていた。

 そっちを西的な何かと定めるとすると、俺たちがいままで進んできてたのは北西となる。

 どこに立ってどちらに進めばいいかの目印を地形から定めたあとで、俺たちは30本ぐらい木が生えている、林というべきか迷うような場所を目指すことにした。休むなら草むらの中よりもっと身を隠せるものがあった方がいいという理由だ。あと点火チャレンジ。


「平和な草食動物の天国かもなあ、ここ」


 兎の耳を持ったエイジに声をかける。

 実はカサり音はまだちょいちょいしていて、遠いし獲物持ってるしで放っておきながら進んでるところだった。


「中型のキツネとかみたいなのも見当たんないよね」とエイジが同意する。


「だから兎とネズミがすげー数増えてるのかもな。カッサカサ言ってるし」


「超俺ら向けやん」


「猿さん、だっけ? 気い使えるね」


「んー、そんなタイプだったかなあ」


「じゃねえだろうな。間違いなく。俺がいま褒めたのも嘘だし。いま一番の敵認定だし」


「うっはは。ゲスゲス?」


「いつかゴブリンの大群率いて、俺超やってやっし」


「神対ゴブかー。どっち賭けるかな」


「…神でしょ」


 林について、四方を木に囲まれた窪地に兎を置いてから一度座った。どちらともなく大きく息をつく。何とはなしに目が合って、エイジがニカッと笑ってきたので俺も不細工な笑みを返しておいた。

 さーて次はー。


「あー、火おこしねー。着火はー、まず板。にくぼみを付ける。樫とかヒノキみたいなまっすぐの棒。あともぐさ、ってか細かーい枯れ葉。んで紐ってか、いまだと蔦しかないよね? あと上を抑えるのも板だから、板は2枚か。あとは普通に焚き木。こまいのから太いのまで、出来る限り下に落ちてる乾いた木で」


「へえ。すげーな、本読み。これからかなり助かるんじゃん?」


「全部やったことねえけどな」


「あれって手でガーってやるんじゃないの」


「試してもいいけど。めっちゃ苦労するっていうのは、これも知識だけで知ってる。やるならエイジ担当な。逃げてんじゃなくて、まあ種族的に。てか蔦は、そんなに長くないけど実は持ってる」


 俺はさっき登った木から取ってきた蔦をポケットから出して兎が横たわった窪地に放った。


「サバイバルって何か紐的なものが超重要そうだからなあ」

 と言いつつここはドヤっておく。

 

 なんか自分、そこそこちゃんとしてるなー、というのがすごく意外に思う。

今まで色々と無駄に積み重ねてきた読本知識と、判断と動きとが今のところは噛み合ってる。なんかのスイッチを超入れての本気モードっていうわけじゃないんだけどなー。自分で一番分かってるところだが、自分はクラスの中では何も目立たん。輝いた覚え一切なし。なのでまた町とかの社会に入ったらどうなることやらだけど、いまいまは放り出されて右往左往せずにやってこれてるっていうのは、中々上々だ。

 まあゴブリンだけどね。社会とかもう二度とないかもだけどね泣けるね。



 そして俺たちは焚き木などの材料を探し始めた。

 キノコもあったけど当然却下。枝だけ拾っていく。と思ってたらエイジがでかい声で「ソウマー、キノコー」と伝えてくるので、「身の程シティボーイー」と返しておく。


 そして元の場所に集合。集まったものを見ると、やはりでかい木はでかすぎるな。程よく燃やしやすいサイズで落ちてくれるはずもないしね。細かい木を折っていると、エイジがでかい木を両手足を使って折りだしてくれた。


「すまんのう………。力10でのうー」


「んあー、ナイフ一本ってのはやっぱきついね。なんか折るっていうより曲がるだけのやつが多いし。よっ」


「エイジっていま、スタミナなんぼだ」


「お、ちょい待ち。………えー、40/53」


「む……。76/84。こりゃ燃費問題で差があるな。腹は?」


「減ったね。うあー、減ったわー、ぐらい」


「たぶん俺より減ってるんだろうな。俺はそこまで、だ。スタミナと腹の関係は、まあこれまた不明」


「もし、スタミナが0になったら?」


「活動停止か死。どっちかなのは間違いないだろうね」


 エイジの手が止まる。


「あらあらあら」


「5ぐらいで動けなくなって0で死ぬのか、0で動けなくなってどっかで死ぬのか。つまりエイジの場合は、単発の戦闘では俺に比べて絶対死にづらい。でも、飯や休息系では俺より弱い、みたいな関係だろうね。まあ半日飯抜きで動けてるからエイジが超弱いってわけじゃなくて、むしろ、俺が無駄に振り過ぎ?」


「ふーむ」


「腹減るとスタミナの減りが早い、とかないか自分で注意して見といて」


「あーなるほど。そういうルールもありか」


「ん。ありあり」


 俺は蔦をほぐしてから繊維同士で固めに結わいて紐状にする。

 板は剥がした樹皮を重ねてやってみることになった。特に乾いているものを上に持って来て、ナイフで削ってくぼみを付ける。

 紐をエイジに渡して、ナイフで削り出した棒をその板で挟む。


 よし。さあ、次のチャレンジだ。


 と待ち構えると、エイジが「ちょい待て。兎の解体と火、どっちが先」と言う。

 おお。そーいや。


「む。判断要素は……。暗くなる。解体すると肉の痛みが早い。火が付かない場合に、生食するかどうかになる。火が付くと明かりができる。むう。どっちでも……いいか?」


「いや、微妙だけど、なら先に火じゃね? ごめん止めて」


「そーかも。まあじゃんじゃん言ってくれ。さてさて、改めまして」


「うーし」


 こうで、こうね? と確認しながらエイジが紐を引っ張りはじめる。

 すぐに板から棒が外れてしまった。

 これは、抑えるこっちもむずいのか。

 

 お互いに試行錯誤を繰り返す。

 結局上の板のさらに上に短くて太い枝を置いて、俺が両手の平で抑えこむのが一番続くと分かった。

 かなり強く上から押さえつけ、エイジが「おおおおおお」と言いながら紐を左右に引っ張り続ける。


 ふうー。つかん。


 根本的に間違えてるか? と下の板のくぼみを見たところ、焦げ茶色になってることが分かった。おお。これは、このまま進め、のサインだよね。


 休憩していたエイジに焦げ目を見せ、頷き合って、お互い再び体勢を整える。


「おおおおおおおおおお」


「おおケムリ! エイジケムリイイ!」


「おおおおおおおおおおおおお」


 どうする? どうすんだっけ? 俺か! 俺は急いで空いてる手で枯れ葉を砕いておいた山に手を伸ばし、棒の周りに置く。あ、そーいや最初から置いとくんだったっけ。

 板を抑えながらも地に伏して、葉が飛ばないように気を付けつつ、でも息を吹きかけるという難しい行為を試し続け、そして、ぽっと小さな火が灯った。


「キタアアア! ファイア! ファイア!」


「おおおおおおおおおおおお」


「ストップ! エイジストップ! イッツファイアア!」


「おおおお、あ? そうなんね?」


「そお! とぉもせえええええ!」


 俺たちは「ともれええ」とか「くぅべろおお」など終始叫びながら、枯れ葉のクズを素早くつまんでは火の上に繊細に足していくという何かの儀式めいた作業に没頭した。

 そして細かい木片を投入し、次にはそれより少し太い枝をくべて。


 それから、しばらくた経った後。

 エイジと俺は後ろ手に寄りかかって、少し息を弾ませながら焚かれた火を見つめていた。祭り、だった。ええ。あれは祭りだったんだな、といまは思います。

 油断はできないけど、火は今はもうだいぶ安心な状態だ。


「付いた……」エイジが息を吐いて言う。


「付いたな……。今日は、サバイバルデビューがひどい」


「うっはは。すげえな、ぼんぼん進めてねえ?」


「まあでもつぎはー……解体デビューになりまーす」


「うあー。だったねえ。んー、20分待たねえ?」


「おう、いいよー。てか俺やる?」


「いや、初回俺がやっとくわ。ナイフ配られてるしねー」


「いいの? よろしゅう」


 俺たちはふーっと息をついて、再び火を見つめた。

 あたりはゆっくりと暗くなってきていた。




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