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ゴブリンダンス ~余命一年の最弱魔人~  作者: 百号
友人獣人俺ゴブリン 篇
11/55

兎追いし


 ナイフの真っ直ぐな軌跡を追う。

 テンションがぐわっと高まる一瞬だ。

 さあ、行方は?



 はい地面ー。



 イエー。惜しいね。あと十何センチか、右? てか刃じゃなくて柄が先になってたから惜しくもない? まあ、今後に期待だね。ナイフ配られてても特に何か才能がもらえたわけじゃないっていう、そーいうことね。


 しかしエイジは投げるとほぼ同時に走り出していた。当たればラッキー、って作戦だなあれは。

速い。

 びゅん、という擬音ってのは正しい擬音だったんだ、と思えるくらい速い。そして顔が笑ってるあたりがエイジだ。


 彼が接近するより早く兎は動いたが、当たればラッキー作戦は副次的な功を奏したらしく、ナイフの音に初めに反応した兎は進む方向を誤った。左手、奥、右手、手前の四方向のうち左手と奥が兎にとって正解。そのうちの左方向をナイフによって心理的にふさがれたかたちだ。て、えーもしかして当たればラッキー作戦じゃなかった? もっと高尚?


 ナイフとエイジとに驚いた兎は、俺がかがんでびったりと静止している、右手の方向を逃走先に選んだ。


 よっしゃあ! よっしゃあ! どうしよう!


 勢子する? それとも俺も、捕まえに行く? 決めてなかったが、勢子として大声張り上げたところでエイジが必殺武器を持ってるわけじゃない。素人二人、獲物に近づいたほうがチャレンジするべきだろう。兎を追ってエイジもターンして猛接近してきている。


 俺はここまでで把握してる自分のジャンプ力を考えて、ここだ! というところで飛び掛かった。

兎は葉のかげにいた俺のことをまったく認識していなかった。一瞬たじろいだようにして減速し、すぐ右側へと飛んだ。こいつ毎回毎回、右利きなのかしら。

 俺はジャンプしてるから方向転換できないが、エイジはできる。俺が空中から目で追っているうちに、減速した兎にエイジがさらに近づき、ターンしたのを追ってエイジも右へと転回して、ここだというタイミングで飛び掛かった。あいつずっと笑ってやがる。学校のレクかなんかと思ってないだろうな。


 エイジの左手の指が体に掛かり、兎がびたんと一回横倒しになる。掴めてない。兎はすぐ体勢を立て直し、走ろうとして、一歩跳ぶ。しかしエイジの跳ぶもう一歩が、伸ばしたもう片方の手が、兎に追いすがり、降りかぶさって……



 兎、ゲットオオオオ!


 うおおお。やった! 


「っしゃあ!」


 エイジが吼える。確かにすげえ。都会っ子の二人が、主に素手で、兎ゲットか。まじか。


 エイジは右手で地面に兎を押し付けて逃げないように固定し、こちらへと顔をめぐらせる。


「よっしゃあー。ソウマ! ソウマ! ナイフ!」


「お、おう! 待ってろ、探してくる」

 

 俺は兎が最初にいた地点まで小走りで戻った。


 ナイフ♪ ナイフ♪ 兎♪ 兎♪

 うーさーぎーおーいしーここー♪


 お、あったあった。

 

 拾って戻ると、エイジは兎の首の後ろを掴んで立ち上がっていた。兎はもがくが、逃げないように気を付けてくれている。


「ちょーだい」


 油断しないまま片手を出したエイジに、ナイフの柄を渡した。


「じゃ、いっちゃうよ」


 そしてなんとエイジは受け取ったナイフをすぐに兎の首に当て、ぐっと奥へと刺し入れた。眉を寄せて少し顔を背けているが、あっという間の流れ作業で。

 ナイフを引き抜くと、当然どっと血が流れる。エイジは服につかないように持ち方を変えつつ、地面に横たえた。


「ん。こっからどうすんの」


「あ、多分血抜きは逆さ。てか、ってかどしたん。やったことあんの」


「いや。初めて」


「いや、だとしたらずいぶん、ためらいなく刺してたんじゃないか?」


「んー。でもこっからさあ、俺殺せないーとか言い合うの、なんかかったるかったから」


 はあー。

 ほんと変なやつではある。頼りになるし、ちょくちょく格好いいのは認める。が、変わってるわあこいつ。まあ知ってたけど。俺と仲いいくらいだから。

 こんな状況にぽーんされたことはまあアレだが、相方がいてそれが「俺殺せないー」的な奴じゃないのはとっても助かる。躊躇なく兎に本気のジャンプで飛び掛かれる奴なのは、すごくラッキーなことなんだろうな。


「逆さでしばらく持ってればいいのかな。あれだよ、お前もそのうちやってもらうよ? 順番っしょ」


「そだなー。まあ、うん。俺もここに来といて俺殺せないーがかったるいのは分かるから、なるべく手間かけずにやるようにはします」


「やー、けど、捕まえられるもんなんだねえ」


「素人になあ。野生動物ゲットとかな。いやほんと、苦労続きで飢えるとか、『俺らちょっと自然を舐めてたな』とか、そういう洗礼みたいのはどうしてもあるの覚悟してたんだけどな」


「出た。ネガティブ担当。うはは」


 ここまでの色んな作戦が素人考え、初心者のデビュー戦なのは分かってるが、素人考えだったね失敗、で終わらずにまあまあ進んでくれてる。調子に乗るべきじゃないが、これにはかなり感謝しつつ、今後も何が自分たちに出来るのか細かく分かっていくべきだろう。


「あれだよ? 種族補正掛かってるから、はかなりあると思うよ」


「ああ。足確かにはっええし俺」


「びゅん、だったな。俺も、兎ってば気付かずに俺の方来たけど気配系とかあんのかないのか。ま、これはいいや。あとエイジはずーっと滅茶苦茶笑ってたけど、ケモの本能入ってた?」


「え、笑ってた」


「サイコパス的に。夢中感すごかった」


「いやサイコパスじゃねえけど! まあそれめっちゃ俺じゃないの。単純に燃えるじゃん、おもろいやん」


「それなー。まあお前っぽいわ。兎いた場所は? 何か俺より当たりついてたみたいだけど」


「ん……。んー」


 エイジが思い出すようにしながら、ぶら下げた兎を少しだけ振る。血は抜けてきたようだ。


「目と耳と鼻と。これは自然に総動員してたかな。あそこいんじゃね? って思ってからはもう目も離せない。人間エイジなのかケモ? なのか分からないけど」


「エイジ、人間時代からケモエイジだったとこあるからなあ」


「んっはは。よー分からんけど分かる。ちょっと。あー、あと」

 

 エイジがにっこり笑う。


「お前のあの離れて進んでくの、おーやるなあって思った。うまく説明できんけど。バッて結構飛んでたし。ソウマあんま動く印象じゃないけどね、動けんだねー」


 むっふふ。まあ今は褒め合いタイムだ。俺らはなかなかのことをやった。

 草原と青空と、こげ茶の兎持って笑う友人。えらい目に合ってる最中だけど、まあいまは気分がいい。


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