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ゴブリンダンス ~余命一年の最弱魔人~  作者: 百号
友人獣人俺ゴブリン 篇
10/55

カサリ音



 まじかー、当てたなーあいつ、と木の上で思った。


 かなり小さく薄っすらとだが、たぶんあれは人工物。カクカクしていてその上にいくつかぴょっぴょっと伸びてるので、城壁と建物なんじゃないかなー。

そういう岩とか地形じゃないのか、ぬか喜びになんないか、と疑いながら何度も見直したが、結局町に一票、という結論に至った。

 そしてその周辺についても目を凝らして確認していくと、近くの丘のいくつかに自然のものじゃなさそうな線が乗っかってた。たぶん土色で、それなりに幅があるはずだからこいつのことも道と認定。祝、道と町発見。


 エイジの指した方向だと町そのものとは少しずれてたが、あの調子なら道とは行きあたっていた。目算は難しかったが、10時間とか? もっと? というくらいの距離。まあかなり歩くが、この歩みにはちゃんと先があるんだ、ということには勇気づけられるね。


 そこらへんのことをエイジと共有する。正直方角が合ってたのはとても良かったしお手柄なので、よ! やるやんー! とヨイショも入れとく。


「おー! さすがだね俺」


「もっかい聞くけど、何か理由あったわけじゃないんだよね」


「ないないない。完全に勘。ビビッと来たのよ」


「ビビッ、かー。エイジのそこらへんの盛り方はいつものことだからなー。いや、『野生の勘』とかそういう獣人効果ってないのかな、と。ま、スキル欄にはないか」


「ふっふっふー。分からん」


 スキル欄になくてもいろいろ細かい補正や、表示されない値ってのはありそうなんだけどね。力や素早さですべてを表現しきれる訳はないし。まあ、また何かあったらまた決めさせてみよーっと。


「遠いは遠いよ。夜は越えると思う。どうしようね」


「夜は休むべき、かな」


「まあ賛成。どう休むかどう寝るか、とか決めましょ。あとはメシ問題だが、こっちも俺今日中にチャレンジすべきだとは思うのよ」


「お、そのこころは」


「あーさっきエイジが言ってくれたやつ。町到着、イコール安全ゲットってのはご意見いただいた通り安直だから。まず俺ちゃんが入れるか分からない。ってか普通に入れなそう。討伐対象で槍とか石で追われそう。それに門番の門番レベルによっては、エイジ一人でも入れるかは分からない」


「ああ。かもねえ」


「先に飯と睡眠をこの野っぱらでやっておくと、町でNGもらってから急いで対処する場合よりは慌てずに済む。というのに一票」


 エイジが一人で歩いていた間にも結構カサリ音は聞こえていて、待ってみるとネズミか兎のどちらかだったらしい。もしもそれが捕まえられるなら、相当安心感が増すよね。


「ふむふむ。………ん、俺も。二票」


「うし。動議採択。じゃーこっからはメシ作戦だね」


「ゲットする。それを食えるようにする。食う。そして夜は寝る、だね。生肉食えるのかな。いまってやっぱ腹壊すとやべえよな」


 町が一両日程度の距離にあるだけ、超最悪ではないが、もちろん避けたいところだ。


「高級店だと管理されてて色々食べれたりするんだけどね。えっとね、そのへんの知ってるところをだだ漏らしにするとー。危ないのは細菌と寄生虫。モツも、食べるには知識いるけどこれはお互い知らないだろうから食わないべき。細菌はー、生でも新鮮だったらそこまで心配じゃない。鮮度落ちたとしても水洗いで意外と取り除ける。ただ反芻する動物は最初からちょっと危ない。豚はかなり怖い。で、細菌、寄生虫のどっちも、火か冷凍によってなくなる」


「おー、持つべきものは本読みだね」


「いや、明らかに素人知識なんよ。頼ると一番危ないってやつ、我ながら。病院がない現状でチャレンジするのなんて、余計に怖いねえ」


「んー。やっぱ火かー。火おこしはすっげえムズイって言うよね」


「そのチャレンジはやっていいんじゃない? 今後のためにも。ガテン側なんでエイジのステータス頼りなとこあるけどな」


 エイジはちょっと考える。


「んー、そだね! んじゃ、手分けはなし? 二人で肉ゲットしてー、休む場所決めてー、火おこししてー、で飯食って寝る」


「だな。となったらカサり音を探そう。明るいうちしかいけない? よな?」


「夜動くのは夜行性だよね」


 なんか夜行性って食う対象というイメージがあんまりない。というかむしろ俺らが食われる対象になるイメージ。ずっとここまでの間、見渡せるかなり広い範囲でとても平和な風景なのだが、実際にはどれくらいのリスクが隠れてるんだろう。


「魔物、いないなー。助かってるんだけれども」


「いま3,4時間とかだっけ? これってどんなものなんだろうね」


「まあ、もし出会ったらできる限り逃げる方針で決めときましょう」


「そうしましょー」


 うむうむ。


 カサリ。



 バッと同じ方向を向いて俺とエイジは立ち止まる。

 ナイスタイミング。

 普通に会話しちゃってたけど、いまのは結構近くだ。というか遠い音はちょいちょいしてたが、ここまでシカトして来ていた。


 20秒ほど待っても動きがないときに、エイジが動き出した。

 音のした方に、そうっと泥棒歩きで歩き出す。

 俺もすぐそれに続くことにする。何となくだけど、エイジと少しずつ左右に距離を開けながら動くことにした。


 動きはない。まだ耳が慣れてなくて、さっきの音の方向は分かってもどれぐらいの距離だったかは当てが付けられない。結構近く、ではあったはずだ。


 エイジはあまり視線をさまよわせず歩いてるように見える。もしかしたら嗅覚情報あたりの助けを得ているのかもしれない。それを確認するのは、もちろんことが全て終わってからでいい。


 音がした方向と、エイジの動きとを目に入れながら、エイジの横から10メートル弱の距離を開けて進む。

 足を下ろすときには細心の注意を払う。息をひそめ、集中を切らさないのを維持する。


 しばらく進んでから、エイジが止まった。

 下草の少し高くなったあたりを見ている。やはり居場所に当たりを付けているようだ。

 俺は少し迷ったが、エイジが見ている辺りを囲めるようなかたちで数メートル、さらにゆっくりと進んだ。

 何かの知識があるわけじゃないが、囲めたり追い立てるように動くことができればそれだけ有利になるはず、という感覚に従った。エイジの邪魔にはならないように、へんに動きすぎない、音を立てない。エイジと茂みとに集中を切らさない。


 そして俺も立ち止まり、エイジの視線の先を見つめた。

 エイジが身をゆっくりとしゃがんでるくらいにまでかがめたので、飛びつく準備か、目立たないためか分からないけどこれも従っておく。

 何となく流れでエイジ主体に任せることにしていた。

 エイジが動いて何かの動物が動いて、そしたら俺はそれを見て良きように動こう。



 そこから10数秒。テンションの張りつめた時間が流れる。


 カサ。


 そして、動きがあった。

 思ってた位置とは少しずれたが、草の内側で小柄な動物が動いた。


 兎! 普通に兎!


 しかも……おお、気付いてないのか? エイジから6メートルくらい、俺から8メートルくらいの三角形。これくらいの距離で気づいてないってあるのか。確かにまだ兎は草むらの内側に隠れるようになっているが、もう少し人間にあっさり気づいて逃げ出すものだと思ってた。あ……そーいやどっちもノーマルな人間では、ない、から?


 エイジがものすごくゆっくりとさらに身をかがめていき、ほとんど這うような姿勢になる。俺も従って、動くか動かないかという速度で身をかがめる。


 エイジがポケットからゆっくりとナイフを出し、カバーだけそっとポケットにしまった。

 一度俺を見る。俺も視線を合わせ、エイジが動く気らしいというのを受け取ってから、また兎を見る。


 ゆっくりとナイフを振りかぶって、ふた呼吸。


 エイジが投げた。



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