プロローグ
「ねえ、碧は人間以外の生物に人権って感じる?」
ルカが死ぬ四日前に、私にしてきた不思議な問い。
「…さあ…‟人„じゃないなら‟人権„はないんじゃないの?
私は少しイラついてみせながら適当に返した。いつもみたいに。
「いやだからさ。人権っていうか…そうじゃなくて尊厳とかそういう意味。」
お前が先に人権って言ったんだろ。…ってさすがに声には出さないけど。
めんどくさくなるから。
「昔の差別っていうか身分とかがすごかった時代から…こう、色々発展してきてさ、人の命は皆平等に尊い…それも建前みたいな世界だけど…って、いうとこまで来て、でも今ってまだ他の生き物の命は人間の命の二の次。…でみんな納得しちゃってるよね。」
いつからだろう。
初めて話した時は、確かに少し変わった子だなと思った。
それはそれで,惹きつけられるような感じがした。・・・別にウザいとか思わなかった。
「この時代に生きてる人はそれが限界っていうかその先のこと考えられないんだろうけど、もっと進んだ時代に生きてる人が今の時代を見たら…人間が他の動物を差別して、今みたいな扱いしてるの見たらさ、野蛮だな~ってうちらのこと思うんだろなあ。」
彼女は、ルカは、私がこのクラスに来た時周りに受け入れられてもらえるか不安だったとき、始めて打ち解けられたクラスメイトだった。これから彼女といわゆる親友になっていくんだろうかなんて淡い妄想にときめいたりすらしていた。
「うち時々思うんだけどさ。うちらが生きてる社会って人間の価値観だけで、人間にだけ都合よく作ってきたからさ。なんか…楽だけど虚しいっていうか…なんか悲しく感じるときがあるんだ。」
いつからだろう。
いつからか、彼女と一緒にいたくないと感じるようになった。
ルカは動物愛護の思想を持っていた。家は森の近くで、保健所から引き取った大量の犬と共に暮らしているらしい。始めは偉い…と尊敬していた。
ルカが周りから避けられていると知ったのは、暫くしてから気付いた。
始めはただ変わっているだけだと思っていた個性が,何となく不潔や嫌な感じを伴うになった。
最初はなんでもないと思っていた彼女の些細なことに苛立ちを覚えるようになった。
ずっと二人きりだったらこんな感情生まれなかったと思う。
クラスで彼女といると自分の立場が悪くなるから、自然に拒否反応がでるようになった気がする。
「なんか人間って自分たちのことだけ考えて社会を築いてきて・・・結果孤立してその中に閉じこもってるような気がしない?生き物たちの中でさ。」
私は普通なのに、彼女から離れて他の子たちと話せば,もっと魅力的な会話にいくらでもついていけるのに。
ルカの話はいっつも世の中がどうとか人間はこうあるべきとか…。こっちが身近な話題をふっても、すぐそういう話に切り替える。意識高い系…っていうんだろうか。
「自分たちのためだけに散々他の命を悲惨な目に合わせて…。それでもまだ生物たちの中で一番不満足な人間ってさ・・・やっぱり悲しいよね。間違ってると思う。」
彼女はいつも習慣のように私にくっついてきて話しかけてきた。他に話せる人、いないから。
私がもっと高いとこへいくのを邪魔する足枷に思えた。彼女と一緒にいると、他の子のとこにいけない。
ルカに話しかけられると、ただただうっとうしかった。
「…だったら何?」
いじめのきっかけなんて結局そんなものなのだろう。
小屋敷ルカが自殺したのは私のせいだ。