表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

心霊スポット巡りまでの道中

 琴音とたわいもないことで談笑し、琴音の温泉を断って浩次は自宅へと帰った。


浩次の家には唯一の家族である父が帰ってきていた。


「お帰り。浩次」


「ただいま」


 浩次は父の望みに反して柔道部に入らなかった後ろめたさからよそよそしい返しとなったのかもしれない。


「浩次、高校の柔道部はどうだった?」


 浩次の父は夕食の準備をしながら言った。


「まぁまぁかな」


「そうか。がんばれよ浩次。この世の中は結局のところ暴力とそれによる利害関係以外は信用できるものじゃないのだから」


「うん」


 浩次は父のことが好きであったが、事この思想に関しては同意することができなかった。


浩次の父は昔、子供にも母にも優しく接して、毎日仕事を遅くまでこなしている人であった。


しかし、ある日浩次の母が兄と一緒に失踪したんである。


理由は浮気であった。


曰く。浩次の父は優しすぎて刺激がなく、退屈で会ったそうである。


持ち出せる財産はすべて持ち出し――それは父が一生懸命働いて10年間貯めてきたすべての貯金で総額約700万円だったと、浩次にその時の話を振り返り話してくれた。


 そして浩次の母はまだ見つかっていない。


浩次の父はその日から変わってしまった。浩次がまだ5歳のことである。


浩次に対してはその日の前と変わらず優しかったが、体を鍛えることを強要した。そして浩次の父も体を鍛え、今ではボディービルダーのようにたくましくなっている。その鍛えた体で自分の部下をこき使い、今まで自分がやっていた部下の尻ぬぐいの仕事をしなくなり、必ず定時に帰るようになった。部下を厳しくしかりつけ、さぼりを一切させ無くなった。常に険しい顔をして、暴力をふるうそぶりで相手を委縮させることもするようになった。


父はそのおかげで、今までしてきた苦労がなくなり、生きやすくなったと言っていた。


しかし、浩次にとっては昔の、傷つきながらもみんなを支える父を尊敬していたのである。


 だから、父をそう変えてしまった暴力の権化である柔道が嫌いであった。特に柔道の武道(笑)という暴力を美化するようなその精神性が大嫌いであった。


「浩次、夕食だ。取りに来い」


 浩次の父はそう言って浩次に台所の料理を運ばせるように言った。


「ああ、ありがとう」


「今日はな、国産のステーキ肉で安いのがあったからステーキだぞ」


 そういって浩次の父は嬉しそうに笑った。


浩次がその盛られた皿を見ると400gはあるかという大きなステーの上にニンニクチップが乗り、その上から父の特性ステーキソースがかけてあった。そのそばにはニンジンの甘煮とフライドポテトが添えられていた。


「ステーキ以外にもご飯とスープを作ってあるからそれも運んでくれー」


「ああ、分かった」


 そうして家族二人の食事が始まった。


「学校はどうだ、浩次」


 ステーキを頬張りながら父親は浩次に話しかけた。


「ああ、中学の時と一緒で博人とよくつるんでいるよ」


「いや、そうじゃなくて浩次。勉強とかと、あといじめられてないかだよ」


「勉強は、まぁ、うん。って感じかな。いじめはないよ」


「ははは。まぁ勉強は期待してなかったさ。でもいじめられてないならよかったな」


「うん。……このステーキのソースおいしいね」


「それは最近俺が開発した、玉ねぎとリンゴソースだ。おいしいか。おいしいならほかの肉料理にも応用できそうだな」


「玉ねぎを炒めるぐらいなら手伝うよ」


「いや、この玉ねぎ炒めには俺の勘が必要だからいい。というかお前は学生なんだから家事とか心配せずに友達と遊んでろよ。青春は一度しかないから」


「うん、ありがとう」


「こんなことにいちいち感謝するなよ。親が子供の面倒を見るのは当たり前だから」


 そういって浩次の父親は髪を下ろし、下を向いた。


 それから二人の間に会話は途切れてしまったが、それは居心地の悪い沈黙ではなかった。


 食事をしながら今週の土曜日に心霊スポットに行くことを伝えなければならなかったのを思い出した。


「父さん。今週の土曜日にちょっと遠出するから昼と夜はご飯作らなくてもいいよ」


「どこに行くんだ」


「どこか、はちょっと良く分からないんだけど、部活で肝試しをすることになったんだ」


 それを聞いて浩次の父は驚いたような顔をする。


「そうか……浩次が誰かと遠出したことなんて……博人君ぐらいか?高校の柔道部は居心地がいいみたいだな」


 浩次の父は嬉しそうに笑った。


「まぁね……」


 父に柔道部に入っていると嘘をついていることを申し訳ないと感じた。


 それからは2人とも黙々と料理を食べた。


 夕食後、浩次は風呂に入り就寝の準備を終えていた。浩次の部屋はカギがあり、カーテンを閉め、その上から段ボールとガムテープを用いてしっかりと密封してある。


 部屋は実用性を追求され、布団、簡素な机、学校の教科書類が入れられた段ボール、服、があり、それともう一つあるだけであった。


 もう一つのものは人形である。大きさは80㎝ほどで、昔好きだった女の子によく似た人形であった。その人形だけは実用性を追求した他の物に比べ色があった。


 人形は短い青髪、やや釣り目で少し幼さがあるが、活発な印象を与える。そんな人形であった。


 人形との出会いは中学の帰り道、ゴミとして捨てられていたのを偶然拾った。それから人形を本を参考に洗い、綺麗にしてから人形を抱いて幸せであった時間を思い出したり、枕元に置いて眺め寝たりする。そうして寝ると幸せな時間の夢を見るのである。


 むろん気持ち悪がられる趣味であると自覚はあるので人に言うことは無い。


そんな時、携帯が鳴った。差出人は鈴木 博人。


 唯一の幸福な時間を邪魔するなよと思いつつも、何の話だろうと浩次は電話に出た。


「もしもし、浩次だけど、何」


「ああ、浩次か、あのさぁちょっと相談があるんだけど……」


「何だよ」


「今週の土曜日に怖い場所に行くやん」


「うん」


「それでさぁ。俺仮病使いたいんだよね」


「何言ってんだよ。そんなことしたら駄目だろう」


「いや、お前俺がそういうの苦手なの知ってるだろう。もし漏らしでもしたら俺の株は急降下だぞ」


「そう……」


「ちょっと!なにその無関心。俺がどうなってもいいのか」


「……だったら無理やりにでも断ればよかったじゃないか。何なら俺からみんなに知らせてもいいぞ」


「いや、それは。みんなからはぶられそうだし」


「仮病を使っても一緒じゃないのか?」


「いや、仮病だと一緒に行こうとしたけど残念ながらいけなかったってなるから全然違うぞ」


「その違いは良く分からんが、もし今回行かなくても部に所属している限りはまた行くことになるだろう。意味ないと思うんだけれど」


「まぁ。うん、そう、うーん。あ、そうだ」


 突如博人が何かを閃いたようで、声を上げた。


「なんだよ」


「逆転の発想をするんだ!」


「聞いてやるよ」


「どんな心霊スポットでも昼に行けば怖くない!」


 どこが逆転なのだろうか。


「そうか?トンネルとかは怖いと思うけど」


「そうだな、それを含めて考えると、つまり光があれば怖くない!」


「まぁ、そうだな」


「よっしゃ。お前土曜日にすごいもん用意してそこに行くこと自体を怖くなくさせるからな。楽しみにしておけ!」


「おう……」


 そうして電話は終了した。


さぁて、博人は何をしてくるのか……あいつは結構突発的に変なことをしでかすから予想できないな……。と浩次は思った。


けど、そういうときはたいてい笑えることをしてくるから結構楽しみでもあった。


まぁ、今はただ人形と触れ合っていよう。




 それから初日のようにに過ごしていると、すぐに土曜日がやってきた。


部活のみんなはかなり打ち解け、浩次は今日の小旅行を楽しみにしていた。


昨日の金曜日、佐々木 青葉は学校を休み、心霊スポットの下見に行ったらしい。


そこまでしなくてもいいだろうと浩次は思ったが、それだけオカルトに対する彼女の思いが強いことを再確認することになった。


 浩次は泉源寺 琴音とまず待ち合わせをし、その後みんなで駅に集まるということになっていた。


そのため浩次は泉源寺へとやってきた。


泉源寺はかなり広い寺院で、ほかの寺院のように厳かな施設ではなかった。


 寺院自体は山全体なのだそうであるが建物は小さな山の麓にこじんまりとあるだけで、その山々は多くの人が楽しめるようになっていた。


その山は大改造が施され、山全体が日本庭園となり、敷き詰められた石畳に沿って歩くと美しい水の流れる滝や川、そしてそこを悠々と泳ぎまわる錦鯉を見ることができる。


その木々、花々、そして岩や石が配置されそれらが調和して幻想的な風景を生み出している。夜になるとライトアップされ、昼とはまた異なる風景が楽しめる。


そして名前の由来である露天風呂がその一部に設置され、露天風呂からも美しい日本庭園を楽しむことができるようになっている。


入場料は3000円、風呂は600円となっているが、国内外を問わず多くの客でにぎわう場所である。


 浩次はしかし待ち合わせがあるのでその庭園には入らず、こじんまりした建物で琴音を待っていた。


「ごめんね浩次君。待った?」


 浩次は背後からそう声をかけられた。


現在の時刻は8時40分である。


「いえ今来たところですよ」


浩次は振り返りながらそう言った。


琴音の私服は白いYシャツに黒いジーパン。その上から薄い黒いコートを羽織っていた。着ている服は琴音モデルのような体形を際立たせていた。その美しさに見惚れてしまった。


「ずっと服を見ているけれど変かな?」


 琴音は恥ずかしそうにコートで服装を隠そうとした。


「いいや!全然。すごい似合ってますよ」


「そ、そうかな……」


「本当ですよ」


「そっか、この服始めてきたから分からなかったんだよね……」


「普段はそういう服を着ないんですか?」


「ええ、普段はこんなおしゃれな服を着ずに、動きやすい服ばっかり……って恥ずかしいからこの話は無し!……浩次君はいつもそんな服なの」


 琴音は顔を紅潮させて強引に話題を変えた。浩次の格好はいわゆる作業服である。


「ええ、まあ。そのこういう服以外は小さくて着れないんですよ……」


「あああ、なるほど」


 そういって琴音は駅に向かって歩き始めた。


浩次もそれの後を追った。


二人の話題は琴音の読んでいる本の話になった。


「ねぇ、浩次君……この世のすべての人間関係暴力と利害関係で説明できると思わないかい」


 琴音が髪をくるくると回しながら話し始めた。浩次は父親がよく話している話に酷似していると思った。


「……そうではないと信じていますよ」


 浩次はこの話をあまりしたくはなかった。


というのもその話を感情論以外で否定するすべがないからである。ゆえに『信じる』であって『確信する』ではないのである。無論その信じるを琴音は逃すことをしなかった。


「ふむ。『信じる』か。それは反論することができないという浩次君の気持ちの表れだね」


 フフフと今までで一番の笑顔を見せた。


「そうですよ」


「でも、だからと言って私の言っていることを全面的に同意するわけではないのだろう」


「まぁ、琴音先輩の話を聞いてないので、琴音さんの理論と僕の考えている理論が一緒かわかりませんが」


「それなら、まずは私が話そうか」


 琴音が自分の好きな分野の話をできる楽しさから声に歓喜をにじませていった。浩次は今までの会話で琴音がこういう哲学的な話が好きな人なのだろうかと感じ始めていた。


「お願いします」


「この世のすべての人間関係は暴力と利害関係によって定まる。しかし暴力はその行為によって利害関係を生み出し、その結果関係を構成するという点で暴力も利害関係の一部に過ぎないが、暴力はその行使が最も簡易でかつ強力ゆえに多くの国家や共同体に利用されているという点でその存在を利害関係より独立させるべきである。これはどのような共同体にも存在する絶対の法則である。それは純粋で愛情だけで構成されているように思われる恋人や家族のような存在にもそれを見ることができる。それを自覚しているかどうかを置いておいてね。一例として恋愛関係の男女を上げよう。むろん男性同士でも女性同士でもよいのではあるが。彼らを観察すればわかるが、お互いに、友人にその恋愛の対象を紹介し、それによって自己の地位を高めたりするにすぎず、お互いが一緒にいるだけで幸せだと言っている者たちが、一方が困窮した際に逃げていくこともよくあることで、結局その相手が好きなのではなく、その相手によって生まれる利害で判断して得るに過ぎないといえるじゃないだろうか。ということだ。浩次君がこの理論に当てはまらなそうな関係性を思いつくならそれを言ってみてくれ。その場では無理でもきっとその関係を暴力と利害関係で暴いて見せよう」


 長いしやや早口だ。


「……僕が考えている話と同じですね」


「……そうであろうな」


 琴音は浩次から目をそらし言った。


「わざわざ暴力を別枠にしたのだから、その暴力にも何か思い入れがあるのでしょう」


「ああ、そうだとも。それは人間関係を構築する際に暴力を用いるべきだということを示している。すなわち何か要求を通したいのであれば要求を認めないときに殴ればいい。離れ離れになりたくないのであれば監禁すればいい。まぁ、これは理想的状態、つまりその暴力を行っても自己に不利益がないという前提が必要で、これを現実に応用するのであれば色々と工夫が必要だけれどね。例えば学校という盾を用いて暴力行為をいじめと矮小化するとかね」


「反論をしようとすればすべての人間関係を調べてみなければ絶対にそうであるとは言えない点でしょうね。すなわち、すべてと言い切るのは言いすぎだと言えます。そこから人間関係に暴力を使うべきという理論も崩れます」


 浩次は目を地面に落としながら言った。


「……そうなのだが。そうではなく……」


「ええ、分かっています。この話はすべての人間関係が利害関係によって説明できるかが重要ではなく、人間関係なんてそんな希薄なものだという皮肉。そしてそんな世の中では暴力をふるうしかないという、これも皮肉でしょう」


「ああ、そうだとも」


 琴音は嬉しそうに笑った。


「どのような人間の本心も知ることができない。それは自分でさえあやふやなことだってある。そのためお互いが信頼しあっている関係を見出すことは絶対に不可能である。しかしそのうえで僕は利害関係を超えたつながりを持った人間関係があると信じたいです」


「なるほど。ロマンチストだね」


「いいでしょう。ロマンは大事ですよ。お互いがただその人であるがゆえに愛し合える。友人であるがゆえに助ける。そんな関係に憧れます」


「……それならば、ぜひとも私と浩次君の間もそのような関係になりたいな」


 琴音の声は少し震えていた。


「ええ!もちろんそんな友人になりたいですね」


 浩次は吐き出すように言った。


「ああ!もちろんそうだとも」


 2人はそうして変な笑いをして黙り込んだ。




 住宅街から駅のほうに来ると多くの人間が振り返るのを感じた。それは男女に問わずそうであり、琴音の美貌に惹かれているのであろう。正直不快であった。


 その不快感を感じながら歩くと駅が見えてきた。駅には青葉と麗奈がもうすでに駅にいた。駅にいて派手な格好をした男達に取り囲まれ話しかけられていた。明らかに2人は迷惑そうなのであるがそれを男性たちは気にしていなかった。


琴音はその中に割って入った。それに浩次も続いた。


「おお!君もかわいいね~」


 男たちは琴音を嬉しそうに歓迎した。しかし琴音はそれを無視して青葉と麗奈の手を掴みその場から離れようとした。


 そこにすかさず男のうちの1人が逃げようとした場所をふさいだ。


「まぁまぁ、ちょっと話だけでも聞いてくれよ~」


 男たちは3人を取り囲むようにして移動した。浩次は眼中にないようでその包囲からはじき出された。


 完全に敵意をむき出しにした顔をした琴音は男たちに「急いでるのでどいてください」と静かに、しかし嫌味のある口調で言った。


「俺たち東京からみんなで旅行できてさぁ、君たちみたいにかわいい女の子初めて見たんだよね、お茶だけでもいいから遊ぼうよ」


 男たちは3人の話を聞かず自分の都合を押し付けようとした。


 その様子を浩次は見ながらどうしようかと思案した。おそらくこのうちの一人でも足を掬い、コンクリートの地面に叩きつければ解決するだろうと思えた。彼らの服の外に出てる腕や足は細かったので浩次に力で勝てないことも察せられた。しかしそれをやった場合警察でも呼ばれれば自分が不利になる可能性もある。

 思案して一つ策閃いた。よって実行した。


 浩次は男たちのうちの一人の股間を優しく鷲掴みした。


「は、なんだお前!」


 掴まれた男は浩次の手を振り払いながら浩次を睨んだ。浩次はしかしひるまずほかの男の股間を掴んでみたり、ズボンのチャックを開けてみたりした。 


 無言でそうやっていると一人の男が浩次の腕を掴もうと手を出したので、その手を逆につかみ返した。


 手を掴まれた男は必死に押したり、引いたりしたがその力は浩次を振りほどくにはあまりにもか弱かった。そのうち勢いをつけて思いっきり体を引いたが手から逃れることは無かった。男は小さな声で「すいません」と言ったので浩次は手を離した。その様子を見ていたほかの男達もかなわないと思ったのかみんな退散していった。その顔は恥に震えていた。しかし勝てない相手からは逃げる。本能に忠実な人間たちである。


 浩次が3人を見ると琴音と麗奈は浩次の奇行に引いていたようであるが、青葉は2人と対照的に好意的な表情をした。


「キチガイのふりをして相手を退散させるなんて良く思いつきましたね!」


 浩次は別にキチガイのふりをしたつもりはなかったのだが、そうしておいたほうが無難だろうかと思い「まあね」と返事をした。


「ありがとうございます!」


 青葉は笑顔で言った。あの男たちのことが相当嫌になっていたようである。


 浩次が愛想笑いすると麗奈と琴音の2人も「ありがとう」と浩次に声をかけた。浩次はハハハと笑った。


 落ち着いたのでふと麗奈と青葉の服装に目が行った。麗奈はふわふわとした柔らかい曲線を持った服で、暖色を用いて麗奈の優しそうな風貌をよりいっそう際立たせていた。一方青葉の服装は黒を基調とした男性的な服装でその白い肌とのコントラストが異常なまでに際立っていた。


 3人の美しさに引き寄せられ、駅を行き来する人々は視線を3人に合わせ、その後浩次にも視線を向ける。それは少なくとも好意的な意味を持った視線ではないだろうなと思った。


「そういえば、琴音ちゃんはなんでそんな格好をしているのー。いつもは化粧しないのに化粧してるしー」


 麗奈が琴音に話しかけた。まるで周囲の視線を気にしていないようであった。それは常々その視線に晒されているからであろうか。


「いいじゃないか別に、私だってそういうことをすることもあるさ」


 琴音はめんどくさそうに対応した。


「普段はどんな格好してるんですか?」


 青葉が2人に尋ねた。


「普段はねー。ジャージとかの見た目は気にしない動きやすい服しか着ないんだよー」


「へぇ……それは気になりますね。どうしてなんですか?」


「……うるさいなぁ。なんで言わなきゃいけないんだ」


「えぇー、仲良しの私にも言えないのー」


 麗奈は琴音に抱き着いた。


「そうですよ!教えてください、先輩後輩で仲良くしたいんですよ」


 青葉も麗奈と同様に抱き着いた。浩次が思うに、青葉は麗奈に影響を受けてだんだん麗奈のようになっている気がする。


「あー、めんどくさいなぁ!友情を理由に人が嫌がっていることをするな!」


 琴音は言葉こそ嫌がっているが、2人を無理やり押し返さないところを見ると本気で嫌がっているようではないらしい。


 浩次は3人のそばにいると疎外感を感じるし、悪意のある視線に晒されるので距離を取ることにした。


 それは3人が浩次に遠慮して会話が膨らまないのではないかという危惧からでもあったが、自分がそれほど3人に影響を与えられるなんて思い上がりも甚だしいと自嘲した。


 博人はいつ来るのだろうか、約束の時間は9時30分である。現在9時。博人の家とこの駅までは大体30分。


 浩次は博人がいつも遅くまで寝ていることを考慮して一応電話をかけてみた。


「もしもし、博人か」


「ああ、そうだけど?」


 寝ぼけて少しイライラしているように感じた。


「お前今どこにいる?」


「どこって。家だけど?というか今まで寝てたし」


「……お前は今何時か解るか?」


「はぁ?8時ぐらいじゃ……はぁ!9時10分!」


 電話の後ろでばたばたと慌ただしい音が聞こえる。


「そうだよ。40分に電車来るからダッシュで来いよ」


「いやいやいやいや。無理だって。俺に持つスゲー量あるし。まだ着替えてないし」


 荷物……この前言ってた秘密兵器のことだろうな。


「……じゃぁ3人には先に行ってもらって俺がお前の家良くわ。荷物少しぐらい持ってやるよ」


「マジで!ありがとう!」


 そういって浩次が通話を切った。


 浩次は女子3人で楽しそうに会話しているところに「すいません」と声をかけた。


「んー何かな?」


 麗奈がそれに一番に反応した。


「あー、博人が遅れるそうなので、先に行っていてください。僕は博人を迎えに行くので」


 不思議なことであったが、3人はきょとんとした顔をした。


「……みんなで博人の家に行けばいいんじゃないですか?」


 青葉がそう言った。


「え、でも皆予定があるだろう」


「それはそうですけれど、皆で行きましょうよ」


「皆がそれでいいなら俺もそれでいいけど、とりあえず博人に電話して聞いてみます」


 そういうと麗奈も琴音も青葉に同意したので、博人にもう一度電話をし、了承を得たので4人で博人を迎えに行くこととなった。


 博人の家に到着すると、博人の母親が玄関から浩次らを招き入れた。すると博人は2階の博人の部屋から浩次だけに部屋に来てもらうように言った。


 それに従い浩次だけが博人の部屋に行くことになった。


 博人は部屋で上半身裸であった。どうやら着替えをしていたらしく、着替えをしながら浩次と会話をした。


「すまんすまん。いやーびっくりだね」


「俺は良いけどみんなにちゃんと謝れよ。それで荷物はどこ?」


「ああ、それ」


 博人は指を指した。そこには大きいリュックが二つあった。


「どっち?」


「どっちも」


「えぇ……、リュック二つもどうやって持っていくつもりだったんだよ……」


「そりゃ前に一つ、後ろに一つだよ」


 そういって手で前と後ろに弧を描いた。


「馬鹿じゃねぇの」


「そんな言い方はないだろう」


 二人で笑った。


「荷物って何だったんだよ」


「中を見ればわかるだろう」


「見ていいのか」


「いや、いいけど。むしろなんでだめだと思ったの」


「そりゃぁ、お前。ぎゅうぎゅうに詰め込んで一度開けるとまた閉めるのが大変ってときあるじゃねぇか」


「ああ、なるほど」


 浩次は博人に背を向け片方のリュックを開ける。そこには大量の懐中電灯が入っていた。


 種類も豊富で、一般的な手に持つもの、頭につけるもの(ヘッドライト)、両手で抱えてられるほど大きいものもあった。その大きいものが何なのかを聞こうと浩次は博人を見た。しかしそこにはそんな物のことなんてどうでもよくなる光景があった。


「お前、なにその恰好」


 浩次は爆笑しながら言った。


「これか?オムツ」


 そういった博人は全裸で、足に紙おむつを通そうとするところであった。


「なんでそんなもの履いてんの」


 浩次は笑いすぎて会話するだけでも苦しかった。


「これがあれば漏らしても安心だろ」


「何それ……介護用の奴?」


「そうそう、多いときも漏れ安心とどっちにしようか迷ったけど。漏れ安心のほうは女性用だからきついかなって思って」


「ああ、股がか」


「うん」


「あほだなぁ」


「はぁ!お前さあっちで漏らしてズボン茶色くするのとオムツ履くのだったらオムツ履くほうがましだろうが!」


 そういいながら博人は笑う。


「はいはい。悪かったよ、オムツって」


 浩次はまた爆笑した。


「この野郎……覚えてろ」


「いいから着替えろ」


 浩次はまたリュックに目を落とす。そこで両手で抱え無いと持てないほど大きな長方形の形をした物を見て、それが何なのか聞こうとしたのを思い出した。


「博人ー。このでっかい懐中電灯?って何」


「ああそれは投光器、工事現場とかで使うやつ?。多分そう。それは……100Wだったかな」


「ふーん」


 さっきのオムツに比べると少しインパクトがないなぁ。


「あんま乱暴に扱うなよ。それ一台で3万するんだから」


「3万!どこからそのお金を出したんだよ」


「お年玉」


 のどを鳴らす変な笑いが出た。


「……お前ってさぁ。やっぱり馬鹿だろ」


「失礼な!これから何度も怖いところに行くならそれぐらい出してもいいかなって思ってね」


「まぁ、人の金の使い方に口を出す気はないけどさぁ」


「もう出しとるやん」


「だって、頭おかしいし。おもろいからいいけど」


 雑談してると、博人は着替え終わった。


「よし。完璧だ!」


 その言葉を聞くと浩次はカバンを締め直し、博人に振り返った。博人の恰好は上から、黒いバイクのヘルメット、普通の服の上にごついベスト、革のズボン、それに黒い手袋をしていた。完全に不審者である。


「え、なにその恰好」


「これで悪霊の攻撃にも安心!頭はしっかりと保護してるし、服には鉄板が入っているし、手袋はナイフで切れないものを使用している。これに軍靴があれば大丈夫でしょ!」


「お前の頭が大丈夫じゃないな」


「なんだよー、冷たいなぁ」


「……お前の性格を考慮すると……もしかして悪霊を退治するためにナイフとか持ってないだろうな」


「ナイフなんて持つわけないやん」


「ならいいが……」


「ボウガンはまだ明けてないほうのカバンにあるけどな」


「おい!。その格好でボウガンなんて持ってたら確実に問題になるぞ!」


 浩次はもう一方のカバンを開けた。しかしそこには太くて長いロープと、救急用品が入っていただけであった。


 博人はその様子を見て爆笑していた。


「ジョークに決まってるじゃん」


「お前が言うと冗談じゃなくなるんだよ……」


「ハハハ、確かにな」


「このロープと救急用品後なんかいろいろ入ってるのは何に使うんだよ」


「ロープは逃走する際になんか使えるかなって。救急用品は悪霊の攻撃でけがした時用に持ってくんだよ」


「絶対使わねぇわ、これ」


 浩次は呆れた。


「ハハハ、じゃぁ行こうぜ」


 博人は浩次の肩を叩く。


「そうだな。じゃあ、俺はこの懐中電灯の方を持つよ」


 浩次はリュックを背負う。


「いいのか?そっちのほうが重いぞ」


「お前の貧弱な肉体では持てないだろ。しょうがないから持ってやるよ」


「いや、持てるけどな。まぁありがとう」


 博人はもう一方のリュックを背負った。


「これくらいで感謝する必要なんてないだろ」


「なんだよー。感謝は大事だぞ」


 博人は浩次を小突いた。


「お前の感謝なんて何の価値もないから」


「ひどいなぁ」


 二人は無駄話をしながら1階に降りる。1階では青葉と麗奈が肩を震わせ、琴音が呆れた顔をしていた。


「どうしたんですか?」


 博人が3人に尋ねる。


「どうしたって、その格好が完全に不審者だし、あとオムツがなんだのって話が2階から筒抜けで聞こえてきたんだよ」


 琴音がため息をつきながら諭した。


「博人君ってー、本当に怖いものが苦手なんだねー」


「これはリアクションとかが期待できますね!」


 麗奈と青葉は楽しそうに笑って言った。


 博人は「やめてくださいよー」と言いながらどことなく楽しそうであった。


「皆そろそろ出発しよう。電車になるべく早く乗ってあっちで遊ぶんだろう」


 琴音は皆を駅に促した。それは博人のいじりをこれ以上させないようにする意図があったのかもしれない。


 そういうわけで皆博人の家から駅に出発した。


 道中博人と青葉、麗奈の3人はとても楽しそうに笑っていた。その様子を見ながら浩次はふと考え事をしてしまった。


 それは考え事というよりも妬み、羨みであった。


 浩次が3人に先に行くように言ったのは自分の人生経験で、学校行事でグループに分かれて行動する際に浩次にはどうしようもない理由で遅れた時、ほかのメンバーが浩次を置いて行ってしまったことがあったからである。


 それゆえ待たせないほうがいいと判断したのであるが、それは間違いであったようである。なぜ間違えたのかを、考えればすぐにわかった。


 それは自分の存在が他人にとって取るに足らない存在であるということであり、一方博人の存在は周りの人間にとって大事な存在ということである。


 考えればわかることである。自分は自分の気持ちを伝えることも、他人の気持ちを理解することもできないのだから。彼らと自分の精神はあまりにも異なりすぎて、自分自身を知ることで理解することもできないし、自分の気持ちを伝えたところで理解できるものではない。周りからしたら理解できない人間、つまり怖い人間なのであろう。


 フフフと浩次は笑って見せた。笑うことで悲しい現実との心理的バランスを取ろうとしたのかもしれない。


「何か面白いことがあったのかい」


 そうして笑っていると隣の琴音に声をかけられた。


 今自分が笑った事をそのまま彼女に伝えたらどうなるだろうかと考えた。考えたうえで、一緒に笑うことはしないであろうなと思い、ごまかすことにした。


「ああ、3人が楽しそうでよかったと思ったんですよ」


「……もらい笑いみたいなものかな」


 琴音は指を顎に当てた。


「まぁ、そんな感じだと思います」


「まぁ、楽しめているならそれで構わないよ。そうだ連絡先を交換しないか」


 琴音はニコッと笑って言った。


「え。ええ、いいですけど」


 浩次は不思議に思いながら携帯を取り出し連絡先を交換した。


 琴音はフフンっと鼻を鳴らしながら「これで離れていても会話ができるね」と嬉しそうに言った。


 母親とも交換してないので、正真正銘、女性の連絡先は初めてである。


 浩次はその顔を見ながら、琴音はなぜこうも浩次を気にかけてくれるのであろうかと考えた。考えて分からないのでそれは頭の片隅に置いておくことにした。


 琴音と談笑していると駅に到着し、電車を用いて目的の駅に着いた。


 その駅は電車に乗っている時に段々山と田んぼしか見えなくなったことから分かっていたことであるがとんでもない田舎であった。


「おー、田舎だなぁ……」


 博人は感慨深そうにその風景を見ていた。


「そうねー」


 ここでその屋敷で肝試しするまでの時間5人が暇せずに時間を潰せるのかと疑問に思った。


「えーっと、とりあえず昼飯でも食べようか」


 博人がそう皆に言ったので、そういうことになった。


 問題はあまりに田舎過ぎて店を探すのも一苦労であることである。食堂を見つけるのに1時間以上かかった。


 しかも見つけた店は個人経営で常連とだけ商売するような店でいわゆる一見さんであるオカ研のみんなはいたたまれない雰囲気で昼飯を食べることになった。そのためにオカ研の雰囲気が悪くなったことは言うまでもない。


 そしてその雰囲気が一番つらい人間は当然その計画を立てた青葉である。


 その証拠に店を探し始めたときから少し不安そうであり、店を出るころには涙目になっていた。


 さらに肝試しをできるほど暗くなるまでにはまだ5時間以上あるという問題もまだ残っていた。


 青葉のために何かしてやれるならばしてやりたいが、それを浩次には思いつかなかった。


「えーっと、これからどうしようかー」


 麗奈は皆があてもなく歩いている状況を改善しようとみんなに言った。しかし、誰もそれに答えることはできなかった。


 そんな状態が続いた時、こんな田舎でもコンビニが見つかった。そこに行く以外手段がない彼らは皆でコンビニによることになった。


 コンビニで浩次が商品を選んでいると博人が浩次にこの状態をどうにかする相談を始めた。


「どうにかして暇を潰せることを探さないといけないけど、何かアイデアないかな?」


 浩次が商品棚を見なて考えていると、そこには季節外れであるが大きな水鉄砲があるのが分かった。


「この水鉄砲とあそこに売っているレインコートで遊ぶとかはどうかな」


「あー、いいねぇ……それなら習字半紙があったからそれを買ってそれを的にしてチーム戦とかやろうか」


「ん、そうだな。まぁ皆が賛成すればだけどな……女の子は化粧とかあるし。金は俺が出そうか?どうせいっぱい残ってるし」


「俺も普通に出すけどな……、まあ、3人分は2人で折半な」


「OK」


 博人はそのあとすぐに3人に今の話で出た遊びをするかどうかを尋ねた。皆暇に飽き飽きしていたので、だれも反対することなかったので、それらを購入した。さらにバケツも購入することにした。ついでにガムテープとタオルも。


 誰も化粧をしていないとは驚きである。 


 浩次は博人が皆に聞きに行っている間に「土にかえる風船」を見つけたのでそれを購入して、あとで皆を驚かせてやろうと思った。


 そういうわけで高校生が公園でレインコートを着て、首元をタオルで巻きそののちにガムテープで固定し内側に水が入らなくして、蛇口に集まり水鉄砲に水を入れる異様な光景が生まれた。


 5人なので、2-2に分け、審判1人でチーム戦をすることになった。最初の審判は浩次で、麗奈ー琴音ペアと、博人ー青葉ペアに分かれることになった。


 公園はコの字の平坦な場所とコの中は少し小高い山となっており木々が数本立っているという状態であった。


 浩次は両陣営が見えるようにコの縦棒部分を行き来することになり、各横棒には両陣営が拠点を構えることになった。


 ルールは先に相手のレインコートの腹部分に付けた半紙を先に破ったほうが勝ちというシンプルなものである。ルールを分かりやすくするため、自分の半紙が破れたとしても相手を攻撃できるものとした。


 浩次は手りゅう弾のようなものとして水風船を両陣営に6個ずつ与え、お互いのチームが準備できた合図を送った後に「スタート」と大きな声で言った。


 まず最初に動いたのは博人で、小高い山を登り相手陣営の背後を取り奇襲をかけようとした。戦争において奇襲は効果があるものなのだが前面にしか的がないルール上後ろから攻撃する意味がないように思えた――というより、各個撃破が可能になるのでむしろ悪手であるように思える。


 しかし博人もそれを理解できないほど馬鹿ではないであろうから……勝てなくてもそのほうが面白いと思ったのかもしれない。あるいは必勝法(それは観戦しながら思いついたものであるが)を思いついたものの相手を鑑みあえてそれを取らず皆を楽しませようとしたのかもしれない。


 必勝法とは、ルール上一人の半紙が破れなければ問題ないので、一人は半紙が破れても攻撃し、一方は常に逃げるというものである。


 身体能力的に博人が逃げ続ければ、相手の2人に捕まることはまずないのである。


 青葉はその博人の動きを見て、陣営に近いコの角で待機し相手を待ち伏せするように思えた。


 一方麗奈―琴音ペアは2人でコの字を背走した。確かにそれならば前が守られるので、待ち伏せの効果を無効化できる。できるがずるいと思った。


 まぁとにかく2人はガチで勝ちに行き、青葉の待ち伏せを無効化し、2人で集中砲火を食らわせ一瞬で青葉を倒した。それは半紙が透過し、レインコートの色が見えることで分かった。


 しかしその時2人は水風船の手りゅう弾に晒され、2人の半紙は濡れてしまった。


 どうやら浩次が思っていた背後を奇襲するつもりではなく、高地を取り地形的に優位に立って2人をしとめるつもりであったようである。そこから青葉の待ち伏せはおとりであったのだろうと推測された。


 浩次は「1年生ペアの勝ち!」と叫んだ。


 そういうと少し大げさなまで博人が喜びのリアクションを取って盛り上げた。


「へへーん!どうですか先輩!」


 青葉は先輩2人に対して楽しそうに言った。それに対して麗奈があんまり調子に乗るなー」と頭をわしゃわしゃし、琴音はフフフとほほ笑んでいた。


 その様子を見ながら浩次はどうやらみんな楽しめているようで安心したと思った。


 すると「おーい!浩次来いよー」と博人が浩次を呼ぶのでレインコートをふく用のタオルを持って4人に駆け寄った。


 次は麗奈が審判となりその遊びを続けた。


 皆、いろいろ作戦を練った。例えばあえて左に銃を持って半紙のある前面に銃口が向かないようにしたり、水風船手りゅう弾を土に埋めて即席の地雷を作ったりした。


 博人は「すでに濡れていれば無敵だ」と言って先に半紙を濡らし浩次の顔を狙って水をかけたので、浩次は水をバケツに溜めてぶっかけたりもした。


 そうこうしていると、日は沈みそろそろ肝試しにちょうどいい暗さになった。


 その時審判をしていた麗奈が「そろそろ行かない?」と言うと、青葉が「そうですね行きましょう!」と言った。その流れに浩次も琴音も同意した。


 しかし、博人だけは土壇場になって駄々をこねたので、青葉が手を掴み、引きずるようにその屋敷に向けて出発した。


 けれども、レインコートを着ていたとは言え、水浸しになり寒気を感じ、一度コンビニに戻り、カイロを買って体を温めながらもう一度出発した。



 その屋敷は方形の広い庭を持っていて、その中心に2階建ての屋敷が建っていた。屋敷自体はとても汚れていて、ところどころ外壁のコンクリートがはがれていた。


 ただ、それだけならばどこにでもある普通の廃墟である。この屋敷が異様なのは、すべて窓には木板が打ち付けられ、正面のドアには鉄の鎖と南京錠で封鎖されているところである。


「どうですか!雰囲気があるでしょう!」


 青葉は全員に向かって誇らしげに言った。


「帰りたくなってきちゃった……」


「何言ってるんです!これからが楽しみなのに!博人は本当に根性なしですねぇ」


「根性があるから怖いのにここまでついてきたとも考えられるだろ!」


「詭弁ですね!」


 青葉と博人がずうっとじゃれあっている。


「……どうやって入るんですか?」


 浩次は2人を無視して麗奈と琴音に話しかけた。


「ああ、それは見てれば分かるよ」


 琴音はそう言いながら南京錠をカチャカチャいじっている麗奈を指さした。


「緑川先輩の家ってもしかして鍵屋だったりするんですか?」


「さぁ?あまり家のことは話そうとしないから分かんない」


「ああ、そうなんですか」


 浩次と琴音は話が一区切りしたので、黙ってしまった。


「開いたよー」


 麗奈はそう言って4人を手招きした。


 こうしてオカ研一行はその館を探索することとなった。

いいサブタイトルが思いつかなかったです。募集します(笑)。

これで書き溜めがなくなってしまったので、2月20日を目指して続編を書きたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ