どうせ死ぬならひっそりと
両親が交通事故に巻き込まれた。二人とも、即死だったそうだ。その知らせを受けた時、俺は自室でオンラインゲームをしていた。電話で両親の死を告げられて真っ先に思ったことは、俺はこれからどう生きていけばいいのか、ということだった。
小さいときはこんなことになるなんて想像もしていなかった。勉強はそこそこできたし、スポーツだって得意だった。クラスの中でも、俺は人気者だった。しかし中学校、高校、と進むにつれて俺は堕落していった。ろくに努力もせずに育った俺は、徐々に色々なものを失っていき、高校を卒業するころにはもう俺の手元には何も残っていなかった。今あるものと言えば、小さい頃から集めていた漫画とゲーム機、それにパソコン。しかしこのどれもが、親に買い与えてもらったものだった。
働きもせずに親の金でオンラインゲームをする日々。漠然とした不安を常に抱きつつも、そんな現実から目を逸らすために更にオンラインゲームに没頭する。いつかなんとかなるという根拠のない希望を、いつまでも持っていた。
しかし、それもここまでのようだ。親族からは、あと一週間以内にこの家を出ていくように言われた。わずかだが金は用意してもらえるらしい。それでも、30にもなった俺は、もう生きていける気がしなかった。
死のう。
家を出ていけと言われてから三日ほど経った時、そう思った。このまま生きていてもしょうがない。いっそ死んで楽になろう。
しかし、ただ死ぬのでは迷惑がかかる。なるべくこの世界に迷惑をかけないよう、ひっそりと死ぬことにした。
まずは死に方を考えた。首吊り自殺はやめよう。首を吊る場所がない。樹海にでも行こうかと思ったが、自殺スポットで死ぬのはなんだか気が引けた。
飛び降り自殺は論外だ。死体の処理が面倒だろう。それにもし飛び降りた時に下に誰かいたら迷惑がかかるだろう。
色々と考えた結果、海で死ぬことにした。死体の処理も考えなくていいし、目立たなくて済むだろう。それに、人生最後に海に行くのも悪くない。太宰治みたいでかっこいいじゃないか。いや、あの人は失敗したんだったっか。
死ぬ前に、オンラインゲームのギルドメンバーにお別れをした。今日で引退すると伝えたら、みな悲しんでくれた。こいつらだけが、俺との別れを悲しんでくれる。まあ、中身が30のニートなんて知ったら話は別化もしれないが。
親族に言われた一週間が経った。別れ際に封筒を渡された。中には50万入っていた。思っていたよりも多かったので驚いた。まあ、向こうも少し罪悪感があるのだろう。
そして俺は家を出た。自殺をしに、海へ向かった。
この時の俺は、これから起こる出来事など知る由もなかった。
これは、これから死にゆく男の、30にして初めての、青春物語だ。