あの時僕は…。
サンタが最後にくれたものは、とてもとても大きな愛と………別れの言葉でした………。
人の姿も少なくなり、イルミネーションがやけに眩しい。
少しずつ降り積もっていく雪の中、デパートから駅へ続く歩道橋の上に僕は立っていた。
この時期になるとつい思い出してしまう。
「あれから3年か…。」
僕は深いため息をつく。
気を紛らわそうと煙草に火を付けようとした時、横から声がした。
「岩くん!まだいたのか!」
「山田さん…。ちょっと昔のことを思い出していて…。」
「そういえば岩くんの地元って3年前に大災害があったんだよな…。」
「えぇ…まぁ…。」
まだ火もつけてない煙草を、いつもの癖か携帯灰皿へと押し込む。
いつから煙草を吸うようになったのだろうか。
「…山田さんは兄弟いましたっけ?」
「うちはちょうど岩くんと歳の近いうるさい妹が1人と、今度中学を卒業する弟が1人いますよ。中学生の弟なんて両親も仲がいいと言うか…。」
「今度、弟の卒業祝いなんでまた出費が増えちゃうよ。」
頭を掻きながら笑う横顔に、どこか懐かしさと羨ましさを感じていた。
人の姿も少なくなり、イルミネーションがやけに眩しい。
少しずつ降り積もっていく雪の中、デパートから駅へ続く歩道橋の上に僕は立っていた。
この時期になるとつい思い出してしまう。
「あれから3年か…。」
僕は深いため息をつく。
気を紛らわそうと煙草に火を付けようとした時横から声がする。
「岩くん!まだいたのか!」
「山田さん…。ちょっと昔のことを思い出していて…。」
「そういえば岩くんの地元って3年前に大災害があったんだよな…。」
「えぇ…まぁ…。」
まだ火もつけてない煙草を、いつもの癖か携帯灰皿へと押し込む。
いつから煙草を吸うようになったのだろうか。
「…山田さんは兄弟いましたっけ?」
「うちはちょうど岩くんと歳の近いうるさい妹が1人と、今度中学を卒業する弟が1人いますよ。中学生の弟なんて両親も仲がいいと言うか…。」
「今度、弟の卒業祝いなんでまた出費が増えちゃうよ。」
頭を掻きながら笑う横顔に、どこか懐かしさと羨ましさを感じていた。
「それは楽しみですね。」
駅の方から21時を知らせる鐘がなった。
「そろそろ電車に乗りますので…行きますね。」
コーヒーのお礼を言うと足早に駅へと向かう。
3年経っても心の傷は治ることなくやはり今も現実が辛かった。
3年前、僕が住んでいた街は一夜にして瓦礫の街となった。
山に囲まれ、斜面に立つ家も多い街に震度7強の大地震が起こった。
雨も降っていたこともあり、土砂が崩れ、数多の家屋が滑り落ちてきた。
奇跡的に助かったのは、自分も含めて3~40人程度だったらしい。
その中に家族の姿は…誰1人としていなかった…。
最初は何が起こったのかわからなかった……。
街の中央部分にある学校に通ってた僕は、なかなか生徒会の仕事が終わらず、1人遅くまで残っていた。
学校には2~3人の教師しか残っていなかったこともあり、時間を忘れ仕事をしていると、いきなり携帯のアラームが鳴り響く…。
その途端、地響きと共に大きくゆれ、窓ガラスが割れだした。
地震は10秒程続き、収まったかと思うとまた小さく揺れる。
なんとか立ち上がり窓の方を見ると山の一部が既に崩れてきていた。
気が付くと僕は、携帯を手に取り妹に電話をかけていた。
携帯は繋がるものの出ない…。焦りと不安を大きくし何度も掛けたが、3回目からは圏外になってしまい繋がらなかった…。
立ち上がり、生徒会室から出ようとした時、また大きな揺れが起きた、窓の方に目をやると古い家屋がガラガラと崩れて行くのが見える。
「なんだよ…これ…クソッ…。」
2回目の大きな揺れが収まった瞬間、僕は身体が勝手に動き出した。窓に向かって走りグラウンドに飛び出すと、いつの間にか雨は止んでいたことに気付いた。
「とりあえず…どこか…。」
校舎から離れた所にある物置のような道具室を見つけ、扉の前に来るとまた大きく揺れ、後方にある古い校舎の一部が大きな音をたてて崩れた。
揺れも収まり、辺りを見渡すと暗闇に包まれ叫び声がする。
携帯の明かりを頼りに道具室に入ると、案の定ものが散乱していた。
体育で使うものしか置いてない道具室には、僅かばかりのものしか無く、とりあえず避難するには絶好の場所だった。
ここまで来れたのは不幸中の幸いだろう。
心臓の音が大きくなり何も考えられず、ただただ不安が募っていく中、道具室の隅で座っていることしか出来なかった。
あれから何時間たっただろうか…。
5回目の余震が起きたあたりから数えるのをやめた僕は、ただ震えながら朝を待った。
建物の隅にある小さな窓は既に割れており、一切の明かりも刺さないところを見ると、まだ夜中なのだろう。
泣きそうになるのをじっと堪えながら座り込んでいると、ふと携帯の存在を思い出した。
「そう言えば!携帯!」
ポケットから携帯を取り出し、画面を見ると 相変わらず圏外だったがかろうじて時間はわかる。
「まだ3時50分…。」
外の様子が気になるがまた余震が来るかと思うと、足がすくんで動けなかった。
「父さん…母さん…桜………雪乃……無事でいてくれ…。」
そう呟いた直後だった。
「………い…。」
「…ーい………れかー……………。」
微かに誰かの声が聞こえた。
空耳かと思い、耳を澄ましてみる。
「おー……誰かー……。」
聞こえた!
その瞬間、とっさに小屋から飛び出し叫んだ。
「おーい!!おーい!!」
微かに見えた小さな光は、校舎近くの正門で動いていた。
とっさに携帯を取り出しライトを付けて大きく振る。
相手もそれに気付いたのか、3回ほど点滅させ近づいてきた。
明かりが近づいて来るにつれて、声の正体が誰なのかわかった。
「畑中先生!ご無事でしたか!」
「なんで岩間ここに…?まぁいい、大丈夫か?どこもかしこもめちゃくちゃになってる…。怪我はないか?」
ひたいから汗を浮かべ、息を切らしながら来た人は、社会科教師の畑中先生だった。
「すまないが一緒に来てくれないか!?崩れた校舎の方に森崎先生が埋まってるんだ!手を貸してくれ!」
畑中先生と共に崩れた校舎の方に行くと、普段通ってるとは思えないほど悲惨な状況だった。
「そっち持ってくれ…。」
いくつかの大きな瓦礫をどかしていくと、中から声が聞こえてきた。
「ここです!助けてください!」
職員室があったであろう場所は、瓦礫に埋まってはいたものの、森崎先生は机の下に隠れ何とか潰されずに済んだようだ。
「せーのっ!」
机を引っ張り出すと、身を屈めた森崎先生が出てきた。
「ありがとうございます…。もうダメかと思いました…。」
泣きそうになっていた森崎先生は、グラウンドの安全な場所まで来ると言いながら座り込む。
気が付くと空には明るみがで初めている。時間は…。
「4時半…。」
先生方も落ち着き、これからどうするか声をかけられた時、数台のヘリコプターが飛んできた。
大きな音をたてて1台のヘリコプターがグラウンドに降りると、中から3人の自衛官が降りてきた。
「ご無事ですか?この街へ抜ける道は全て崩れて通れなくて…。取り急ぎ救助に来ました。さぁこちらへ」
言われた通りヘリコプターに乗り込む。するとまた大きな地震が起きた。
数秒で止んだ地震は、飛び立とうとする僕らに恐ろしい光景を見せた。
周りの山が一斉に崩れ出したのだ。
傾斜に建つ家を飲み込みながら、一気に下まで落ちた土砂は、学校をも飲み込みそうになる勢いだった。
「こんな事が…。」
自衛官も恐怖を感じていた。
その後、山を超えた隣町の病院へ僕らは運ばれた。
病院に着いてから、何が起こったのかようやくハッキリした。
街が震源地のなり震度7の地震が2回、6の地震が3回起きていたらしい…。
朝を迎え、自衛隊の救助作戦が始まった。
それから3日間、続々と運ばれてくる人たちの中に、家族の姿は無かった。
遠くから母方の祖母と祖父が迎えに来てくれて、ようやく安心できたのを覚えている。
その後、祖父母が家族の捜索や確認をしてくれたのだが、見つかったのは亡くなった両親だけだった。
妹の行方もわからず、恋人や友達もどうなったのかわからないまま僕は、祖父母の家に連れていかれた。
後から聞いた話だが、周りの街は家屋がいくつか崩れたもの、死者は出ず、僕がいた街だけが壊滅的な被害を受けたらしい。
結局、ただただ震え何も出来ずに、周りの大切な人達を失ってしまった事実だけが僕にのしかかってきた。
あの時小屋ではなく家に向かっていれば…。
あの時残らず早めに帰宅していれば…。
言い出すとキリがない。
そんな思いだけが、3年たった今でも、僕を苦しませていた。