第1話 突然
舞台は研究都市005。特に変わりのない街並みになっている。
この話の主人公は朝日 光。高校2年生です。
×××
世界ってのはつまらない。こんな事を俺が言うのは可笑しいし、身の程知らずかもしれない。
それでも言わせてもらおう。この世界はとてもつまらない。
別に友人がいないわけでもない、彼女……はいないが、好きな人はいる。
家族もいる、父子家庭で俺と父と妹で暮らしてる。
母がいないのを不満に思う時はあるが、それでも幸せだと思ってる。
じゃあ、何がつまらないかって?結局、友達も家族も、いたって毎日することは同じ、好きな人がいても俺に告白する勇気なんかない。だから意味がない。毎日が変わらないんだ。
また、つまらない明日を迎える。そんな事を考えながら眠るくらいならずっと今日のままでいい。
俺はそんな風に思ってた、実際に"永遠の今日"を体験するまでは。
×××
───10月26日7時20分。
俺はいつもの様に目覚め起き上がり、クローゼットから制服を取り出し着替えを済ませ、リビングへと向かう。
「おはよう」と、父と妹に言う。これがいつもだ。朝はいつも変わらない。
いつもの場所に座り、妹の鈴が用意した朝食を食べる。
そうこうして30分くらいすると中学1年の鈴は家を出る。それと同時に父も仕事へ向かう。
最後に家を出るのは俺、戸締りが習慣だ。
変わらない。つまらない。
───8時30分。学校に着く。クラスメイトの男子、本多 和幸が肩を組み話しかけてくる。
こいつは実はロボットなんじゃないか?と思うくらい毎朝……いいや、毎日同じ事をしている。
HRの時間になり担任が教卓に着く。いつもの無駄な長話。これも始めの頃は「長過ぎる」「よく喋る」などと思ったものだが、今となっては慣れた、つまらない。
そして、一限目が始まる前の休み時間。俺は教科書を忘れた、というより持ってきていないから隣のクラスに借りに行く。
そこには中学からの付き合いの女子、心音 日奈子がいる。
元気でクラスのムードメーカーみたいな奴な上に真面目。
よくできたやつだよ、言えば何でも出てくる。
もはや、どこかの猫型ロボット感覚だ。
───11時42分。そろそろ昼の時間だ。昼休みになってからだと購買が混む。だから俺はこの時間に購買へと足を運ぶ。
その時、俺はすれ違った女子生徒に目を奪われる。
俺の恋のお相手、霧島 雪柊。
運動もでき、勉強もでき、誰にでも優しい。
友達も多く、教師からの人望も厚い。
そもそも、住む世界が違うのだ。そう言い訳を毎日して俺は彼女に話しかけた事すらない。
会話をした事はあるがな。
購買に付き、パンを2つといちごオレを購入し教室へ戻る。
───12時50分。昼食の時間。
俺は一人屋上に行き、入口の反対側の影でひっそりとパンを口にする。
「また一人飯かよ」と、本多が来る。
お前まじでロボットじゃないだろうな?なんで毎日同じセリフで俺のとこに来るの?ロボじゃなくてもホモとか?やめて、怖い。
まぁ、そんな風に思ってもこいつといる時間は割と嫌いじゃない。
───13時25分。掃除の時間。
担任に頼まれ廊下に貼り出されたポスター類を剥がしていた。
画鋲を抜いたり、テープを剥がしたり、これはかなり面倒だ。
その時、紙で怪我をする。これがまた地味に痛い。最悪だ。
「朝日くん、大丈夫?」と霧島。前言撤回、最高だ。俺は単純なのかもしれない。
「保健室行こ。」と霧島に手を引かれる。もう死んでもいい。俺は単純だ。
───16時32分。帰りのHRが終わり帰る支度を済ませ、昇降口へ向かう。
いつも通り、そこには心音が待っている。
帰りが途中まで一緒なのと中学からの付き合いという事で俺らは高一の時から一緒に帰る様になった。
学校内では「あいつら出来てんじゃね?」「仲良いよね」などと、勝手に噂されている。
こいつは気にしていないのだろうか?全く耳に入ってないなんて事はないはずだ。
まさか俺の事……なんて思う程、俺は恋愛脳ではない。
いや、むしろ恋愛脳だったらもう少しは楽しいのかもしれんな。
俺は心音と分かれ、まっすぐに家へ向かう。
それにしても今日もあっという間だった。もう後は家に帰って風呂に入って飯を食ったら今日が終わる。
本当に一日とは呆気ない。だが、今日あの怪我をした時。
俺と霧島は保健室の担当が来るまで二人だった。もし、あの時少しでも勇気を出していれば何か変わったのかもしれない。
この世界が酷くつまらないのは他でもない、変わろうと、変えようとしない俺のせいだ。
どうせ、明日も何もなく一日が終わるのだったら。どうせなら俺は永遠に今日にいてもいいのではないか。
いや、むしろ今日が続けば何かを変えられる。そんな気もする。
そんなバカげた事を考えているとクラスメイトの倉西 吾良がいるのに気付く。
特に関わりもないから、隣を通り過ぎようとした時だった。
「今日をやり直したい、そう思いませんか?」
まるで俺の心を見透かしていたかの様に倉西は俺に話しかける。
「はっ、やり直す?バカバカしい。」
ブーメランだ。今直後までそう思っていた癖に、あまりに突拍子もない発言にそう返した。
「思うかどうか、の質問ですよ。」
俺にはこいつの目的がわからない。だが、これ以上話しかけられても面倒だと思った俺は
「あぁ、思うだけなら思うよ」
と、返す。そうすると倉西は「そうですか!」と言い、お近づきの印に、と握手をして帰って行った。本当に何がしたかったんだあいつは。
───17時21分。帰宅。
少し話し込み過ぎた様だ。いつもより帰りがかなり遅くなった。
いつも17時頃には帰宅している鈴が「おかえり、お兄ちゃん。遅かったね」と、エプロン姿で出迎えてくれた鈴。
制服にエプロン……中々萌える。
風呂が沸いているらしいから早めに入ってしまおう。
───19時03分。夕飯。
今日も鈴の手作り料理が並ぶ。家事全般ができる家庭的な妹に見える。
だが、運動音痴で頭もよくない。学生として見ると悩ましいとこだ。
───21時17分。自室。
夕飯も食べ終え。テレビを見ていたりする内に気がついたらもう9時だ。やる事もないし、もう寝るか。
俺は部屋の電気を消し、眠りにつく。
×××
───7時20分。
朝が来た。いつもと同じようにクローゼットから制服を出し着替えを済まし、俺はリビングへ。
リビングに入った俺は、ふと違和感の様なものを感じた。
昨日と同じ光景。同じ盛り付けられ方のした朝食、同じ会話をしている2人。
だだ、俺はそれを自分の勘違いだろう。そう思い込む。
30分ほど経つといつも通り鈴と父は家を出る。
そして、俺も戸締りをして学校へ向かう。
───8時30分。学校に着く。本多がやはり肩を組み話しかけてくる。だが、ここでも昨日と同じ内容、そんな違和感を覚えた。
教室に入ると黒板の日付も10月26日……。昨日のままだ。誰かが直し忘れたのだろう。
そんな風に思っていた。
HRで担任も10月26日だと言っていた。そして、同じ報告。
何より昨日と同じ時間割。
俺は確信した。間違いなくこれは。
───今日がまた来たのだ。