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扉の管理者『閑話集』  作者: グゴム
5章 開拓
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尻尾巡り

尻尾巡り


 犬獣族のロルはご機嫌だった。いつもは面倒がる砂国の屋敷の掃除を鼻歌交じりにこなしてしまうほどだ。その理由は先日、主人が新しい仲間を仕入れてくれたからなのだが、特に初めて自分より年下の女の子がやってきたからである。


「ロル姉様、次はどこを掃けばいいのでしょう」

「うん! 次はこっちの階段。レンちゃん、ついて来てー」

「はい」


 新入りである人魚族のレンが、とことことロルの後ろに付き従う。ロルは12歳でレンは11歳。二人とも背は小さいが、かろうじてロルの方が犬耳の分高く、新しい姉としての威厳を保っていた。


 ロルは先程から姉様と呼ばれるたびにウキウキだ。黒色の尻尾が常にバサバサと揺れている。レンはその犬尻尾をじっと見つめ、不思議そうに聞いてきた。


「他の姉様方もそうでしたけど、ロル姉様も尻尾を隠したりしないんですね」

「尻尾を隠す? なんで?」

「人魚族は尻尾を隠すのが当たり前です。出しているとはしたないので」


 ロルはその答えに首をかしげる。同じく人魚族であるテナの裸は何度か見たことあるが、尻尾などついていなかったからだ。


「テナ様に尻尾なんてなかったよ?」

「テナ様は大人だからです。人魚族は子供の時だけ尻尾が生えています」

「へぇー、レンちゃんもあるの?」

「えっと、はい」

「見せて見せて!」


 ロルが無邪気に顔を近づけると、レンは少し照れ臭そうに顔を赤くする。


「ロル姉様。先程も言いましたが、人魚族にとって尻尾を見せることははしたないことなので、こんな場所では……」

「大丈夫だって。どうせご主人様はいまリース姉様とお出掛け中だし。それにこれからレンちゃんもみんなと一緒にお風呂に入るから、その時にどうせ裸になるよ」

「そ、そうなのですね……わかりました」


 さらに顔を赤くしてしまうレンだったが、結局はロルの押しに負けて尻尾を見せることにした。スカートをめくり上げ、下着を少しずらすと、ぴょんと勢いよく尻尾が飛び出してきた。長さは肘から先の腕くらいでそれほどでもないが、水平方向に平べったい形をした鯨の尾びれのような尻尾だ。


「おぉー。レンちゃんの尻尾、尻尾っていうより魚の尾びれだね」

「はい。人魚族の子供はこの尻尾があるから、魚のように泳ぐのが得意なのです。でも大人になるにつれて短くなっていくので、いつまでも尻尾を使って泳いでいると子供扱いされちゃいます」

「へぇー。でもこの尻尾、可愛いよ!」

「あ、ありがとうございます。ロル姉様」


 レンがほっと息を吐く。実はロルや他の奴隷たちが持つ尻尾と自分の尻尾は随分と形が違うので、笑われないか少し心配していたのだ。しかしそれは杞憂だったようで、ロルが興味津々に続けてくる。


「ねえねえ、この尻尾を動かして泳ぐんだよね」

「えっと、はい。こんな感じで動かして泳ぎます」


 レンが尻尾――というよりは尾びれを上下にパタパタと扇ぐように動かしてみせる。


「おぉー。いいなぁ。私やリース姉様みたいな犬獣族は、あまり上手く動かせないんだ」

「そうなのですか」

「うん。無意識に動かしちゃってる時はあるんだけど、自分で動かそうとしたらこんな感じ」


 ロルは腰を動かして、なんとか尻尾は左右に振ってみせる。しかしこれは尻尾を振っているというよりはお尻を振っているだけだ。


「さっきはあんなに動いていたのに、ぜんぜん動かせないのですね。不思議」

「ね。でもこんなのは犬獣族だけみたいなの」

「へぇ、そうなのですか」

「うん。あ、ノーラ!」


 移動中に狐獣族のノーラを見つけ、ロルがたたっと走り出す。レンは慌ててその後ろに付き従った。突然呼び止められたノーラが狐耳をぴょこんと動かし、首をかしげる。


「ロル。どうかしたの?」

「ノーラの尻尾をさ。レンちゃんに見せてあげてよ」

「見せてあげるって……いつも見せてるけど」


 少し困ったように眉をひそめるノーラに、ロルがぶんぶんと首を横に振って言う。


「そうじゃなくて、どれくらい動かせるかを見せあげて欲しいの。レンちゃんといま尻尾の話をしてて」

「よくわからないけど、こう?」


 ノーラは箒を手にしたまま後ろを向き、尻尾を動かせて見せた。灰色のもふもふとした狐尻尾が上下左右にバサバサと動く。箒のように広がった狐尻尾の自在な動きに、レンが目を丸くする。


「おぉ。凄いです!」

「ノーラの尻尾はとっても大きくて、毛並みも綺麗なの。好きに動かせるみたいだし、うらやましいなぁ」

「ありがとうロル。でも私よりもナスタ姉様の方が器用に動かせるとおもうよ」

「そうだ! ナスタ姉様がいたねー。レンちゃん、次は倉庫に行くよ。今の時間、ナスタ姉様はきっとそこにいる」

「えっと。ロル姉様、階段の掃除は……?」

「大丈夫。別にやらなくても綺麗だから!」


 ロルはそう言うと、レンの手を握って玄関へと向かい走りだした。初日からサボりを強要されたレンが助けを求めるようにノーラの方を見たが、彼女は苦笑いしながら手を振るだけだった。



「ナスタ姉様!」

「わっ。ロ、ロルちゃん? どうしたの?」


 倉庫で今日の取引のための荷を確認していた猫獣族のナスタが、突然現れロルとレンに大きな瞳を丸くする。驚いた彼女に構わず、ロルがレンの腕を引きながら用件を告げた。


「いまね。レンちゃんにみんなの尻尾を見せて回ってるの」

「尻尾? えっと、そうなんだ。でも尻尾って別にみんな隠してないと思うけど」

「レンちゃんは隠してたの。人魚族って、子供の時だけ尻尾があるんだって」

「へぇ。知らなかった」

「うん。ほらレンちゃん。ナスタ姉様にも見せてあげて」

「は、はい」


 レンは先ほどより手際よく下着をずらし、尻尾を取り出してパタパタと上下に扇ぐように動かしてみせた。


「へぇ。魚の尾みたいな形なんだね。とっても可愛い」

「あ、ありがとうございます。ナスタ姉様」

「でもね姉様。レンちゃんの尻尾、あまり器用に動かせないみたいなの。それでナスタ姉様の猫尻尾の凄さを教えてあげようと思って」

「別にすごくもなんともないと思うけど」


 そう言って苦笑いするナスタだったが、ロルは構わずお願いする。


「いいからナスタ姉様。お願い何かやって見せて!」

「はいはい。わかりましたよー。そうね、それじゃあレンちゃん。その箒を貸してくれる?」

「はい……わぁ」


 レンが差し出した箒を、ナスタは手ではなく尻尾で受け取った。細長い尻尾が柄にくるりと巻きつくと、そのまま箒を持ち上げしまう。


「よいしょっと……ちょっとぎりぎりだけど、どう?」


 ナスタは猫尻尾で箒を掴み上げたまま、腰に手を当てて胸を張った。まるで手のように器用な尻尾さばきに、ロルとレンは興奮した様子で拍手を送る。


「さすがはナスタ姉様です!」

「凄いです!」

「ありがとう。でもロルちゃん。前に説明したと思うけど、猫獣族にとって尻尾を使って何かすることはとっても行儀が悪い行為だから、他の猫獣族にはお願いしちゃダメだよ。レンちゃんも覚えておいて」

「はい。わかりました」

「はーい。でもナスタ姉様の尻尾、本当に器用で凄いなぁ」


 ウットリとした様子でナスタの尻尾を見つめるロル。あまり尻尾を上手く動かせない彼女にとって、物を持ち上げることさえできてしまう猫獣族の尻尾は憧れの対象だった。やがて箒を猫尻尾から手放してレンに返すと、ナスタが言ってくる。


「みんなの尻尾を見て回ってるっていってたけど、他の人の尻尾は見せてもらったの?」

「えっと。後はリース姉様とサラ姉様だけど、リース姉様のは私と同じだから、次はサラ姉様のところかなあ」

「そっか。サラさんなら今は食堂の掃除をしてると思うよ」

「うん。行ってみます! ほら、レンちゃん」

「あ、はい。ナスタ姉様、ありがとございました」

「はい。行ってらっしゃい」


 両手とともに振られる細長い猫尻尾に見送られ、二人は倉庫を後にした。



「サラ姉様! お願いがあります」

「し、失礼します」

「あらぁ。ロルちゃん、レンちゃん。どうしたのぉ」


 食堂のテーブルを拭いていたサラがきょとんとした様子で二人を迎えた。同じ部屋には、レンと同じ新入りである兎獣族のシュリもいた。


「あ、シュリ姉様もいいところに。いまレンちゃんにみんなの尻尾を見せて回ってるの。はいレンちゃん、尻尾フリフリ!」

「は、はい!」


 もうどうにでもなれといった様子で、勢いよく尻尾を取り出し上下にブンブンと動かすレン。一生懸命に魚尻尾を振るその姿に、サラとシュリから思わず拍手が起きる。


「わぁ。可愛い尻尾ねぇ」

「はい。とっても」

「ありがとうございます」


 レンがぺこりと頭を下げて礼をすると、ロルが入れ替わりで進み出る。


「それでね、サラ姉様の尻尾も見せて欲しいんだ」

「それはいいけど私のはいつも出してるけど?」


 そう言ってサラは後ろを向き、垂れ下がる尻尾を小さく振って見せる。真っ白な牛尻尾は、ナスタのそれにも似ているが少し太めで、先っぽだけふさふさとした長毛に覆われていた。


「うん。でもサラ姉様は尻尾、動かせるんだよね。どんな風に動かせるのかも見せてもらってるんだ」

「そうねぇ。物を叩くくらいならできるけど、毛が痛んじゃうからあまりしたくないわねぇ」


 そう言ってテーブルの脚をペシペシと叩いてみせるサラの姿に、ロルとレン、それに隣にいるシュリがおぉッと声を上げた。そのシュリの顔を見て、サラが思いついたように言う。


「そういえばシュリは兎獣人だけど、尻尾はないのぉ?」

「あ、えっと。あるにはあるのですが。皆さんのように服の外に出すほど長くないので」

「え、それじゃあ短いけどあるんだ。シュリ姉様、見せて見せて!」


 ロルがぐいぐい近づくと、シュリが顔を赤らめる。


「えっと、ここで見せるのはちょっと……全部脱がないといけないし」

「大丈夫。お尻くらい、どうせ夜にはみんなでお風呂に入るし!」

「え、あの。その、それじゃあ……」


 無理矢理脱がせようとしてくるロルに根負けし、シュリは恥ずかしそうにうつむきながらスカートをめくり、下着を降ろす。すると大きなお尻の上にあたりに、ちょこんと乗っかるこぶし大の尻尾が、白い毛に覆われて生えていた。


「きゃー! シュリ姉様、とっても可愛い尻尾!」

「ほんとぉ。ちっちゃくて可愛いわぁ」

「素敵です!」

「そ、そうですか。ありがとうございます」


 その後もワイワイと騒がしく尻尾の話題で盛り上がるロル達だったが、その楽しげな雰囲気に冷たい声が水を差した。


「ロル、レン。遊んでいるようですが、仕事は終わったのですか?」

「あっ……」

「ひぇ……」


 二人が振り向くと、そこには腕組みをして立つリースの姿があった。顔こそ無表情だが、奥に見える彼女の尻尾はパンパンに毛が逆立ち、ピンと後ろに伸びていた。その尻尾を見て、ロルがレンに耳打ちする。


「……あんな風にリース姉様の尻尾が逆立っている時は、超怒ってる証拠だよ」

「え、えっと。ロル姉様。どうすれば……」

「任せて……こういう時は――」


 怯えるレンの手を取ると、ロルは脱兎のごとく走り出す。


「今すぐ、掃除の続きをやってきます! ごめんなさい!」

「ご、ごめんなさい!」


 あっという間に部屋から飛び出していった二人の姿に毒気を抜かれたリースは、はぁっとため息をつくしかできなかった。



5章終了時点


年齢

リョウ(20)>アーシュ(19)>ラピス(19)>サラ(18)>シュリ(18)>リース(17)> ナスタ(16)>アン(16)>ノーラ(13)>ロル(12)>レン(11)


アーシュ(175)>ラピス(174)>リョウ(172)>シュリ(169)>リース(167)>サラ(165)>ナスタ(160)>ノーラ(154)>アン(151)>ロル(146)>レン(145)


サラ(H)>ラピス(F)>リース(F)>ナスタ(E)>シュリ(E)>ノーラ(D)>ロル(C)>アン(B)>アーシュ(B)>レン(A)

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