この世界って不老がデフォなの?
「ゆま。おやつが出来たようだ。お母さんがお茶の用意をしているよ」
「当然俺の分もあるよな、隆盛」
「失せろ」
微笑を携えてやってきたおじいちゃんは、間髪入れずに先生の要求を却下した。
…あれ?先生今、おじいちゃんのこと『隆盛』って…。
…もしかして、おじいちゃんが惣火の猛将?
「照れるなよなー、隆盛。二十年来の付き合いだろー?」
「腐れ縁だ」
「それにしてもゆまちゃんすごいな。怯えてたのに全然獣化しなかったし。鋼の理性でも持ってない限り、ゆまちゃんは旧家から生まれた初めての獣人じゃない人間じゃねぇの?」
「口調を正せ。貴様のソレはゆまの教育に悪い」
「へーへー」
そしてそして、会話を聞く限りどうやらおじいちゃんと先生は仲良しさんらしい。
口調は、一応先生だからということで取り繕っていただけで今のが素なんだろう。
私と郡くんは子供のように戯れている二人を、方や椅子に座って、方や膝の上で丸まって、お母さんが呼びに来てくれるまでずっと眺めていた。
***
おやつを食べつつ話を聞いてみると、おじいちゃんはどうも若かりし日から兵として大活躍していて、今でも向かうところ敵なしと言われている位すっごく強い兵士なんだとか。
何故だか話している先生の方が誇らしげな顔をしていて、照れ隠しだろうか。おじいちゃんは苦い顔つきをして先生の頭を軽く叩いていた。先生どんまい。
「やかましい。貴様はいつも話を盛りすぎる」
「えー。全くの嘘ってわけでもないだろ?」
「軽口をたたくなと言っている」
口をとがらせた先生を見て、おじいちゃんは気持ち悪い物を見たかのようなどんびきした目をしていた。…先生おじいちゃんと絡み始めてからほんっと軽いな。
「でも隆盛が若作りジジイなのもソレが絡んでるって思うとなんだかなー…」
「若作りなのは貴様もだろう」
「俺は若作りなんじゃなくて若々しいんですぅー」
「この能天気がっ…」
こめかみをぴくぴくさせて、口の端っこもひきつらせてと、おじいちゃんはかなりご機嫌斜めなご様子。おじいちゃんをここまで怒らせるなんてすごいなぁと思いながら、私はぽかんとしている郡くんの頭をなでなでしていた。人の姿に戻っていてもアニマルセラピー的な効果は健在のようだ。
どうして撫でられているのかわからずにきょとんとしている郡くんも抜群に可愛かった。
その間も先生はぺらぺらと色んなことを話していた。
どうやら、先生とおじいちゃんは同期で、どちらも魔獣討伐隊として前線で活躍していたそうだ。
おばあちゃんはおじいちゃんたちより一つ年上で同期ではなかったようなのだが、獣人でもないのに討伐隊に入隊した変わり者という噂は入隊したての兵士たちの間では有名であったとか。あと、毛並みを見ると撫でずにはいられない性分だったとか。それを聞いてなぜか一気に親近感が湧いた。うん。もふもふって可愛いよね。全力で同意したい。
それと、武勇に関して言えば大型の獣の出で立ちをした獣人部隊を軽々追い抜いて切り込み隊長を務めるくらい勇ましい人であったとか。
「御義母様、昔は凄い方でいらしたのねぇ」
のんびりと告げるだけで済ませてしまったお母さんこそ、色んな意味で凄いと思った。
「そもそも貴様はこんなところで油を売っていないで嫁の一人でも捕まえてきたらどうなんだ」
「その俺をわざわざ引っ張ってきたのが隆盛だろー?まぁあのまま家に居てもさっさと身を固めろってジジババ共がうるさかったから別にいいんだけどさー」
「あらあら。御義父様と崔さんは相変わらず仲良しねぇ」
おっとりと微笑むお母さんは安定の天然さんでした。
「そういえば、御義父様も崔さんも、今年で御幾つになられるのだったかしら」
「うーん…。大体四十の半ばあたりだった気がするな!」
…快活に笑う先生も、鬱陶しそうな目で先生を見ているおじいちゃんも、おっとりと笑っているお母さんも、どう見たって二十代にしか見えないのですが、それは。