うっかり原作ブレイク?
なんだかわからない内に郡くんがウチの一員になっていた。
いや、預かるだけって言ってたけど。それと、「惣火郡」の名前についてだけど、ちょっと思い出せてきた部分があった。
赤みがかった茶色の髪に翡翠色の瞳という特徴的な容姿。「惣火」の本家の先祖返り。
…うん。荒唐無稽だと思われること請け合いなんだけどさ。
この子、もしかして前世の私がプレイしてた乙女ゲームに出てたキャラクターなんじゃなかろうか。
ちなみに、ゲームの題名は「貴方には私だけ… ~どんな姿でも愛してる~」。全年齢仕様だったせいかラブ要素足りなスギィ!と全国の乙女たちをギリギリさせたあの別名「無糖」とも呼ばれたゲームである。ちなみに、そのゲームをプレイしていた私自身がどんな人生を送っていたのかなんかに関しては記憶がぼやけまくってわからなかったりする。まあ、知ったところで何が変わるんだって話なわけだが。
確か学園系ゲームで、大まかには学園の中に紛れている獣人(=攻略対象)と仲良くなっていくというシナリオだったような気がする。差別や偏見の目に苦しんでいる攻略対象者たちの心をヒロインが開かせていって、最後には駆け落ちしていたような…。
…ん?…駆け落ち?
ちょっと待て。しかも駆け落ちが唯一のハッピーエンドだったぞ、確か。
そんなのってアリなのか。しかも詳しくは覚えてないけどトゥルーエンドは誰も救われやしないトラウマもののとんでもない内容だった気がする。おい、制作陣は一体何がしたかったんだ。
…ともかく、惣火郡はそのゲームに出ていた「惣火郡」に似ている気がする。
名前も同じだし、先祖返りうんたらとかたぶん言ってたし。配色一緒だしなんとなーくゲームの「惣火郡」の面影あるような気がするし…。
…うん。でも、決定打には欠けるし、…一先ず保留か。
それに、記憶にあるシナリオを利用して何かをしようにもあのゲームのシナリオは基本的にヒロインと攻略対象の甘酸っぱいいちゃいちゃと心を開いた攻略対象による悲しい過去語りで構成されてたからなにか行動を起こそうにも特に役に立たない感じのものが多かったし。
いや、攻略キャラ落としたいってだけならチャラい教師さんが見た目にそぐわず甘えたがりだったり不良キャラが意外と押せ押せでいったらすぐに絆されてくれたりとかって情報は結構助かるモンになったりするのかもしれないが。
…あれ?そういえば惣火郡って幼少期から本家で差別受け続けながら成長してて、常に居心地の悪い毎日を過ごしてたって…。
…やめよう。ここがほんとに乙女ゲームの世界だと確信できたわけでもないし。もしかしたら郡くんがたまたま似てるだけかもしれないし。あと二、三人そっくりさんに遭遇したら考えようそうしよう。
「ゆまちゃん!」
とたとたと足音が聞こえた。どうやら私をわざわざ呼びに来てくれたらしい。
きらきらのお目目にふくふくほっぺ。早く早くと急かすように引かれる腕。
やばい。この子やっぱ天使だわ。
「ゆまちゃんのおかーさんがおやつつくってくれたって!」
「きゃー!ゆまもいそぐ!!」
「きょうそうする?」
「んーん。いっしょにいく!」
「えへへ」
ちいさな「お手て」と称されそうな手同士を繋いで、転ばないようにちょっとだけ抑え気味に走る。
「おかーさーん!きょうのおやつなぁにー?」
「ひ・み・つ。あとで教えてあげるから、早く手を洗ってらっしゃい」
「はーい」
まぁいっか。
お母さん、今日は何作ってくれたんだろう。