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もふもふ!【改訂版】  作者: min
高校編(二年生)
33/39

不穏な足音

「ちょっと聞いてよゆま!」


 そう言って飛び込んできたのは春日井くんだった。

 うーん…。生徒会室はお悩み相談室ではないんだけどね?

 名目上設置した私書箱の所為だろうか。「直訴ーッ!!」と叫びながら春日井くんが特攻してきた日のことが昨日のように思い浮か


「ちょっと聞いてる?!」

「すみません。少し考え事を」

「もー」


 そういってぐしゃぐしゃっと春日井くんは髪を掻き回した。むっと尖らせた口にちょっと女子力を感じてしまう。爽やかで運動神経のよさそうな顔立ちなのに。


「ほんっと意味わかんねーの!魔法科のオヒメサマ!!」


 そう言って春日井くんは、だんっ、と机をたたいた。あああああ、今そこでは御上土くんがこのまえ独立二家の二人が壊してしまった品々の報告の書類作ってるんですけどおおおおっ!?

 幸いある程度予測していたのか、御上土くんは春日井くんが来た時点でペン類を片付けていたおかげで被害はゼロだった。ほんっとごめん御上土くん。さすが会長です。後光が射して見えます。だからもう「元はと言えばおまえが原因だ」とか言って書類の作り直しを押し付けたりしないでくださいね?

 それはともかくとして。


「まぁーた、転校生チャン?」

「そう!」


 郡の溜息を吐きながらの問いかけに、春日井くんは力強く頷いた。ああ、やはりまたあの人がなにかやらかしたのか…。


 噂の「魔法科のオヒメサマ」―転校生の漸納レナさんは、話を聞く限りでは選民思想の塊のような方らしいのです。


 曰く、教会の教義を正確に答えられなかった生徒を糾弾し、いじめの対象にしたとか。

 自らの親が教会の最高権力者「教父」直々の命で理事長へと就任したことを(かさ)に着て全ての生徒に自分への絶対服従を強いているだとか。

 あと、見目の良い男を侍らせ、近づく女子生徒は誰一人例外なく排除しているだとか。

 「オヒメサマ」という綽名も傍若無人なその態度から皮肉ったものらしく、直接の影響はあまり受けない普通科の生徒の間ではもっぱらその呼び名が使われているそうです。


『相変わらず女子いじめてるし、やたら媚びてきて気持ち悪いし。それだけでも面倒なのに、最近惣火や御上土のことやけに聞いてくるんだよね。惣火はともかく御上土のことなんか知らねーよ、むしろ生徒会室(ここ)に来るようになって初めて会ったよまじなんなのアイツ!』


 喋っている途中で犬の姿になってしまった春日井くんをぎゅっと抱きしめて頭をなでなで。きゅんきゅん鼻を鳴らしながらぐりぐりと頭を押し付けられるとちょっとよろけそうになったけど、大丈夫。私、負けない。

 駆け込み初日には勢いに負けてひっくりかえって、みんなに大分心配させちゃったからね…。今回は大丈夫。事前に予測してちゃんと踏ん張ってたから。


「…センパイ。少しは手加減してあげないと、ゆまセンパイ潰れそうですけど」

「なぁお」


 ここで、独立二家の二人―もといモノクロコンビが助け船を出してくれた。


 この二人、実は元々憎みあったり嫌いあったりしていたわけでなく、どうにもできないフラストレーションをぶつける相手として色々と丁度良かったために争っていた節が多かったようで。

そのため、問題の解決と共に仲もそれなりに改善し、今では白猫状態の光井くんを巧闇くんが抱き上げている光景も、さほど珍しいものではなくなった。

 まあ、あくまでも生徒会室では(・・・・・・)、の話なのだが。

 長年争い続けてきた二家がいきなり仲良くするのを見せると、色々と勘ぐってしまう人も多いし、ね。全く、世とは儘ならぬものだ。


「まあストレス溜まるのは仕方ないから甘やかして貰ってるのは別にスルーするけど。あのオヒメサマまたなんかでかいことしちゃったワケ?」


 折角仲良くなれた二人が生徒会室外では身動きが取れない事態に陥っている、という現状に内心溜息を吐き出していると、いつの間にか会話が進んでいた。幸いなことになでなでは続行していたので春日井くんも大人しくきゅんきゅん鳴きながら待っててくれたんだけどね。


『あー…。言わなきゃダメ?』

「当然だろ。何のために入室を許したと思ってるんだ」

『わかってるけどさぁ…』

「なんだ。言いにくいことなのか?」

『センセ。えっと、…あー』


 御上土くんの射抜くような視線にもごもごと言葉を濁していた春日井くんは、東雷先生の心配するような目を受けて気まずそうに目を泳がし、口を閉じたり開いたり、といった行動をとった。


『割と、大事(おおごと)になんじゃないかと思うんだけど。―教会の三家、オトされたよ』


 それは、名ばかりの「姫」であった彼女が、暴君として君臨しだす少し前の話だった。


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