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もふもふ!【改訂版】  作者: min
高校編(二年生)
32/39

生徒会=治安部隊

「やあ、よく来てくれたね」

 そう言ってにっこりと微笑んでくれたのは、港先生だった。


***


 先生との話の翌日、私は生徒会室前で郡と待ち合わせることにし、一緒に中へと入ることにした。

 生徒会入りの件だが、郡とは最近お互いに時間的なずれがありすれ違い続けていたから、これからは仕事といえど傍にいられる時間が増えることを喜びあったりもしていた。

 私、最近まで先生と引きこもって、二人で研究三昧だったからね。

 充実はしてたけど折角郡と一緒に通えてるのに家以外では顔を合わせることさえ稀だったから寂しさを感じていたのも事実。理事長交代も結果オーライ、と言ったところだろうか。なんにせよ、信頼できる幼馴染との時間が増えることはいいことだ。寂しがっている先生には悪いけれど、ね。


 お昼休みになり先生の指示通りに生徒会室内へとお邪魔すると、そこにはなぜか港先生しかいなかった。これには私たちより少し後に来た御上土くんも眉をひそめていた。


「おい。俺たちは引継ぎで来たんだろうが。先代はどうした」

「私たちもできれば丁寧に引き継ぎをしたかったんだけどね。実は今も活動中なんだ」


 ひょいと肩をすくめた先生に、郡も訝しげな顔をした。


「どういうことなんですか?」

「まあ、道すがら話すよ」


 先生は苦笑しながら、私たちを中庭へ向かうよう、促した。


「君たちも事前に聞いていて知っているように、生徒会は元々治安維持を目的とした少数精鋭の部隊だったんだよ。生徒同士の小競り合いの仲裁に入るためのね」

「えっと、…わざわざそのお話を出している、ということは、先代のみなさんは今現在その仲裁の真っ最中、ということなのですか?」

「その通り。まあ、僕たちが対する相手については、固定されているといっても過言ではないんだけれどね」


 どごおぉおんっ!!


 先生が疲れたような苦笑めいた笑みを浮かべた瞬間、爆発音が響いた。


「…いいかげん、おろしてやりたいよ」


 ぼそりと呟いた先生からは、真黒なオーラが漂っていた。


 真黒な生徒と真っ白な生徒。

 まるで闇と光のような対照的な生徒が、気に喰わないとでも言いたげにお互いに相手を睨みつけ合っていた。


「いい加減にしろ!!てめぇら学校壊すならおっ()ね!!」


 物騒なセリフを吐きながら、その人は容赦なく最大出力の風属性の魔法を二人の生徒に向かってぶつけた。が、二人の生徒はひらりと身をかわしてあっさりとその魔法を避けてしまう。


 どぉおんっ!!


 的が無くなり地面に炸裂した風はそのまま土を抉り辺りに土煙を巻き上げた。


「風の陣」


 大人しく巻き添えにはなりたくなかったため、私は右手の平を天に向かって突き上げ、私を起点とし少し離れている港先生までを範囲とした円形の風の結界的なものを張り傍にいる人たちを守った。周囲を風が巡り外部からの物理的干渉を排除するだけのものなので周囲への被害などを考えなくて言い分色々と楽だったりする。風を循環させるだけだからか、イメージもしやすいので最低限の詠唱さえすれば事足りるのもポイント高いよね。


 って、あれ?


 なんかみんな、…私に注目してません?


「てめぇ、…新入生か?『瀬を継ぐ者』の家の出じゃぁねぇように見えるが」

「ゆまは惣火ですが」


 郡が庇うように私の前に立ってくれたが、先輩らしき人はそれを聞くと割とあっさり納得してくれたようでなるほど、と頷いていた。剣呑な空気ではなくなったためか、郡も大人しく横にずれてくれた。


「あの『惣火』の『ゆま』か。っつーことはチビ。おまえがさっき使ったの精霊魔法ってヤツか?」

「はい」

「ふぅん…。教会の加護うんたらってのも馬鹿にできねぇっつーことか」


 …確かにじろじろと眺めまわすのは不躾だと思ううが、殺気を向けるほどではないと思うのだが。隣でマジ切れ五秒前みたくなってる郡がすごく怖い。気づいてないのか気にしてないのか先輩はそのまましばらくじろじろ見ていたが、黒白コンビな生徒二人が我に返ったようでまたやらかし始めたので舌打ちをすると仲裁 (仮)に向かおうと走り出した。

 が、もう一人我慢の限界だった人物がいたようだ。


「…君たち。いい加減にしてくれないかな?」


 ざばぁああぁっ


 一瞬で黒白コンビをずぶぬれにしたのは、恐ろしいほど美しい笑みを浮かべた港先生だった。


「てめぇらが生まれてきたことさえ後悔したいってんなら、好きに遊んでたっていいんだぜ?」

『スイマセンデシタ』


 背後でブリザードを振りまきながらきらきらしい笑みを浮かべた先生にはさすがに二人とも敵わなかったようで、彼らは大人しく片言ながら謝罪を述べていた。


***


「気を取り直して自己紹介といこうか。私は港。『水の眷属』と呼ばれる水無の分家だよ」


 先生の名乗りに、私は思わずぐっと拳を握りしめ、ひっそりと身構えた。


 旧家と呼ばれる貴族は七つの本家とその分家により成り立っている。

中でも本家は教会や世間と同じ流れをとり、血を薄めより人間に近づくことを目的とする「主要五家」と、反対に近親婚をしてでも獣人としての血を守り、より濃くしていって属性魔法の使い手を確保し続けようとする「独立二家」に分かれている。

 大抵の場合、家のことで争う以前に人間との関わり方を考えなければいけないため表出化しないのだが、家名を入れた名乗りをしたということは生徒会としての活動になんらかの形で関わってくるのだろう。


「っち。…独立二家『巧闇(くやみ)』の(れん)

「…独立二家、『光井(みつい)』の慶都(けいと)


 黒い方の生徒はイライラとした様子で、白い方の生徒は眠たげな様子で答えました。その様子に、港先生は大きなため息を吐き出します。


「…もう大体わかっただろうけど、僕たちの役目は専ら、彼らを止めることだよ」

「罪悪感とかもつ必要はねぇぜー?コイツら、頭では分かってても抑えきれねぇらしいからな」


 めんどくさそうに物騒なセリフを吐いていた人が続けた。

 なんでも、血が濃すぎる故にか、独立二家は生まれてくる子のほとんどが属性魔法を使える子供であるのと引き換えのように、精神的な疾患を抱えることが多いのだとか。

 …まあ、近親婚も辞さない一族だしね。濃くなり過ぎた血は色々と問題も多いのだろう。

 それで、そもそも特別科特選コースにおかれた生徒会は常に学園に各名一人ずつは居座り続ける巧闇と光井の生徒のガチバトルの仲裁のために置かれた機関だったのだとか。


「他に反りが合わない生徒同士もいるにはいたっぽいけど、そもそも喧嘩に使えるほどコントロールできる生徒自体が少なかったみたいで。それに、コイツら並のガチバトル見ちゃうと一周回ってそこまでやる気にならなくなるんだってさ。

 あ、俺は(あかり)。補佐だよ。ついでにそこで御上土に跪いてるのが副隊長の御端(みはし)で、うるさいのが隊長の井瀬(いのせ)ね」

「御上土とはなんだ御上土とは。主家たる御上土様に対してなんたる口のきき方ッ…!」

「うん。こんな感じで濃いけど、やることはアイツらぼこ―、げふんげふん。仲裁に入るだけだから」


 今、ぼこると言いかけたような。

 まあ、爽やかに見せかけてなかなか強かな灯先輩はおいておくとして、―あと、恍惚とした表情で御上土くんに跪いてはあはあ言い始めてる推定御端さん(仮)も置いといて、―今や猫の姿になってにゃんにゃん取っ組み合いを始めてしまった二人の仲裁に入りますか。

 しかし光井くんの方、紅と蒼のオッドアイの白猫とか珍し、―


 …うん?


「…もしかして、中庭の…?」

「なぁおっ」


 呟けば、光井くんは早々に戦闘を放棄し、やっと気づいたかとでも言いたげに私の腕の中めがけて飛び込んできて、頬に優しくネコパンチしてきた。

 攻撃目的で続いて飛び込んできた巧闇くんは攻撃させる間もなく嫌と言うほど撫で繰り回して戦意を削いでやったけど。ええ。私にかかればいくら強くたって、もふもふさえしてればめろめろにさせることなんて造作もないことなんですからね!


 ほっ、ほんとなんだからねっ?別に羨ましそうな顔してた巧闇くんが可愛いからってガマンできなかったわけじゃないんだからね!?


***


 話し合いの結果、生徒会は独立二家の二人にそれぞれ次のような対応をすることに決定した。


 まず、今年入学してきた巧闇くんは先天的に魔力保有量が多いらしく、溜め込んでしまうと暴走してしまうらしいので、定期的に大規模な魔法の撃ち合いを生徒会のメンバーを相手として行うことになった。


 まあ、解除(キャンセル)だけなら左程難しくもないので撃たせるだけなら別に気負うこともないんだけどね。打消し呪文(アンチスペル)はさすがに難しいけど。

 だって、光属性とかすごくイメージしづらいし…。

 私が大規模魔法で使っているような「詳細の事情を呪文に織り込むことで具体性を補う」という手法は対人戦での応酬となると中々使えないんだよね。詠唱にかかる時間が長くなりすぎて、防御に間に合わなくなっちゃうし。だから私は、基本的に炎や水と言ったイメージしやすいもの以外の属性に関しては詠唱破棄とか打消し呪文使ったりとかは無理なんだよね。

 解除はあれだ。寄り集まって形を成している力をぶちぶちぶちっと千切るイメージを想定すると割とイケる。発動前なら集まりつつある力が蹴散らされるイメージかな。


 ―と、まあ巧闇くんの場合こんな感じだ。

 そうやって魔力を限界までぶちかましまくった後にへろへろになってにゃんこになったところを捕獲して、生徒会室に拉致って撫で繰り回すのが日常になっている。

 巧闇、―というか独立二家は色々と特殊で、下手に無防備な姿で出歩かれても危ないそうなので。

 そうはいっても、私がなでなでしなくても逃亡する力なんてそもそも残っていないように思えたけど。

 ねー、と首を傾げながらうりうりと顎下をくすぐってやると、巧闇くんは喋る元気もないのか「にぃ…」とだけ鳴いて膝でぐったりしてたけど。


 光井くんのほうは猫状態での生徒会室滞在を許可、ということで落ち着いた。

 光井くんはどうやら全属性の古代魔法取得というとんでもない目標の元、一族の狂信者に人体実験されまくった影響で人の姿でいると疲れる、獣化後人の言葉を話せなくなる、などの副作用があるらしくなるべく猫のままでいたいらしいのだ。


 そんなわけで、今年度の生徒会の御仕事は巧闇くんの実地訓練の付き添いと、にゃんこ姿の独立二家の保護となった。


 あ、そうそう。顧問も港先生から東雷先生に変わったんだよね。なんでも、私とスムーズに研究の打ち合わせをするためだとか。港先生はこれを機により魔法訓練の指導に力を入れるそうだ。きらきらとしたとても綺麗な笑顔を浮かべていらっしゃいました。

 郡を始めとした特選コースのみなさん、…ファイトです。


 そして、現在。


 生徒会室は相談室と化していた。


 ……あれ?


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