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もふもふ!【改訂版】  作者: min
高校編(二年生)
31/39

先生と私

 それは、いつものように先生の自室でお茶をもらっていた時だった。


「私が、生徒会に?」

「そうだ」


 というか、生徒会ってなんなんだ。初めて聞いたんだけど。


「今年から二年が普通科と魔法科で合同授業やるようになったり、突然編入生が来たりしただろ。それ関係だ。

 昨年までは『治安維持隊』という名目で二年の魔法科の優秀な生徒と特別科特選コースから選出して、主に生徒が魔法を暴走させた場合に抑える目的でおかれていた。

 新しい理事長はやけに『生徒会』の名前に拘っていたから活動内容は割とどうでもいいんだろう。実際既存の組織の名前変更で通したら簡単に通った」


 先生は言い終えると、深い溜息をついた。


「惣火。おまえは明日からしばらくは昼と放課後は生徒会室だ。研究は時間が空いた時でいい」

「えっと、…引き継ぎですか?」

「そうだ。それと、…あっちの目が厳しくなるからな。あまり活発に動けなくなった」


 その言葉に、思わず、あ、と声が漏れそうになった。

 そういえば、この研究自体秘匿されてたんだっけ。教会の迫害対象になりかねない、とかで。


「特選コース自体該当者が少ないからな。メンバーとして選ばれるほどの実力、となると御上土(みかみど) 颯来(そうき)、惣火の従弟の惣火郡、と、惣火。おまえの三人だな」

「…メンバー少なすぎません?」

「緊急時に活躍する実働部隊なんだぞ?生徒の暴走止める以外の仕事はほとんどないし、あんまりたくさんいてもかさばるだけでムダだ、ムダ。それに大概のことは職員がやるしな。仕事とんな、って話だ」


 やれやれと首を横に振る先生は、疲れているようだった。お茶のお礼も兼ねて、別に子虎になっているわけではありませんが頭を撫でておく。

 …仕事仲間だし、別に普通だよね?


「先生。あまり無理はしないでくださいね?」

「おー…。惣火がいない間も根詰めすぎないようには気をつけるわ」


 先生はちょっと照れくさそうに笑った。男の人にこんな感情を抱くのは失礼な事かもしれないが、眉をへにゃりとさせて、普段吊り気味な瞳が幾分か緩やかになっているのを見ると愛でたい気持ちが湧き上がってくる。

 端的に言うと、すごく可愛いのだ。

 が、さすがに私よりも背が高い先生を欲望のままにわしゃわしゃ撫で繰り回すのも生徒としてどうかと思ったので、今はやめておいた。きっと子虎の姿なら全身余すことなく撫で繰り回していただろうけれど。


「あー、…惣火?」

「はい。どうしました?」

「あー…。その、…な?しばらく思うように会えないだろ?だから…」


 顔を紅潮させ、先生はちらちらとこちらを覗っていたかと思うと、思い切ったかのように止めていた言葉を続けた。


「…撫でて、くれないか」


 先生はどうにか言い切ると、恥ずかしくなったようで俯いてしまった。耳まで赤い。

 私としては大歓迎だったのだが、肉食系女子よろしくガツガツ来られても先生もびっくりしてしまうだろう。内心のお祭り気分を悟られないように、私はできるだけいつも通りを心がけて笑顔を作った。


「断る理由がありませんよ、先生。私も先生と一緒にお仕事する時間が減っちゃうの、寂しいですし」


 言うなり、先生は子虎になって膝に飛び乗ってきた。突然の奇襲にびっくりしながらも受け止めると、綺麗に着地した先生は私の腕に顔を擦り付けたり、掌に頭をこすり付けたりして甘えはじめた。

 今となっては大して珍しくもなくなったこの触れ合いだが、始まった当初は教師にこんなことしてもいいのかな、と少し疑問に思ったこともあったのだ。

 その時正直に先生に直接話してみたのだが、絶望的な顔をされたのでその後はお口にチャックをしている。うまく言い表せないのだが、世にいう「世界の終わりを見たかのような顔をしていた」とだけ言っておこう。そのぐらい酷い顔をしていたのだ。


 なんでも、今までは獣の姿で甘やかされたことは無かったのだとか。


 旧家の立場上、血が薄いならともかく、血が濃いとものすごく嫌悪されるのだ。まあ、家により逆の立場をとるところもあるが。ともかく、血を薄めることを推進している家では先祖返りは嫌われる。郡がいい例だ。先生は幸い属性魔法が使えたために同時に畏怖もされていたそうなのだが、素性を隠して人として甘やかされるならともかく、全てわかってしまう獣の状態で甘やかしてくれる人はいなかったのだとか。

 だからいいんだよ仕事仲間だろ撫でろ、と言わんばかりにぐりぐり頭を押しつけられて、私もうっかり「まあいいか」なんて思ってしまったためこんな関係が続いている。


 …子虎の姿だから、なでなでもふもふしても別にセクハラとかにならないよね?


 そのあたりがあいまいなのでどうにも距離がとりづらかったのだが、気にしないことにした。考えていたらキリがないし。私も癒されるし、先生も甘えることができる。ウィンウィンの関係だ。そういうことにしておいた。


 なでなでに備えて待機していた先生をころんと転がしてお腹あたりをわしゃわしゃやると、先生はうっとりと目を細めた。その様子も可愛くて、眉間あたりをうりうりと指で撫でてやる。子虎姿なので可愛いだけなのだが、先ほどのテンションのまま撫で繰り回したり頬ずりしたりしていたらいくらなんでも生徒と教育者的観点でアウトだったかもしれない。甘える・甘やかすというよりなんというか、…猫かわいがりだし。先生もそこまでされるのは嫌かもしれないし。

 さすがにそんなのは身内な郡くらいにしかできないよね。

 奇襲でびっくりして多少冷静さが帰ってきて、ちょうどよかったのかもしれない。


 去年は、どの学科に配属されるかで揉めて転科まみれになりそうだったり、私に謂われない非難をした先生が解雇されたり、なんだかんだで東雷先生と研究をすることになったりでとても慌ただしい一年だった。今年はのんびりすごせるのだろうか。


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