転科してからの私
みなさんこんにちは。ゆまです。
先日、先生の宣言通り特別科特選コースへの移籍が決定したゆまです。プロジェクトに関しては特別科の方たちには暗黙の了解であるらしく、彼らは一様に同情的な視線を送ってくれた。
なにせ私、授業時間以外はほとんどプロジェクトにかかりきり。
東雷先生は先生であるのにあまり校舎内で見なかったからなんの授業を受け持っているのだろうと疑問に思うことがあったのだが、納得。
先生はなんの授業も受け持っていなかった。
先生はプロジェクトの理論構築班として校舎内に設けられた自室で延々と解析を続けていたのだ。
プロジェクトに関わっている人たちには他にも、各地に散らばり特異例を調査し報告する諜報班、教会の人間と接触し教会の精霊魔法に対する解釈の変動が無いか見張る監視班、プロジェクトの情報漏れが無いか警戒する護衛班などがあるのだが、そういった人たちは大抵二、三人のチームが複数存在しており、交代制で活動しているそうだ。
しかし、先生に関して言えばソロ活動だった。
何故なら精霊魔法に通じている獣人、というのがそもそも少なかったからだ。
精霊魔法自体に興味が無い獣人もいないでもないものの、その本質を分かっているかどうかといえば別問題。
例の暴言教師のように憧れを拗らせているだけの頭でっかち派など論外だし、そうでなくても多少は精霊魔法について教養のある普通科クラスの獣人は実際に魔法が使えない分理論を立てても実践と剝離しすぎていて使えないことが多いとか。なにより、普通科クラスの獣人は精霊魔法についての知識が多少あったとしても反対に古代魔法についての知識は全くと言っていいほどないため両者の比較どころか用語による躓きが出てきてしまい、意思疎通を図ることさえ困難になるため断念したとか。
そんな中、旧家出で先祖返りであり古代魔法に優れ自らが使用できる属性魔法までも極めながらも、精霊魔法に関心を持ち独学でその道の人とも議論を交わせるほどの知識を身に付けてしまった変わり者が東雷先生だった、というわけで。
先生は忙殺されていた。
そもそもどこから比較すればいいのか分からない。
違いは分かるが共通している部分なんて見当もつかない。
行き詰っても自分と同程度に話せる人材がそもそも存在していないため、一度ドツボにハマるとハマりっぱなし。
理事長は古代魔法に関しては通じているそうでそちらのことに関しては話せたようなのだが、精霊魔法については自分も本を使って独学で勉強したに過ぎないのにまともに話し合える人材がいないから確認しようにも自分なりの解釈で資料を見直すしかなくて、…という虚しさ。
発案・検討・結論の一連の流れ全てが自分主体。
もういい加減に、新しい刺激が欲しいと思っていたところだったそうだ。
そこに来て、私の既存体系をぶっ壊すような破天荒な新理論。
先生は新たな視点の開拓に喜び、一気に勢いづいた。
そんなわけで、プロジェクトチームの理論構築班に所属することとなった私は魔法理論の授業時間と授業が無い空き時間は先生の自室に共に引きこもるようになったのだが、所属してしばらくの間は先生が今まで立ててきた理論の見直しをしていた。
先生はその頃、ノリノリで私の理論を解析していた。
時々その結論に至った経緯やら考えの根拠やらについて聞かれたけどそれ以外は概ね自由だったので、暇だった私はとっちらかされていた先生の理論を勝手に読んで、勝手に解釈して、勝手に講評を書いていた。
先生の質問に答えなくちゃいけないから先生の自室からは出られなかったけど、先生に質問される時以外は何もすることがなかったから…。時間を潰せるものを用意していなかった先生の落ち度、ということで。
一応そんなことをちまちまやってたから、私の理論の解析やら検討やらを終えたらしき先生にその講評渡してみたんだよね。
そしたらなぜかガン泣きされた。
余程動揺したのか先生、小さな虎の姿になっちゃっていた。
まあ、今までずっとぼっちでカンヅメ生活ガマンしてきたわけだし、一日くらい休んでもバチは当たらないだろうと抱きしめてなでなでしていたらほどなくして寝落ちしてしまった。そのままどこかに寝かせて帰ろうかな、とか思ったんだけど先生がっつりスカートに爪立ててたんだよ。
退かせようとしても嫌がるように余計爪立ててくるので太腿まで爪が到達するんじゃないかという恐ろしい想像に憑りつかれてだな…。
結局、二時間くらいそのままだった。
先生はその日以降、たまに休憩と称して子虎になって私の膝の上でころころ転がるようになった。可愛いから私は別にいいんだけど、…一体先生の中で何が起こったんだろう。今までは教師と生徒、という一線を引いて弱みなんて一切見せやしない、という体だったはずだったのだが。